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輪島朝市で過ごしたかけがえのない時間…温かく元気なあの朝市の様子を今すぐ伝えたい理由〈能登半島地震〉

集英社オンライン / 2024年1月4日 11時56分

元旦に発生した令和6年能登半島地震。その被災の様子に、昨年秋に彼の地を旅したばかりの僕は言葉を失った。なかでも大火災に見舞われた輪島朝市で過ごした時間はかけがえのない思い出となっている。その明るく活気に満ちた温かな朝市の様子を少しでも残しておきたく、本稿をお届けする。

能登半島一周の途中で立ち寄った、活気あふれる輪島朝市

2023年11月14日の午前8時頃、その町に到着した。
自力でカスタムした軽バンの車中泊専用カーに乗り、東京の家を発ったのは2日前。
5泊6日の日程で北陸地方を巡る旅のなか、石川県輪島市河井町の“輪島朝市”に立ち寄ることにしたのだ。

朝市通りにほど近い輪島川にかかる赤い橋

日本三大朝市のひとつに数えられる輪島朝市は、平安時代に始まり、明治以降は毎日開催されるようになった伝統の市場。


「朝市通り」と呼ばれる約360mの商店街に、最大で200以上の露店が立ち並び、地元の人から観光客まで数多くの人々が訪れ、とても賑わうという。

海沿いの駐車場に車を停めた僕は、さっそく朝市通りに赴いた。
通りの両脇には雨風よけのタープを立てた露店が並び、活気のある声がそちらこちらから聞こえてくる。

あいにくの天気にもかかわらず、たくさんの露店が並ぶ輪島・朝市通り

平日だったためか、店の数も客の数も想像していたよりは少なかったが、むしろそのおかげで落ち着いた雰囲気が漂い、観光名所ではあるものの、地元の昔ながらの朝市にお邪魔しているような気分になることができた。

地元の人も観光客も、露店を見ながらそぞろ歩く

通りの端から露店を一つ一つ覗いていくと、土地柄を反映し、カニをメインとした魚介類や干物などの海産物を扱う店、秋に収穫した地元の野菜や果物を売る店、また有名な輪島塗の箸や食器など工芸・民芸品を売る店などが並んでいた。
店先に立つのは年嵩の女性が多く、通りを歩く客に、「どうぞ、見てってー」「カニ、お安くしますよー」などと威勢よく声をかけている。

立派なベニズワイガニが目につき、そのうちの一軒で立ち止まると、「カニですか? 輪島の海で獲れたばっかりだから、美味しいよお」とおばちゃんが声をかけてきた。
でも僕の車中泊旅はこの先も数日間続く予定だったので、ここで生ものを買って持ち歩くわけにはいかない。
「東京に送れます?」と聞くと、おばちゃんは「もちろん。明日には着きますよ」と答えた。

美味しそうなカニに引き寄せられた

そこで東京にいる妻にLINEのビデオ通話をかけ、何を送ってほしいか聞いてみることにした。
妻はこちらの映像を見ながら、「ズワイガニ美味しそう! あ、香箱ガニもある! それ、珍しいんだよ。あとは何がいいか、お店の人に聞いてみて」と指令を出してきた。

「妻がそう申しておりまして、おススメはなんでしょうか?」と言う僕に、おばちゃんは「奥さん?」とニコニコしながら聞いてくる。
「そうなんです。もう言いなりで」と答えると、おばちゃんは「それがいいわ。円満円満」と言ってケラケラ笑った。
そして「じゃあ干物にしたら。おすすめはふぐ、のどぐろ。赤魚も美味しいですよ」と教えてくれた。
結局、ベニズワイガニ一杯、香箱ガニ三杯、そしてのどぐろと赤魚の一夜干しを各一尾ずつ、東京の家に送った。

香箱ガニを店先で食べさせてくれた人、和ぐるみの食べ方を教えてくれた人

それらの海産物が自宅に届いた頃も僕は旅を続けているはずなので、自分では食べることができない。
でもどうしても輪島産の海の幸が食べたくなった僕は、また別の露店で、食べやすくバラして茹でてある香箱ガニを買った。
車に戻ったらすぐに食べてみようと思ったのだ。

ちなみに妻が即座に反応した香箱ガニとは、ズワイガニの雌の石川県での呼び名。
11月〜12月の時期に、限られたエリアでしか獲れないという一種の“幻のカニ”で、食通の間ではとても人気が高いものなのだそうだ。
グルメにはめっきり疎い僕には初耳だったが、そんなに貴重なものならこの機会にぜひ味わってみようと思った。

香箱ガニのボイルを1パック購入

香箱ガニを一パックだけ買って立ち去ろうとする僕に、その店のおばちゃんが声をかけてきた。
「お兄さん、自分で食べるんでしょ。いま食べてったら?」
そして露店の正面に立つ建物を指差し、「あそこ、うちの店だから。中で食べてっていいよ」と割り箸をくれた。

誰もいないその店の中に入り、机と椅子を借りて香箱ガニを食べてみた。
これがまあ、美味いのなんの。
プリプリして柔らかい肉は濃厚な旨みに溢れ、ツブツブの卵をカニ味噌に絡めて食べると最高の味わいだった。
グルメに疎いので食レポはこんな凡庸なもので申し訳ないが、本当にチャンスがあったら、香箱ガニはぜひ食べてみるべきものだと思う。

「ここで食べてって」と店の中に案内してくれた

香箱ガニを堪能した僕は食後、露店のおばちゃんに「最高に美味しかったです。ありがとうございました」と礼を言うと、「そうでしょ!」と嬉しそうに笑い「また来てください〜」と手を振ってくれた。

輪島朝市のおばちゃんたちは、とにかくみんな元気で明るい。朗らかな雰囲気に包まれ、僕のような観光客もウキウキした気分になってくる。
そんな場所だった。

次に足が止まったのは、柿やぎんなん、梅干、とうがらしなど輪島の山の幸を売る露店だった。
気になったのは、そこに並べられている“輪島産くるみ”。
西洋くるみではなく、日本に古くから自生する和ぐるみのようだった。
ナッツ類が好物である僕は、この和製くるみが特に好きなのだが、なかなかまとまって売っている店はないので、「見つけた!」という感じだったのだ。

ネットにたっぷり詰め込まれてたったの200円。
喜び勇んで買い求める僕に、店のおばちゃんは「美味いよお、固いけどね」と釘を刺してきた。
そう言われ、考えてみると、家にはくるみ割り器などない。
西洋くるみだったら、隙間にスプーンの先を差し込んで少し捻ればパカンと割れるが、“オニグルミ”とも呼ばれる日本のくるみは殻が異様に固く頑丈で、そう簡単に割ることができないのだ。

山の幸を売る露店

そこで「どうやって食べればいいの?」と聞いてみると、おばちゃんは、そんなことも知らんのかねというような表情で目を見開き、「金槌で割らんと!」と言った。
「はあ、金槌ね……」と僕が少し考えあぐねていると、おばちゃんはわざとあきれたような声で「こりゃまあ、一年食べられないかもしれんわ」と言い、楽しそうに笑った。
なんだか僕も愉快になってきて、一緒に笑いながら「まあ頑張ってみますわ」と答えた。

すべて焼けてしまった輪島朝市。皆さん、どうかご無事で

2024年1月1日。
そんな温もりに満ちた輪島朝市の町が、大地震に伴って発生した大火に包まれ、焼け野原になってしまったという。
そのニュースに接し、僕は言葉を失った。
ただただ、あの町の元気で優しい人々が無事であってくれと、本当に本当に心から願うばかりだ。

活気に満ちた輪島・朝市通り

そして無事であったとしても、きっと多くのものを失って悲しみに暮れているであろう町の皆さんのことを思うと、何か手を差し伸べることができないかと考えた。
でも僕のような何もできない者が、勇んで現地に行ったとしても、現時点では邪魔になるばかりだろう。
そこで僕はこの原稿を書き、得られる原稿料と同額の支援金を、Yahoo! JAPANのネット募金システムを使い「Yahoo!基金」に寄付することにした。
https://donation.yahoo.co.jp/detail/1630064

もちろん支援の形は人によって様々だろうが、悲しいことにこうした混乱の時期には、義援金詐欺を働くクソみたいなやつらも跋扈するので、あてのない人はYahoo!のようなしっかりした組織へ送金するのが良いのではないかと思います。

輪島の皆さん、今は大変だと思いますが、少しでも早く平穏な日々が戻りますように。
皆さんのことを、心から思っています。

結局、ネットでくるみ割り器を買い、美味しくいただきました

写真・文/佐藤誠二朗

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