1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

相次ぐ大型フェス中止、出演者のドタキャン「コロナ禍で潮目が変わり、2024年フェス市場は大きな転換期を迎える」

集英社オンライン / 2024年2月1日 11時1分

2023年はコロナ禍で大きな苦境に立たされていたエンタメ市場も回復傾向にあり、昨年から大小問わず多くのフェスが開催された。その一方で、突然の「フェス中止」や「出演キャンセル」などトラブルも目立ったその背景を探る。

コロナ禍を経て潮目が変化したフェス市場

昨年、野外アニソンフェス「Aichiアニソンフェス」、K-POPのライブイベント「THE SHOW LIVE in TOKYO」、音楽ジャンルの垣根を超えた大型フェス「X-CON」は、いずれも開催直前に突如中止を発表し、お蔵入りとなったことで大きな波紋を呼んだ。

2024年のフェストレンドを占う上でのキーワードやフェスビジネスの未来について、30年以上にわたって音楽フェスや企業イベントの企画制作を手がける株式会社インフュージョンデザイン・CEOの井出辰之助氏に話を聞いた。





日本では、1997年に「FUJI ROCK FESTIVAL」がスタートし、1999年に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」、2000年には「SUMMER SONIC」と「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」と本格的に日本のフェス市場が産声を上げた。

こうした4大野外フェスを皮切りに以降、さまざまなフェスが立ち上がっていく。

井出氏は、神奈川県・横浜市で開催される音楽とアートのカルチャーフェス「GREENROOM FESTIVAL」や野外音楽フェス「TAICOCLUB」といった大型フェスの立ち上げに参画し、日本におけるフェス文化の浸透に貢献してきた。

株式会社インフュージョンデザイン・CEOの井出辰之助氏

そんななか、現状のフェス市場について「コロナ禍で潮目が変わり、2024年は大きな転換期を迎える年になる」と井出氏は予測する。

「コロナ禍の初年度は野外フェスが開催できず、どの興行主も苦境を強いられました。なんとか生き延びるために、政府の支援策であった『J-LODlive補助金』の申請を行い、資金の工面をしながら興業が再開できる時期まで耐えしのいだわけです。

2023年にコロナ禍が明け、従来どおりの制限のない野外フェス開催が可能になった今、その助成金を受けたか否かで、かなりの差が生じていると感じています」

“残るフェス、消えるフェス”の二極化が進む

しかし、規模の大小問わず、フェスの多様化が進んだ一方、どこも似たり寄ったりのフェスが乱立し、「もはや飽和状態になっている」と井出氏は話す。

「時期や日程によっては同時多発的にフェスが開催され、集客が分散してしまっているほか、次々と新しいフェスが生まれては消えていくような状態です。さらに、昔と比べてあまりにフェスの数が増えすぎたため、企業協賛をつけるのが難しくなっている。

加えて、フェスの運営スタッフの人手不足や物価上昇による運営コスト、チケット価格の高騰なども相まって、継続開催できるフェスが少なくなっています。2024年はその流れが加速し、淘汰されていくフェスが出始める過渡期になるかもしれません」

空間や装飾、音響など職人芸が光るフェスの舞台製作。
人同士の信頼によって成り立つアーティストのブッキング。

“生モノ”を扱うがゆえに、ITで代替できないフェスは、まさに“残るか消えるか”の瀬戸際に直面しているのだ。

地方創生×フェスの抱える「理想」と「現実」

近年では「地方創生×フェス」の流れで、地域振興や町おこしを目的にしたフェスを開催する自治体も増えている。

だが、フェスを地域活性化につなげるのは「そう簡単なことではない」と井出氏は指摘する。というのも、地域に根ざしたフェスを創り上げるには、地元の住民との深い信頼や関係性の構築が不可欠だからだ。

「たとえ動員力のあるアーティストを呼んでも、『県外からの参加者が2〜3日だけ来るだけでしょ』と思われていてはダメなんですよ。周辺地域に訪れる関係人口を増やしたい。新たな地域の魅力を発信したい、などフェスの開催目的にもよりますが、フェス事業者と地元が一枚岩にならないと、継続的な開催は難しいでしょう」

井出氏自身も、三重県の志摩市の海女漁がさかんな漁村「安乗」で野外フェスを開催した経験がある。約3年ほどかけて地元民と交流を図り、人間関係を作るために、足繁く漁村に通った。地元民との関係を構築することでようやく初開催にこぎつけたが、開催はこの1度きり。多方面との連携及び理解が充分にとれず、継続開催の難しさに直面したという。

2022年11月に安乗で開催された地方創生に根ざしたフェス「あのり拍子」

「地域創生のフェスをやってみて、初めてわかる“壁”があったなと感じました」

2024年のフェストレンドは「コンパクト、新奇性、クオリティ」

では、何年も生き残り、愛されるフェスにはどのような特徴があるのか。

井出氏は「最初に定めたコンセプトをブレさせず、周囲を巻き込んでいく主催者のエネルギーがあるかどうかが鍵を握る」と語る。

「日本3大フェス(フジロック、サマソニ、ロッキンオンジャパン)は言わずもがな別格です。20年以上続いているのは、ひとえに主催者の情熱や思いの強さにあります。一度灯した火は消さない覚悟と決心を持ち、フェスを開催し続けているのは、本当にすごいことだと思います。しかも、四季の豊かな日本において野外フェスほどリスクの高いビジネスはありません。

台風や大雨といった自然災害はつきもので、チケット完売しても当日にフェスが中止となれば、たちまち大赤字になってしまう。普通の起業家であれば、フェスのような博打を打つ事業はやらないはずです」

それでも、リスクを冒してまでフェスを開催するのは、何物にも変え難い「やりがい」や「感動」があるからだろう。

井出氏が関わった「GREENROOM FESTIVAL」も、当初はサーフィンやスケートボードなどの“ヨコノリ”カルチャーを軸としたフェスから始まった。

「GREENROOM FESTIVAL」のメインステージ

そこから、規模やコンテンツを拡大して多様化させていった一方、当初のカルチャーは変えずに持続させてきたことが、今でも人気フェスのひとつとして愛される理由だという。

また、今までにない新たな切り口を見出すことも肝になると井出氏は続ける。

「昨年中止となったフェスの中には、独自のコンセプトを掲げたおもしろいコンテンツもあった。いきなり風呂敷を広げすぎず、まずは小さく始めていれば、逆に話題になっていたかもしれません。

そういう意味で言うと、私の知人が2017年に立ち上げた『FESTIVAL de FRUE』は、まだ知られざる“日本初来日”のアーティストを多くブッキングし、コアな音楽ファンを唸らせるフェスとして注目されています。フェスの寿命は10年と言われるなか、今後は大規模なフェスよりも、コンパクト、新奇性、クオリティがフェスに求められるのではと考えています」

フェスを悪用した詐欺は起こり得ない

2024年も多くのフェスが開催される見込みだが、昨年の相次ぐ大型フェスの中止を受けて不安を感じている人も少なくないだろう。特に開催直前での中止となるとチケットの払い戻しの対応についても気になるところだ。

「フェスで詐欺を企てるのは現実的ではない」

筆者が購入したものの中止となった「X-CON」のチケット

そう述べる井出氏は、昨今に見る突然のフェス中止について、次のようにコメントする。

「フェスを開催するためには、イベントのコンセプトや目標を決め、総定する集客を見越した適切な会場の確保、アーティストのブッキング交渉、プロモーターの選定、運営スタッフの手配など、準備することが非常に多岐にわたります。たとえば、日本武道館を抑えられるのは、信頼と実績のあるプロモーターだけしか行えないんですよ。

詐欺をするにしても労力がかかりすぎるし、計画して実行するハードルが高い。加えて、狭い業界内で悪い評判が立つリスクを考えれば、コンプライアンスが求められる時代に『フェスを悪用した詐欺』は起こりづらいのではないでしょうか」

井出氏は、長年フェスやイベント制作に関わってきた集大成として、富士山の麓のキャンプフェス「FUJI&SUN」を2019年からオーガナイズしている。

富士山の麓のキャンプフェス「FUJI&SUN」

富士山の麓という抜群のロケーションはもとより、大自然の中でのキャンプやワークショップ、音楽ライブ、ケータリング店など、コンテンツも充実しており、キャンパーや子連れのファミリー層を取り込むことに成功しているという。

「2024年で5回目の開催となりますが、将来的には『FUJI & SUN』を次世代にバトンをつないでいけるようにしていきたいと思っています。フェス市場はまだ30年くらいの業界なので、ちょうど今の時期が世代交代に差しかかるいいタイミングだと感じていて。

業界が生まれた当時とは時代背景もお客さんのニーズも異なるなか、今の若い世代が新しいフェスの担い手になってくれれば、フェス業界の未来はきっと明るいものになると考えています」

取材・文/古田島大介

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください