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4億PV超の人気縦スクマンガ『サレタガワのブルー』ヒットの裏側! 不倫のリアルと、徹底的にスマホ読者を想定したこだわり

集英社オンライン / 2022年5月31日 9時1分

4億PVを記録しているマンガ『サレタガワのブルー』。縦スクロール作品の中でもNo.1ヒット作と言われる同作は、2021年にはMBS毎日放送にてドラマ化もされたほどの人気っぷり。そのヒットの秘密を作者であるセモトちか先生と担当編集の北室美由紀氏に聞いた。

マンガMeeで毎週金曜日に更新され、多くの女性を中心に話題を集めている『サレタガワのブルー』。同作は愛妻家のハイスペックな夫・暢(のぶる)が妻・藍子(あいこ)に不倫をされたことをきっかけに、離婚へ向けて戦っていくドロ沼系人間ドラマを描いたストーリーで、すべてのページがフルカラーで描かれているのも特長的だ。

ドラマ化でも話題になった同作は、マンガMeeのランキング内でも幾度となくトップを獲得。2022年5月現在、4億PVを突破するほどの人気ぶり。縦スクロール(以下、縦スク)作品の中でもNo.1ヒット作と言われている。



なぜ、同作がここまで支持されるのか作者・セモトちか先生と、担当編集の北室美由紀氏に話を伺った。(『サレタガワのブルー』のあらすじ、魅力はこちらから

男性にも共感される“不倫したくなくなる”不倫マンガ誕生秘話

――『サレタガワのブルー』はどのように生まれたのでしょう?

セモトちか 作品は「こんなマンガを読みたいな」というものを生み出すようにしています。不倫をテーマにした作品は、ドラマや映画をよく観ていたこともあり、いつか絶対に挑戦したいと思っていたジャンルでした。また、世にある不倫をテーマにした作品の多くが不倫を“シタガワ”の切ない禁断の恋を描いたものが多いことに対して、「現実はそんなことないのにな」という気持ちがありました。それで「これまでにない不倫の現実を描いたようなマンガを作ってやろう!」と思ったんですよね。

――担当編集の北室さんから見て、サレタガワのブルーが4億PVを記録するほどの人気作品になった理由はなんだと思いますか?

北室 男性が主人公の少女漫画はあると思うのですが、その中でも男性側にもすごく共感を得られるように描かれているなと感じます。また、物語のテンポ感もすごく良くて、売れる要素を全部押さえているなと思います。
そういった要素が反映されているのは、セモト先生の感覚値が優れているのに加え、すごく研究熱心だからというのもありますね。たくさん取材をしたり、日頃からマンガをたくさん読んで「こういうところが良い」と客観的に分析をしたりして、自分の作品に投影させる技術がすごいんです!

――北室さんの分析ポイントにもありましたが、たしかに“サレタガワ”の男性である暢が主人公なのは珍しいですよね。暢を主人公にしたのはなぜでしょう?

セモトちか 私の周りの人の話を聞いたり、取材する中で、“サレタガワ”が女性であることが多いなという印象を受けました。そこで、世の中の男性に“不倫をしたくない”と思ってもらうにはどうしたら良いかを考えたんです。

その結果、男性を主役にして“サレタガワ”の辛さを経験してもらえたら、世の中から不倫をする男性が減るのではないかなと思ったんです。

――これまでに特に人気だった回を教えてください。

セモトちか 自宅のクローゼットに全裸で隠れていた浮気相手の和正と暢が対峙する回(61話)と、藍子と和正が裸のまま暢に土下座をする回(62話)は、物語が佳境に入るところだったこともあり人気でした。連載前から「こういうシーンは描く」と決めていたシチュエーションのうちの1つだったので、個人的にも思い入れがあります。

伝説の全裸クローゼットが描かれた61話

北室 セモト先生は考えて考えて捻り出すより、いっきに情熱のまま描いたシーンのほうがおもしろい方なのですが、一番読まれたクローゼットの回はまさにセモト先生の持ち味が顕著に出ていたシーンかなと思います。

セモトちか たしかに。「(このシーンが)やっときたー!」と思いながら描いたシーンでした(笑)。

取材を活かして追求した不倫の“リアル”

――「サレタガワのブルー」には個性的なキャラクターが多く登場します。キャラクターのイメージは、どのようにして生まれたのでしょうか。

セモトちか 不倫を“シタガワ”にも“サレタガワ”にもたくさん取材しました。不倫を“シタガワ”の方には「絶対バレない自信がある!」という人が多かったのは発見でしたね。和正や藍子の発言のアイデアになっています。

それからキャラクターを描く際は、自分の中にキャラクターを降ろして描いています。だから、のぶくん(暢)に感情移入した時は「うっ…」と吐きそうな感覚に陥り、藍子を描く時は「こんなこと考える人を自分に憑依させるなんて!」と思ったりしましたね(笑)。

――なるほど。ちなみに藍子はファンの間ではサイコパスとかけて“アイコパス”と言われるくらい、モラルフリーな言動が印象的です。藍子というキャラクターはどのようにして作り上げたのでしょうか。

セモトちか 藍子は本当はイイ女なんですよね。私の中には持ち合わせていないような強さを持っている。“シタガワ”にも関わらず「慰謝料は絶対払わない!」と主張できる人なんです。

そんな藍子を描く上で、実は担当編集の北室さんの強さに影響を受けています。暢が独身時代に買ったマンションなのにも関わらず、藍子さんが「マンションは共有財産だから!」と言い張るシーンは、北室さんの発想があってこそ生まれた部分です。悩んだら「北室さんだったらこう言うかな?」と想像しながら藍子を描いていました。

北室 相手の落ち度を見つけて「そういうことをするから私がこうなったんだぞ」「私は悪くない」という戦法を、藍子にはどんどんやっていってもらおうと思って提案していました。女性の中には喧嘩の最中に話を徐々にすり替えていって、「あなたが悪い!」という風に持ち込むのが上手い人がいるじゃないですか。私も、プライベートではたまにそういうことしちゃいます(笑)。

35話で暢に責任転嫁する藍子

――そうだったんですね。インパクトの強いシーンも多いのですが、ストーリーのアイデアは取材で得たエピソードから取り入れたものも多いのでしょうか?

セモトちか “シタガワ”のLINEのやりとりは結構参考にしましたね。ピンポイントで言うと、不倫相手に裸や局部の写真を送るというのは結構“あるある”だということを知りました。

私から見たらバレたら決定的な証拠になりかねないのになと思いつつ、“シタガワ”からすると結構スリリングで楽しいのかもしれません。“サレタガワ”の気持ちを想像すると厳しいですけどね。

それから「外で浮気して帰ってきた夫に、何事もなかったようにご飯を作らされた」と話していた女性が多かったのが印象的で、“サレタガワ”である主人公・暢が浮気して帰ってきた藍子のためにご飯を作るというシーンを入れました。どちらも「“サレタガワ”の気持ちに立ってほしい」という気持ちで、取り入れています。

24話で浮気して帰ってきた藍子のためにご飯を作る暢

――作品には「浮気現場は3回押さえる」などの法律的なポイントもたくさん出てきます。現実的な法律のポイントを取り入れようと思った理由は?

セモトちか 不倫された時の対処法には教科書がないので、学びがあるマンガにもしたかったんですよね。不倫って自分の身に起こるまで知らないことが多いじゃないですか。例えば、不倫の時効は不倫の事実・相手を知ってから3年だということってほとんどの人が知らないと思うんです。不倫をされて許したとしても、後から「やっぱり嫌だ!」となる人も多いと思うので、そういう知識はきちんと知っておいたほうが良いと思って弁護士さんに取材をしました。

実際の法律に関わる発言が描かれた第21話の1コマ

――リアルなストーリーを作る上で“これだけはブレない”という軸みたいなものはありますか?

セモトちか コメント欄はよく見ていますし「こうなってほしい」という意見も拝見しているのですが、それに左右されないようにしています。読者さんのことを愛しているので、自分の気持ちの中でせめぎ合いはあるんですけど、「こういうのはみんな考えるからダメだな」という感じで予想のつかない展開にしているんです。

スマホ読者を意識し「読みたい!」と思わせるこだわり

――縦スク作品はコマ割りも独特ですよね。表現方法で気をつけていることはありますか?

セモトちか スマホで読むので1つ1つのシーンのサイズ感は、気にしていました。縦スク作品は時間の経過がわかりやすい一方、場面がどこかわかりづらくなってしまいがちなので、全身のコマを5コマに1回ぐらい入れるようにしています。

――担当編集の北室さんから見て、『サレタガワのブルー』の縦スク作品としての魅力はどこだと思いますか?

北室 セモト先生はデビュー作から縦スクで描いてらっしゃることもあり、縦スクロール作品ならではのリズム感、場面展開の仕方などの感覚値が優れているなと思います。
実際、1話のネームに関してはほぼ一発OKだったんです。暢の好感度や、ここから不倫が始まるんだなと匂わせるような雰囲気、縦スクロール特有のテンポの良さもばっちりでした。

――セモト先生は縦スク作品だからと意識されて描いたポイントはありますか?

セモトちか 縦スク作品は通常のマンガよりも、カジュアルであることが大切かなと思っています。忙しい現代人が空き時間にスマホで気軽に読むには、テンポが良くないといけないので、そこは常に意識していました。

あとは、「続きが読みたい!」と思ってもらうために、毎回ヒキは意識していましたね。オチが弱いと「大丈夫かな?」と心配になってしまって、何度も何度も描き直していました。

北室 たしかに「ヒキ大丈夫ですか⁉」と聞かれて、「大丈夫だよ」と返すやりとりは何度もしましたね。とにかくそこに細心の注意を払って描いてくださっていました。

――現在は、キャラクターたちの離婚後の人生について話が展開していますね。あれだけ非難されていた藍子の行く末を読んだ読者から「成長してほしい」というコメントも見られるようになりました。

セモトちか 藍子は浮気相手を本気で好きになってしまっただけですからね。強くて良い女なのに幸せになれないタイプなんですよ。北室さんも藍子が大好きですよね。

北室 ただただ「すごく恋をしたいだけの人」なんですよね。藍子が周りの人のことを考えられるようになれたら間違いなくイイ女なんですけど、そこがなかったから、自己中の恋愛体質女みたいになってしまっているだけなんです。

藍子が結婚すると無理やり言わせたシーン(34話)

北室 周りを考えられない子供っぽいところはあるにせよ、すごく純粋ですからね。それに藍子のような恋愛体質な人は実際に多いと思います。「彼氏に誘われたら友達との約束を断る」とか、そういった人のちょっとパワーアップ版なだけ。だから、彼女を身近に感じる読者も多く「藍子に成長してほしい」という親心を抱いてしまうのかなと思います。

セモトちか 不倫した人も、された人も、その後の人生は続きますからね。藍子に対して「天罰を!」という声もありますし、「そろそろ助けてあげなよ」という声もあり。藍子の人生がどうなるかは、最終回でのお楽しみですね。

――『サレタガワのブルー』はどのように展開していくのでしょうか。読者の方にメッセージをお願いします。

セモトちか 実はもう最終話までのストーリーは完結できています。台本はできているので、あとは描いていくだけですね。丸3日かけながら、いろんなキャラクターを自分の中に憑依させて台本を描いたので、楽しみにしていてほしいです!

――縦スク作品はこれからもどんどん増えていきそうだなという印象を持っています。セモト先生のように縦スク作品を描くことに挑戦したい人へ一言お願いします。

セモトちか 私自身、社会人を経験した上で「マンガを描いてみようかな」と思いデビューに至ったので、縦スク作品は取り組みやすいんじゃないかなと思います。横読みは、レジェンドマンガが凄く多いですけど、縦スクの世界はまだ新しいですし、今の時代にも合っているかなと。漫画家の夢を諦めた人にも挑戦しやすいと思うので、ぜひ一緒に盛り上げていただきたいです!

――ありがとうございました。

“不倫したくなくなるマンガ”というキャッチコピーを体現したような、ゾッとするような瞬間が何度も押し寄せる同作。リアルな心理描写と臨場感、そして、これまでの不倫マンガにはなかった多くの学びが詰まっている。セモト先生と担当編集の北室さんに話を聞いて、同作が縦スクマンガNo.1ヒット作となった背景には、多くの人への取材や、日常にあるさまざまな観点からの着想があり、研究熱心な著者だからこそ作り上げることができた作品だと感じた。
不倫を“シタガワ”と“サレタガワ”。その両者の現実的な悲しみや苦しみを描きながらも、それらを乗り越えて生きていく、その先のストーリーは一体どうなっていくのか。これまでも、予測できない数々の展開を迎えてきた同作のラストに期待せざるを得ない。

作品情報
サレタガワのブルー
セモトちか
集英社マンガMee(https://manga-mee.jp/)にて配信中
https://manga-mee.jp/trial_reading/sareta_001/trial_001.html

6月23日には9巻が発売! 作品情報はこちら

5月25日に発売された8巻書影

取材・文/瑞姫

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