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「読者に被害者になってもらうことで、当事者性を持たせたい」ネットホラーの寵児・梨が考える、この世で最も怖いと考える“恐怖の根源”とは?

集英社オンライン / 2024年1月17日 17時1分

『かわいそ笑』『6』などの小説をはじめ、BSテレ東『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』の構成や考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』のストーリーを考案するなど、新進気鋭のホラー作家として注目を浴びる梨さん。江戸時代から現代に至るまでの怪談の変化や、ホラーを書く際に考えていることなどを聞いた。

江戸時代の怪談とネット怪談、内容の違いはあまりない

–––梨さんは『その怪文書を読みましたか』展(以下、怪文書展)のようなリアルイベントやインターネットの記事、書籍、映像など、さまざまな媒体でホラー作品を発表されています。発信する媒体によって、受け手側の感じる怖さは変わると思われますか?

書き手としては、怖さの本質は特に変わらないと思っています。それぞれの媒体によって怖さを効果的に感じてもらうための「出力方法」が変わる、という感じですね。



たとえば怪文書展は、リアルイベントだからこその演出の仕方で、怖さが最大になるように設計しました。書籍化にあたっては、また違う方向で怖くなるように編集者の方が尽力してくださいました。怖さの核は変わらないけれど、核へのアプローチ法が変わる、という感じでしょうか。(梨さん、以下同)

–––「怖い話」というものは江戸時代、ひいては平安時代の源氏物語にも「生霊」という概念が出てくるなど、昔から存在するものですよね。現代のネット怪談や都市伝説に至るまで、「怖い話」にはさまざまな変遷があったと思うのですが、梨さん的に一番興味深いと思う変化は何でしょうか。

私自身は、「怪談の内容はそんなに変化していない」と思っていて。以前、大学の研究としてネットロアと古典怪談の内容を分析したことがあるんです。そうしたら、意外と違いがないことがわかりました。「洒落怖」の八尺様と、江戸時代の『雨月物語』にある「吉備津の釜」には似たようなシーンがあるんですよ。

媒体は時代によって変わっていくので、それを活用した話が新しく出てくることはあります。たとえば、「不幸の手紙」が、時代を経て「チェーンメール」になったり、インターネットが出てきてネット掲示板の形式を利用した怪談が生まれたり。でも「四谷怪談のお岩さんが井戸から出てくる」が「リングの貞子がテレビから出てくる」になるのって、内容的にはほぼ同じですよね。

恐怖の根源というものは今も昔も、超自然的なもの……たとえば幽霊や怪異、あとは死、身の危険が迫ること、不可解なこと、人の悪意などに収束するのではないでしょうか。

2023年6月に刊行された『6』(玄光社)。「死への恐怖」を呼び起こす6つの話を収録

当たり前のものが怖く感じる、「座りの悪い」怖さが好き

–––大学では文化人類学を専攻されていたとうかがいました。当時学んだことで、ホラー作品を書く際に活かされていることはありますか?

異文化社会の研究をするには、フィールドワークが欠かせません。ときには、海外の僻地の部族のコミュニティで数か月生活をともにして、参与観察することもある。そうしたときに現地の習俗や文化を否定せず、ただ理解しようとするという接し方が、ホラーを書くときの根本的な姿勢になっているかもしれません。

たとえば、私は河童や幽霊が実在するかどうかには興味がなく、そうしたものを受容しているコミュニティがなぜそれを実在すると思っているのかを探求し、あわよくばその考えや振る舞いをインストールしたい、という気持ちがあります。心霊現象そのものではなく、心霊現象を体験している人の内面にフォーカスして、描きたいんですよね。

–––先程「恐怖の根源は数個に収束する」というお話がありました。梨さんが一番怖いと思うのはなんですか?

最近は恐怖に対して麻痺してきて、とても怖いホラー映画などを観ると怖くなるよりうれしくなってしまうんですよね……。怖ければ怖いほど「これ自分が思いつきたかったな」と思ってしまって、恐怖が感じられないんです(笑)。

一方で、どういう怖さが一番好きか、というのは最近わかってきました。それは「異化効果」によって生まれる怖さです。

怖さにもいろいろな種類がありますよね。大きな音や急な画面の変化で驚かせて怖がらせる「ジャンプスケア」と言われるものや、ゴア表現(身体を破壊するような残虐な表現)、化け物のような不気味な怪異……私はそういうものよりも、当たり前のものが異常に見えてくる「座りの悪い」怖さが好きなんです。

子どもが笑いながら遊んでいる光景は、お昼どきの公園で出くわすと微笑ましいですけど、深夜の路地裏で遭遇したら「えっ、なんでこんな時間に?」とゾッとしますよね。

–––寄稿されている『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』では、モキュメンタリーのジャンルを担当されていました。モキュメンタリー・ホラーは近年人気のジャンルですよね。

背筋さんの作品『近畿地方のある場所について』が、近年のネットホラーの形式をフル動員したモキュメンタリー・ホラーの集大成だと思っています。バラバラの情報があって、真相に向かって一つにつながるというホラーの人気がこれでかなり高まりましたが、このムーブメントももうすぐ終わりそうだと私は考えているんです。

考察系ホラーは、読者の負担が大きいんですよね。だから、メインにはなり得ない。次第にフォーマット化されて、新たな人気ジャンルが出てくるのではないかと予想しています。ホラーに限らず、ネット創作はその繰り返しですよね。

株式会社闇が手がけたアンソロジー『ジャンル特化型 ホラーの扉 八つの恐怖の物語』(河出書房新社)

当事者性をもってもらうために、読者を被害者にする

––––梨さんの作品の感想を読んでいると、ときどき「意地が悪い」と書かれていることがあります。

当事者性の問題でしょうか。当事者性を持ってもらえると、没入感を高められるので、それを狙って書くことがあります。書籍やネット記事という媒体の場合、その情報を読んだ、目にしたという当事者性はすぐ持たせられるのですが、それ以外にも何か当事者意識を持たせることはできないか。そう考えると、一つあるのは「被害者になってもらうこと」なんです。

––––被害者、ですか。

知らず知らずに何かの片棒を担がされていたとか、呪いに加担してしまっていたとか、そういうことですね。あまり直接的にやると興ざめするので、バランスが難しいところでもあります。

ホラーの文脈において当事者性を持たされるのは、「嵌められた」とニアリーイコールだと言える。だから、「意地が悪い」という感想が出てくるのかな、と思いました。

––––うまく嵌められた場合は意表を突かれる快感もあるので、「意地が悪い」は称賛の言葉かもしれませんね。最後に、ホラーに関係なく好きなジャンルの作品やエンターテインメントについてお聞かせください。

最初に思い浮かぶのは現代詩ですね。短歌なども好きで、先日木下龍也さんのサイン会に行きました。あとは、恋愛ものや青春群像劇が好きなんですよ。最近観た作品だと、『愛がなんだ』や『花束みたいな恋をした』、『君の名前で僕を呼んで』もすごくよかったです。

––––すごく意外です……梨さんのホラー作品にはない、人間的な心が感じられます(笑)。

私はもともと同人作家として、ホラー以外の文章を書いていたんですよ。このままだとホラーの人になってしまいそうなので、最近は同人誌で歌集を出すなど、ホラー以外も書くことをアピールしています。ホラーももちろん書き続けますが、今後は別ジャンルの作家としての顔ももっと見せていきたいですね。

2024年1月26日に発売される単著第3作目『自由慄』(太田出版)

インタビュー・文/崎谷実穂

その怪文書を読みましたか

梨、株式会社闇

2023年12月12日

2420円(税込)

A5判/128ページ
発行:太田出版

ISBN:

978-4-7783-1900-7

チケット即入手困難、渋谷を騒然とさせた伝説の展覧会、禁断の書籍化

展示された怪文書100点以上を大収録!
誰が、どこで、なぜ、この“怪文書”を書いたのか──

掲載されている「怪文書」は、全てフィクションである。
なぜこれほどしつこく忠告するかといえば、端的に危険だからだ。
──ダ・ヴィンチ・恐山

※この書物は普通ではありません

■怪文書(かいぶんしょ)
“ 意味不明な主張をしている文章のこと。
内容は誹謗中傷や被害妄想、非現実的なものが多い。
ほとんどが根拠不明で誤った情報を元にしている。”
──本当にそうなのでしょうか?

『その怪文書を読みましたか』刊行記念トークイベント in 大阪ロフトプラスワンウェスト

出演者 梨 , 株式会社闇・高木 , 背筋(リモート出演)
開催日 2024年1月21日(日)
開場日時 12:00 開演日時 13:00
会場 Loft PlusOne West (大阪府)

《会場チケット》
前売¥2,000 / 当日¥2,300(+drink)
会場チケットはLivePocket(https://t.livepocket.jp/e/e3g4m)にて発売中
《配信チケット》¥1,500
配信チケットはキャスマーケット(https://twitcasting.tv/plusonewest/shopcart/283663)にて発売中
※アーカイブは2月4日 22:00まで購入可/2/4 23:59まで視聴可能

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大阪展
場所 心斎橋オーパ 9F OPA GALLERY
開催日 2024年1月13日(土)〜1月28日(日)
時間 11:00〜21:00(最終入場20:30)

博多展
場所 hmv museum 博多
開催日 2024年3月16日(土)〜3月31日(日)
時間 11:00〜21:00(最終入場20:30)

料金 体験 1,200円(税込)
注意事項 土日祝日のチケットは日時指定制です。
平日券では入場できません。予めご了承ください。

WEB https://yomimashitaka.com/
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