転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと
集英社オンライン / 2024年1月31日 8時1分
若手育成についてコミュニケーションの密度が一定程度必要であるなかで、有効的なコミュニケーションとは何か。『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版)より一部抜粋してお届けする。
育成に手ごたえのある管理職とそうでない管理職
経営課題として、二重の意味(つまり次世代の人材輩出の成否と管理職層のエンゲージメントの高低を左右する)を持ち始めている若手育成だが、若手育成実感が高い管理職の特徴を分析していく。つまり、職場環境において、若手を育てられていると実感できているマネジャーの検討である。
まずはシンプルに概況を示すために、マネジャーのうち若手育成実感が高い群と低い群を分けた。
これを〝育成成功実感群〞/〝非実感群〞とする。つまり、大手企業において、若手育成に手ごたえを感じているマネジャー/そうでないマネジャーである。もちろん、この非実感群のなかにもグラデーションはあるが、ここでは全体像をシンプルに検討するためにこうした形で整理したことに留意いただきたい。
この育成成功実感群の割合を、〝育成成功実感率〞(以下、単に成功実感率とも)と表記する。育成成功実感率について、回答者の属性との関係を整理する。どんなマネジャーが若手育成の成功を感じやすいのだろうか。
まず管理職の年齢層別の成功実感率を図に示した。より年齢層が若年の管理職ほど成功実感率が高い傾向が見られる。30〜39歳では24 ・1%に達しているが、40〜49歳では18・0%、50代以上では13〜14%台となっている。なお、30〜39歳階層はサンプルサイズが小さいため、この点については留意が必要であるが、若年管理職ほど育成成功実感が高い者が多いことはひとつの傾向の可能性がある。
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様々な解釈があると思うが、筆者としては、これは単に「若いほど良い」ということではなく、「29 歳以下の若手の部下との年齢の近さ」が大きな要因となり〝水平的関係〞での育成がしやすいからなのではないかと考える。
現代の若手育成において、関係負荷(人間関係のストレスや理不尽さによる負荷)がマイナス要因になっていることがわかっている。年齢が近いことで、過剰な上下関係による「理不尽さ」や「なぜその指示を受けたのかわからない」という関係負荷の上昇を回避しやすいことが、若手と年齢の近い管理職の〝育てやすさ〞なのではないか。
転職経験のある管理職の方が育成実感が高い
また、管理職のキャリアとの関係も示す。
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転職経験有無については、転職経験のある管理職が成功実感率19・2%、ない管理職は14・8%であった。管理職経験年数では「3年未満」17・4%、「3〜10年未満」16・3%、「10年以上」15・1%であったが差は5%水準で有意ではなく、全体像を見るための参考値として提示する。
管理職自身の週労働時間別の結果を示した。「週39時間以下」が19・7%、「週40〜49時間」が15・8%、「週50時間以上」が15・3%であった。なお、週50時間以上の回答者がなんと全体の48・6%に達していた。
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週50 時間以上は概ね残業時間で月45時間以上相当と比定される。多くの大手企業が実態として残業時間月45時間を一般社員の上限と定めて運用していることを鑑みると、管理職自身の労働時間が非常に長いという状況にあることがわかる(なお大手企業・大卒以上・24歳以下・正規社員では、週50時間以上就業の割合は2022年で16・1%であった。比べていただきたい)。
見えてきた有効な打ち手
若手育成成功を実感している管理職の全体像を整理したうえで、具体的な打ち手についてその有効性を検証する。
まず、「配属ガチャ」「異動ガチャ」という言葉もあり、若手のキャリアに対して大きな影響を与える〝異動〞前後のコミュニケーションについて整理する。
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「行っている」管理職と「行っていない」管理職との間で、有意に育成成功実感率が高かったコミュニケーションが2つ存在していた。ひとつは「事前に、異動先について希望を聞く機会を設けている」、もうひとつは「異動決定後に面談等の場で会話をする機会をつくっている」であった。
配属・異動の前後で、管理職が事前に希望を聞くこと、決定後に個別の場でコミュニケーションをとること、こうした実践には手間がかかるが、それに見合うリターンがある可能が示されている。
次に、職場での若手との日々のコミュニケーションについて、有効な手の検証を図表5―19に掲載した。高頻度(「毎週のように」「毎月のように」)で行っている管理職と低頻度(「半年に数回」「1年で1〜2回」「全く行わなかった」)の者を比較する形で示している。
示した項目すべてで高頻度の管理職が、低頻度の管理職よりも育成成功実感率が高い。個々の手立てについてというよりは、シンプルに若手育成についてコミュニケーションの密度が一定程度必要であるという結果と考える。現在、上司、若手ともに忌避されつつある〝飲み会〞等についても、他のコミュニケーションと同様の肯定的な結果が出ていることは留意すべきだろう。
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ただ、職場における若手との日々のコミュニケーション別の効果と希少性の項目については、実施度合いと効果にかなりの差があったため、図にそれを含めて整理しておく。
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整理のうえ、明確に特殊なポジションなのは図の左上に位置する「部下に自身の知り合いを紹介する」、さらに視界を広げれば「イベントや社内外の勉強会等に、部下を誘う・紹介する」であり、高頻度で行っている管理職は少数派だがその効果は高い。若手にある種の「セレンディピティ」の提示、本人の視界の外にある機会を提供する手立てであり、新たな打ち手群として注目すべきかもしれない。
文/古屋星斗
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版)
古屋星斗
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2024/01/23091024399469/400/syoei.jpg)
2023年11月25日
1760円
288ページ
978-4-296-11503-7
【内容紹介】
「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」
こんな社員が登場するようになった「ゆるい職場」時代、若手社員の育成はますます困難になりつつあります。
本書では独自調査とヒアリングから、Z世代の価値観の「二層化」、その不安と焦りを浮き彫りにしたうえで、心理的安全性とともに今、職場に求められる「キャリア安全性」の重要性を示唆し、若手を活躍させることのできるマネージャーに必要な9つのポイントを紹介。
人材育成に悩む現場マネージャーにとって、今日から使える実践的な情報を提供します。
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