──もともと原作の『ゴールデンカムイ』はご存知でしたか?
舘ひろし(以下同) 全然知らなかったです、ごめんなさい(笑)。オファーをいただいてから原作を読んだんですが、土方歳三が生きていたっていう設定がすごくおもしろいと思った。だから僕が演じることができてラッキーだったと感じます。
映画『ゴールデンカムイ』で土方歳三を演じた舘ひろしの俳優48年「石原プロで渡さんと出会って続けてきたけど、今でもいつダメになるかわかんないと思ってるよ。73歳にもなって情けない(笑)」
集英社オンライン / 2024年1月19日 11時1分
シリーズ累計2700万部突破のベストセラー漫画を映画化した『ゴールデンカムイ』で、最高に渋くてかっこいい土方歳三役を演じた舘ひろし。「ロマンを感じる」と語る土方役への熱い想いと、「お芝居に関してはずっと自信がない」と語る、キャリア48年のベテランの意外な素顔とは。
土方歳三にはNo.2のロマンがある
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──新撰組の土方歳三は、常々演じてみたいと思っていた役だったとか。
彼にはNo.2のロマンがあるんですよね。トップに立つ人は清濁併せ呑む部分があるけれど、土方はカミソリのように「いいものはいい、ダメなものはダメ」と厳しく新撰組をまとめていた人。最後まで戦うことにすべてを賭けていたような気がするんですね。もともと武士の出じゃないからこそ、武士としてのロマンを求めたんじゃないかな。
──『ゴールデンカムイ』では、約30年前に戊辰戦争で戦死したとされていた土方が生きていた設定で、70代前半とは思えない、高い身体能力と精神力を持つ「鬼の副長」の姿が描かれます。
彼の根本は新撰組にあると思うので、『ゴールデンカムイ』で描かれる土方はそこに根付いていると思うんですね。だから漫画ならではの設定とはいえ、僕がもともと抱いていたイメージと変えずに演じました。
──ビジュアルの再現度も見事でした。初めて土方になった姿を見た感想は?
眉毛の角度ひとつとってもすごく気にしてくださる優秀なメイクの方がついてくれたので、僕はもうお任せするだけでした。
撮影の初日は2022年の12月だったんですが、僕はちょっと病気をしてましてね。痩せていた時期だったんですよ。監督はそのときのビジュアルをお気に召したらしく、「そのまま太らないでくれ」と言われたんだけどさ(笑)。それは体力的に無理だった。ただ映像を見てみると、痩せている分すごく迫力がありましたね。
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©野田サトル/集英社 © 2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
──馬に乗りながら銃を撃つなど、アクロバティックなシーンも見応えがありました。
久しぶりに馬に乗ることができてうれしかったです。馬が立ち上がるシーンは自分じゃできないんでCGですけど(笑)。
山﨑賢人とは芝居の話はなくてバイク話ばかり
──主人公の杉元佐一役を演じた山﨑賢人さんとの共演はいかがでしたか?
山﨑くんの素晴らしいところはね、お芝居の話を一切しないところ。僕は石原プロに入ったとき、石原裕次郎さんや渡哲也さんと一切芝居の話をしませんでした。そういうふうに育ったんですよ。だから芝居の話をされる方がいると疲れちゃうんですよね。
山﨑くんとは撮影の合間にふたりでずっとバイクの話をしてました。彼から改造したバイクの写真を見せてもらったり。「昔僕らが乗っていたバイクとはちょっと形が違うな」とか、そんな話ばかりしてましたね。
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──お芝居について刺激を受けたことは?
山﨑くんのお芝居の素晴らしさは、決めるところはきちっと決めるのにすごくナチュラルなこと。そういう芝居ができる人ってなかなかいないんですよ。どうしても押しつけがましい芝居になってしまう。
そもそも若いってだけで素晴らしいですしね。見ていてすごいと感じることは多いし、若い俳優さんからはいろんな刺激を受けます。
──とはいえ、「若い人にはまだまだ負けない」と思うこともあるのでは?
いい加減なところくらいかな(笑)。いや、もう若い人にはやっぱり勝てないですよ。僕は監督のおっしゃる通りに「はいはい」とやっているだけ。お芝居に関してはずっと自信のないまま今まで来ちゃった。だから人の芝居を見てすごいなって感じちゃったりする。
──にわかには信じ難いです。
いや、信じてちょうだい(笑)。情けないでしょ。まったく進歩してないんだから。
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──ご自身に求めるレベルが高いのでしょうか。
全然高くないですよ。NGを出さないように、みなさんにご迷惑にならないようにお芝居をするということだけです。
現場を楽しい空気にする。それが僕の仕事
──今年でデビューして48年を迎えられました。ここまで長く表現のお仕事を続けられた理由は?
ギャラかな(笑)。いや、それは冗談ですけど、僕は俳優としてお芝居することよりも、チームでひとつの作品を作り上げていく物づくりの現場が好きなんです。極論を言えば、現場を楽しい空気にさせることが、僕の俳優としての仕事じゃないかと思う。現場が楽しければ、それぞれの俳優さんの本当の魅力が出ると思うし、作り手が楽しく作っていれば見ている人もきっと楽しい。それが僕の持論です。
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──舘さんのキャリアを振り返ると、建築家を目指して大学に進学し、バイクチームを結成、その後ロックバンドのボーカルとしてデビューするなど、唯一無二のキャリアを辿っている気がします。
最初は医学部を目指したんです。親父も叔父も医者だったもんですから。でも受験で失敗したんです。僕は絵を描くことが好きだったんで、「だったら建築へいこう」と大学に進学したんですが、卒業する直前になんとなくデビューしちゃった感じです。
──映画デビューは松田優作さん主演の『暴力教室』(1976)ですね。
当時、東映の演技チームに和田さんという方がいたんですけど、「舘くん、セリフなんか覚えなくてもいいからね」って言われて。そういう時代だったんですよ。長ゼリフも短くしてくれるし、僕の提案したセリフを「それいいね」と採用してくれたり。すごく自由な環境で甘やかされて育ったんです。だから俳優としてはダメだなって、そんな気がします。
石原プロで渡さんと出会って俳優を続けてきたけど、結果として48年続けてきちゃったってこと。今でも「いつダメになるかわかんない」と思ってるし、その日暮らしみたいな感じですね。なんの計画性もない。男としては最低です(笑)。運がよかっただけかもしれない。
──若い世代にアドバイスをいただくとすると?
たったひとつ言えることは、仕事をいただいたら全力でやること。自分の中で絶対に手を抜かないということだけはしてきました。それがきっと、俳優として48年続いてきた理由かもしれません。
──劇中では「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という言葉がでてきます。舘さんが与えられた役目は?
そんな大それた考え方したことないなあ。与えられた役目……よくわからん。難しいですよ(笑)。…まわりを明るくすることかなぁー。
──では、土方歳三役が「イケオジ」と話題の舘さんが考える、かっこいい男性像は?
見た目とかルックスとかまったく気にせず、ひとつの信念を持って生きている人はかっこいいと思います。僕はただチャラいだけ。本当に薄っぺらいです。73歳にもなって情けない(笑)。
──全然そんなことないと思います。50周年に向けて舘さんの活躍を楽しみにしています。
取材・文/松山梢 撮影/小田原リエ ヘアメイク/岩淵賀世 スタイリスト/中村抽里
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『ゴールンデンカムイ』(2024) 上映時間:2時間8分/日本
舞台は激動の明治末期。日露戦争での鬼神のごとき戦いぶりに「不死身の杉元」と異名を付けられた元軍人・杉元佐一(山﨑賢人)は、アイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った男「のっぺら坊」は、捕まる直前に金塊をとある場所に隠し、そのありかを記した刺青を24人の囚人の身体に彫り、彼らを脱獄させた。囚人の刺青は全員でひとつの暗号になるという。
そんな折、野生のヒグマの襲撃を受けた杉元を、「アシㇼパ」という名のアイヌの少女(山田杏奈)が救う。金塊を奪った男に父親を殺され、父の仇を討ちたいアシㇼパは、金塊を追う杉元と行動を共にすることに。同じく金塊を狙うのは、大日本帝国陸軍「第七師団」の鶴見篤四郎中尉(玉木宏)。そして、戊辰戦争で戦死したとされていた新撰組の「鬼の副長」こと土方歳三(舘ひろし)。土方は脱獄囚の中におり、自らの野望実現のため金塊を追い求めていた。
1月19日(金)より全国公開
配給:東宝
映画『ゴールデンカムイ』公式サイト
©野田サトル/集英社 © 2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
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