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人はなぜ、おいしいものや綺麗な景色を写真に撮りたくなるのか「写真はいつか宝物になります。自分の宝物にも誰かの宝物にも」と写真家が語る真意

集英社オンライン / 2024年2月8日 18時1分

おいしいものを食べたとき、綺麗な景色をみたとき、我々はカメラを向けてそれを写したくなる。ダンスを知らない子どもがうれしいときに踊りだすように、人は何かに感動したとき、それを伝えようとするのだ。写真家幡野広志の新著『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』を読めば、もっと写真が撮りたくなるはずだ。「写真はいつか宝物になる」という言葉の真意が迫ってくる。

#1 #3

どうして写真を撮るのか

どうして人は写真を撮るんですかね。食事や睡眠のように写真を撮らないと死ぬわけじゃないのに、どうして写真を撮るんでしょう。いい写真は伝わる写真だとぼくは書きましたけど、これは哲学みたいなものなのでいろんな答えがあると思います。



ぼくは写真だけじゃなくて映画や漫画など作品と呼ばれるものすべて、伝わる作品がいい作品だと思っています。だからいい作品って考えさせられるし、人生に変化を与えるような作品があるんですよね。

そもそも作品というのは誰かに何かを伝えたくて制作するものだと思います。アボリジニの壁画だって何かを伝えたくて描いたわけです。芸術というのは何かを伝えるためにするもので、写真や壁画や漫画や映画などは伝える手段です。あくまでも伝えることが目的。

手段の中に伝わりにくいものもあれば、伝わりやすいものもあるんですよね。簡単なものもあればむずかしいものもあるし。それから自分がやりたいことだってあるし。「誰かに何かを伝えたい」これが写真を撮る理由だとぼくは思います。

何かを伝えたいのは食事や睡眠と一緒で人間の欲求のひとつだとぼくは思います。自分に何か大きな出来事があったらそれを誰かに伝えたいんです。伝えるというのはコミュニケーションだからです。

言葉がない時代は壁に絵を描きました。大昔の人は石に文字をほりました。それくらいのことをしてでも誰かに何かを伝えたいんです。手紙になったりメッセージアプリになったり時代とともに形は変わりましたけど、伝えたい欲求は変わりません。

何かを伝えたいから人は写真を撮ります。それが写真を撮る理由です。目の前で大きな出来事があったら写真や映像を撮るものです。空に虹がかかれば写真を撮るし、打ち上げ花火を見たら写真を撮るし、場合によっては命の危険があろうと撮ります。だから災害時や緊急時でも人は撮るんだと思います。

打ち上げ花火を見たら誰だって驚く。驚くという感動したときに写真を撮る。

伝えたいから撮るのだから、伝えることがないなら撮る理由はないです。伝えることがない写真は見ててつまらないです。漫画だって映画だって何も伝わらない作品は退屈です。

だから写真を撮るときは感動してください。感動っていうとすごく安っぽく聞こえるけど、感動してないならシャッターを押す意味がありません。感動というのは涙を流すような大きなことだけじゃありません。

美味しいだって感動です。綺麗だって感動です。驚くことも感動です。暑いや寒いだって感動です。ありがとうだってうれしいだって感動です。心が動くことが感動です。

写真はいつか宝物になります

警官隊とデモ隊が衝突していた。火炎瓶や催涙弾が飛び交っていた。だから写真を撮る

ダンスを習ったことがないちいさな子どもだってうれしいときに踊ります。かなしいときに大声を出す子どももいます。これらだって感動です。言葉を知らなくても言葉が発せなくても感動して作品になります。

だから写真も感動をしたときに撮ってください。だけど写真を見た人に感動はなかなか伝わりません。写真は高精細に撮れちゃうから誤解しちゃうんだけど、決して伝わりやすいものではありません。

誰かが撮った打ち上げ花火の写真を見て感動しますか?なかなか感動まではしませんよね。それよりも音と動きのある映像のほうが感動しやすいです。だけどいちばん感動するのは肉眼で打ち上げ花火を見たときです。音と匂いと気温や湿度や群衆の歓声や混雑など、写真では伝えることができない感覚を刺激されるからです。

じゃあ伝わらないからって撮らないことが正しいかといえば、それも違うと思います。誰に伝わらなくても、伝える相手がいなくても、撮ったときの自分の感動を撮れば、写真を見返したときに感動を思い出せます。

誰かと旅行に行ったときの写真を数年後に見返せば旅行の記憶を思い出します。旅行先の気温や湿度や音や匂いも思い出します。ぼくは初めての海外旅行でインドに1ヶ月行ったんですけど、いまでも当時の写真を見るとインドの騒音と匂いと、抱いていた将来の不安すらも思い出します。

別に他人を感動させる必要はないです、自分で自分を感動させましょう。だからといって自分の感動が他人に伝わるわけじゃないってことも意識しましょう。写真は伝えることは苦手だけど、自分の感情を記憶することは得意です。

だからどんなときでもいつでも撮ったほうがいいです。そのためにも感動のハードルを下げる。感動のハードルを上げたら写真は撮りません。海外旅行にいくと写真をたくさん撮るのは感動のハードルがグンッと下がるからです。

外国人観光客からすれば、ぼくたちが普段目にしている街の景色も感動だらけです。自分が普段目にしている街の景色を「つまらない」と思っている人は、自分がつまらない人なだけです。

おもしろい人というのは、自分の周りのおもしろさに気づきます。おもしろさの感度が高い。だから写真をやるなら、感動のハードルを下げておもしろさに気づく人になる。おもしろい人の写真っておもしろいです。そしてつまらない人の写真はつまらないです。

写真は絵よりもリアルに記録できます、しかも一瞬で。大切な人を亡くした人は故人の写真が宝物になります。青春時代に聴いてた音楽を中年になって聴くと青春時代を思い出すものだし、むかし住んでいた街に行くと当時の生活を思い出すものです。

感情を記録して何年後でも思い出せるのが写真の魅力です。写真はいつか宝物になります。自分の宝物にも誰かの宝物にも。人類の生活には写真は必須だと思いますよ。みなさんも写真を撮る理由を考えてみてください。


文・写真/幡野広志 (すべて書籍『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』より)

うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真(ポプラ社)

幡野広志

2023/11/15

1650円

271ページ

ISBN:

978-4591179307

ほとんどの人に写真の才能がある。でも、多くの人が写真を誤解している――即完売の大人気ワークショップをベースに幡野広志が書き下ろす、できれば触れたくなかった「写真の話」。いい写真とうまい写真はちがう。だめな写真とへたな写真も同じ意味じゃない。うまくてだめな写真もあるし、ヘタだけどいい写真もある。「いい写真」を知り、「いい写真」を撮ろう。写真の価値観が変わる、写真初心者必読の1冊。

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