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若手が育っていないと感じる管理職は8割…過ごしてきた環境の違いが上司と若手のわかりあえなさを生んだに過ぎない事実

集英社オンライン / 2024年1月30日 8時1分

何かあればすぐに「パワハラ」と言われかねない会社や職場において、若手社員の育成はますます困難になっている。『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版)より一部抜粋してお届けする。

「若手が十分に育っていないと感じる」管理職は8割

とある高名な経営コンサルタントの方がテレビの情報番組でこう話していて、聞き入ってしまった。

「いま、マネジャーは仕事ができる人になればなるほど、若手に直接何かを言ったりせず当たり障りのないことを言い、評価だけを下げるようになっています」

若手を育成する難易度やハードルが一段上がったように感じないだろうか。

若手育成に対する会社の要請が大きくなっていることは間違いない。とある人事担当向け調査では「管理職に期待していること」について最も選ばれた項目は「メンバーの育成」(42・7%)であった。以下、「業務改善」(26・7%)、「担当部署のコンプライアンス・勤怠管理の徹底」(23・3%)であった。



育成の要請が大きくなるなかで、難易度やハードルが上がる。その理由について、若者のキャリア観・仕事観の多極化、そして、環境の大きな変化を示した。そうしたなか、確かに多くの管理職が若手育成上の困難に直面していることが調査からも見えてきている。

大手企業の課長級管理職で20代の部下を直接評価している者に対して行った調査において、「若手が十分に育っていないと感じる」者は実に8割近く。そう感じる頻度別で図表に示したが、12・7%、8人に1人の管理職は「毎日のように」感じているのだ。

図版『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

さらに、「このままでは職場の若手が離職してしまうと感じる」についても、そう感じている管理職は6割を超えている。毎日・毎週・毎月、ひしひしとそう感じながら若手と向き合っている。

若手が育っていない、若手が離職してしまう。「このままでは……」という育てる側の感情は、うまくいっていない職場だけが抱える問題ではなく、普遍的なものになりつつある。

若手の不安や焦りは単なる〝青い鳥症候群〞か〝具体的不安″か

若手のほとんどは多かれ少なかれ不安や焦りを感じている。

ただその不安や焦りが〝モヤモヤとしたもの〞なのか、それとも〝具体的なものなのか〞という点で相違がある。

前者では、周りがホップステップしているように感じる、SNSでキャリアアップ転職した友人がいる、そういった情報が様々な媒体から否応なく入ってくるなかで、「自分は大丈夫なのか、大丈夫なはず、でも……」と思う心の揺らぎとも言える。選択の回数が多くなる職業社会で、そう感じさせられる接点が増えているのだ。

後者は、社内外で何か行動をしたうえで自分に足りないものが見えてきた、そういった「このままでは自分は〝何者か〞になれない」という不安や焦りである。少し動いた結果としてより自分の状況が俯瞰して見えてしまった結果、生じた気持ちだ。

若手の不安や焦りが、単なる〝青い鳥症候群〞なのかそれとも行動に立脚した具体的不安なのかは相対する際の重要な視点だ。ただ、職場の上司がざっくり聞けば「めちゃくちゃ満足しています!」とか「不満は特にないです」とかで流されてしまう(満足―不満足と安心―不安はそもそも別の問題だ)。

事実、筆者が企業で管理職研修を実施した際に「部下の若手の不満の声を聞けていますか」と聞くと、多くの会社で4〜5割の管理職の方が手を挙げるのに対して、「部下の若手の不安の声を聞けていますか」と聞くと1〜2割しか挙がらない。

満足していても不安や焦りを抱えているかもという発想が乏しいかもしれないし、同時に通常の上司―部下関係や単なる1on1ではそこまで掘り下げて聞くことが難しいのだ。

会社の仕事に対する気持ち

若手において一人ひとりが最も異なるのがこの点かもしれず、もしかすると同じ会社にいる若手でもその会社の仕事の〝大変さ〞に対する気持ちが全く異なるのかもしれないと感じている。その気持ちを左右しているのは、入社前の社会的経験の程度であったり、自分の身の回りの友人・知人の動向であったりする。

学校にいながらにして社会的経験をする場が、キャリア教育やインターンシップの浸透で広がった結果として、その質にも差が生じている。

筆者は若者のキャリアや活動全般に学歴や経歴に関係なく関心を持って研究しているが、正直に言って現代の若者が学生時代に実行しているアクションのなかには、単なる〝ガクチカ〞(学生時代に力を入れたことを就活の採用面接で聞くことが多く、その略語。就活用語)で済ませるのは非常にもったいないものが存在している。

そのもったいなさは若者にとってのもったいなさでもあるが、同時に企業にとってもだ。ベンチャー企業でプロジェクトマネジャーをしていた経験がある事業領域がある新入社員に、なぜその領域で挑戦をさせてみないのか。挑戦させて挫折する経験をさせるチャンスなのに、なぜ無理に通常のローテーションに組み入れようとするのか。単なる〝ガクチカ〞だと理解してしまっているからだ。だから人事の採用担当から配属先に情報共有もしっかりされないのだ(もしくはされていても配属先の上司がたいして読んでいないのだ)。

まずは、単なる就活の材料として考えていい経験と、そうでない経験もあるということを認識していただきたい。その違いによって、会社の仕事の見え方が若手であっても全然違うという状況が顕在化しているのだ。

上司や先輩に対する気持ち

上司に対して感謝の声やありがたさを語る一方で、その上司のような姿を目指したいかというとほとんどNOなのは共通点と言えるかもしれない。「上司はありがたいが、ああはなりたくない」、そんな存在がいまの若手の上司観である。若手のロールモデルが不在である、というのはよく語られる話で、それは事実だろう。

筆者は大阪商工会議所で若手社員キャリアデザイン塾の塾長をしているが、社内のロールモデルにインタビューするという課題を(あえて)課した(社外の同世代がいる場で、自社でのキャリア作りの特徴を認識して欲しいという趣旨だ)。課題が終わった後、参加した大手企業から中小企業まで50名の若手に「課題に取り組む前から、社内にロールモデルがいたか」聞いたところ、なんと手が挙がったのはわずか4名だった。さらにはその場でひとりの若手から「ロールモデルを社内に見つけることなんて無意味です。社外につくるべきです」と意見が出た。実話である。

いずれにせよ、月100時間の残業をしていた若手時代を持つ上司、「会社の花見の場所取りが最初の仕事だったんだよ昔は」という先輩の話を聞いて、どうロールモデルにしようというのか。マインドの問題ではなく、もはやルール的に、法律的にそのキャリア形成が不可能なのだから、モデルにしようがない。

ただ、その前提で上司や先輩とどう接点を持つかに注目しよう。「何を言ってもわかりあえない」という若手もいれば、「あ、意外と……」という若手もいるのだ。実際の声として出ていた「あ、意外と上司も迷っているんだ」といった気づきが起こっているとき、背中を見て育つ方式のロールモデルとしての上司―若手の関係から、また違う関係が形成されつつあると感じる。
もちろん、実際にわかりあえない感は高まっているだろう。冒頭で紹介したとおり部下の若手が育っていないと感じる管理職は75%以上に上っているし、このままでは部下の若手が離職してしまうと感じている管理職も65%以上に上っている。

新人時代、若手時代の職場環境が違いすぎるのだから、それは上司側の問題でも若手側の問題でもなく、単なる過ごしてきた環境の違いが、わかりあえなさを生んだに過ぎない。しかしそのなかで、確実に新しい接点の可能性が浮上しているのだ。

文/古屋星斗 写真/Shutterstock

『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版)

古屋星斗

2023年11月25日

1760円

288ページ

ISBN:

978-4-296-11503-7

【内容紹介】
「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」
こんな社員が登場するようになった「ゆるい職場」時代、若手社員の育成はますます困難になりつつあります。

本書では独自調査とヒアリングから、Z世代の価値観の「二層化」、その不安と焦りを浮き彫りにしたうえで、心理的安全性とともに今、職場に求められる「キャリア安全性」の重要性を示唆し、若手を活躍させることのできるマネージャーに必要な9つのポイントを紹介。

人材育成に悩む現場マネージャーにとって、今日から使える実践的な情報を提供します。

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