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「パワハラ、モラハラ、ブラック、搾取…マジ意味わかんない。小説はあんまり儲からないかもしれないけど一人でやってるから自分でケツ拭けないことはしないです」ごみ清掃員からすばる文学賞を受賞した大田ステファニー歓人《前編》

集英社オンライン / 2024年2月3日 12時1分

第47回すばる文学賞を受賞した小説『みどりいせき』で鮮烈なデビューを飾った大田ステファニー歓人。隠語やスラングを交えながら、プッシャー(薬物の売人)を生業とする高校生たちの自立と抵抗を描き、選考委員からもその独特の文体を激賞された、若き作家の実態に迫る。

「ステファニー」の名前はかわいいから

――大田ステファニー歓人というペンネームは、どのタイミングでつけたのですか?

大田(以下、同) すばる文学賞の最終に残って、誌面に名前が載るってなったタイミングですね。本名で応募していたので、編集者さんから「本名のままでいいですか?」と聞かれて、本名はリスクあるし嫌だなって。妻もいるし、無事にいけば子どもも生まれる予定なので、プライバシーは守りたかった。子どもも、まわりも父親が小説を書いていることは知らなくていいかなって。


作家の大田ステファニー歓人さん

――名前の由来はあるのでしょうか。

妻のかおりんと籍を入れるときに、うちは婿養子でもよかったんですけど、彼女のほうがうちの名字がほしいってなって、結果そうしたんですけど、それだと彼女の名字がなくなっちゃうのが悲しい。なので、ペンネームは彼女の名字からつけました。ステファニーは単純にかわいいから本名をもじって、ゲームのキャラに名前をつける感覚で。

――受賞したことで、まわりからの反響は?

友だちとか職場の人とか、まわりの人たちが喜んでくれたことで、受賞してよかったなって思いました。獲るとは思いつつ、結果が出るまではドキドキして、自分空気だけで感じるタイプなので、決まるまでは深く考えないようにしてたんです。考えすぎると、かおとのプライベートな時間に支障が出ちゃうので。自分がバッド入るきっかけが増えるのはよくない。

――「すばる」のほかに、「群像」の新人文学賞にも応募していたとのことですが、ウェブなどのメディアで自ら小説を世に出そうとかは思わなかった?

ちゃんと小説家として扱ってもらうなら新人賞を獲るくらいしかないかなって。実はネットでも別名義で発表した文章はあるんですけど、内容が過激すぎて炎上したりもしてたので、それはもうなかったことにしてます。

――創作や書くことへの切実さはずっとあった?

そこまで切羽詰まった感じでもないですね。趣味っていうとあれですけど、ミュージシャンが音を出すとか、映画撮ってる人がふだんからカメラを持ち歩くみたいな感覚で、うちは言葉とか文章に接している感じです。

小説は一人でやるから純度を保てる

――吉祥寺で育ったということですが、文化的にはどういう環境だったのでしょう。

友だちの間では、文化は全部、自分が持ち込んでました。教えてもらったのは、下手だけどスケボーくらい。学校に行ってなかったので、そのぶんライブハウスとかレコード屋をまわって、ネットからも情報を仕入れて。それで友だちのWALKMANを回収して、おすすめの曲を入れまくったり。話せる友だちが欲しくて(笑)。

音楽だけじゃなく、映画を観てもらったり、漫画も貸しつけたりとか。今こうやって小説で世に出た感じになってますけど、ベースも弾いてたし、ギターで曲作ったり、歌ってるバンドもあったし、映画の大学にも行ってたし、自分でもいろいろやってました。

――音楽や映画と比べて、小説が一番フィットした?

いや、全部フィットはしてるんです。ただ、本気でやるってなったときに、元手もかからないでフットワーク軽くやれるのは文章を書くことじゃないですか。めっちゃ音楽もやりたいんですけど、本当に満足できるものを作るとなったら、環境を整えるのにすごいお金もかかるので、今はちょっとしんどい。映画なんてもっと金も人も必要だし。しかも映画業界になんて入ったら、パワハラ、モラハラ、ブラック、搾取、マジ意味わかんない。現場入ってる友だちからは最近、徐々によくなってるって聞きますけどね。

―― 一人で小説を書いているぶんには、そのへんの心配はない、と。

おもしろがってもらいたいのと同時に、芸術を作りたい気持ちもあるんです。芸術活動の中では、小説はあんまり儲からないかもしれないけど、一人でやってるからクオリティとか純度は保てる。小説家でもセルアウトしてるやつはいますけど、自分はまだそのレベルじゃない。金以外の、ほかのもので満たすことができているので、今は自分が読みたいもの、書きたいものを書くしかない。

S区はクレームのパレード

――今はごみ収集のお仕事をされているんですよね。今後、専業作家になるつもりは?

ごみ収集とかだるいし疲れるので、専業とか関係なく、できれば仕事は辞めたいですよ。腰もまじで限界だし。でも、今までは作品を受け取るだけの立場だったので、こいつ金に目がくらんでクソみてえな作品ばっか出しやがって、とか普通に思ってたわけで。

いざ自分が文章を書くことでお金をもらえるようになってくると、ごみ収集の仕事に対する考え方も変わってきました。ほかに収入があれば、作家として魂を売らずに済むし、体さえ壊さなければ肉体労働は朝から体を動かして、健康的で、ストレスも発散できて、夕方前には終わって、わりと給料もよくて、街もきれいになって、もう言うことなくないですか?

――立派な仕事ですよ。

やるからには、誇りを持ってます。でも住民からクレームも多いんですよね。口の利き方が悪いとかって。でも間違ったキレ方は絶対してないんで。ごみを出す時間が遅かったり、分別ができてないやつに注意してるだけ。ごみ収集って、そもそも別に街を掃除する仕事じゃなくて、ルール通りに出されたごみを回収することが仕事なので。何でもかんでも持っていくわけじゃない。しかも、S区民はおごってるんですよ。ごみ収集もそうだし、生活インフラを見えないものとして軽く扱ってくる。だからうちは無理やり視界に飛び込んでやる。ルールを破るやつには、こっちもルール外のやり方で接するだけ。タメ口で言ってくるやつには、タメ口で返します。みんなすぐクビ切られますけど。

――出されたごみを見ると、地域や住民の特性がわかりますよね。

S区のごみを見てると、捨てるために買ってんのかよ、って思いますね。食わないならメシも作るなよ。一緒に組んでるドライバーは長くごみ収集の仕事をやっていて、いろんな地域を見てきた人なんですけど、所得が低くて治安も悪いと言われている下町のほうが、ごみはちゃんと出すって言ってました。クレームとかもこないって。それに比べて、S区はクレームのパレードですよ。見た目きれいでプライド高い。てめえのゴミ拾ってんのに鼻つまむな。なめやがって。

非公式で出回った授賞式でのスピーチ

――映画大学に通いながら、仕事として映画の道へは進もうとは思わなかった?

映画大学は、映画を学ぶには申し分ない環境でした。知りたいことはもちろん、好奇心があれば、それ以外の情報もめっちゃ入ってくる。ただ、そのせいで当時の映画業界のクソな部分とかもいっぱい知ったので、自分は関わりたくないなって。リスペクトできるフィルムメーカーにも出会ったので、映画は任せた、って感じですね。

音楽か小説なら、勝負する気にもなりますけど、やっぱり映画は個人の力だけではどうにもならないし、予算や他人の仕事に配慮して完全に納得できるもの作れないとか謎。現場レベルが頑張ってても業界がクソ。日本アカデミー賞とかカス。日本だけじゃないな、アメリカのアカデミー賞もファック。作品の質とかじゃなく業界政治と販促のただのでかいオフ会。もう自分の中で映画の夢は崩れました。でも映画化はお願いします。

――とはいえ、文芸の世界、いわゆる文壇にもクソなことはあるし、カスなやつはいますよ。

でも結局は個人事業主じゃないですか。文章を書くのに、組織とかコミュニティとか関係ない。関係あるって言う人もいるかもしれないですけど、自分は最初から何の責任もとるつもりないので、自分でケツ拭けないことはしないです。しかも今は集英社がバックにいる(笑)。少年ジャンプの「友情・努力・勝利」ってやばくないですか? 真理ですもん。

――すばる文学賞の授賞式でのスピーチ、衣装も含めて最高でした。

恐縮です。最初ゴリゴリのジャージを用意してたんですけど、かおりんにあざといって言われてやめました。それで、かおりんと出会った頃によく着てた格好をイメージして、それなら安心できるかなって。出会ってすぐって、相手にどう見られるか気にするじゃないですか。なので、昔の自分に助けてもらった感じです。授賞式に呼んだ友だちも、ホストやってたやつはスーツでしたけど、ほかはみんな好きなカッコでした。

すばる文学賞受賞式での大田さん

――受賞のスピーチがSNSで出回ってましたね。

受賞式は録音とか録画とか、撮影もしちゃいけないんですけど、出回っちゃいました。あれは友だちが勝手に録音して、さらにその友だちが「これネットに上げたら絶対バズる」とか言って、ほんとにバズっちゃいました。自分、すごいあがり症なので、それで音楽もライブとかあきらめたんですけど、詩を読み上げるならできるなと思って、ああいう形になりました。

取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/井上たろう

みどりいせき

大田ステファニー歓人

2024年2月5日

1870円

単行本:216ページ

ISBN:

978-4-08-771861-4

【第47回すばる文学賞受賞作】

【選考委員激賞!】
私の中にある「小説」のイメージや定義を覆してくれた。――金原ひとみさん
この青春小説の主役は、語り手でも登場人物でもなく生成されるバイブスそのもの――川上未映子さん
(選評より)

このままじゃ不登校んなるなぁと思いながら、高2の僕は小学生のときにバッテリーを組んでた一個下の春と再会した。そしたら一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ始めた……。

でも、見たり聞いたりした世界が全てじゃなくって、その裏には、というか普通の人が合わせるピントの外側にはまったく知らない世界がぼやけて広がってた――。

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