「ネコメシ。」を主宰する熊谷典子さん。お弁当やケータリングの仕事を始める前は、漫画家を志しながら、編集プロダクションで働いていたという。仕事の一環として撮影現場でスタッフやモデルが食べるお弁当を手配していたことを目の当たりにし、ならば自分でケータリングをやってみようと思ったのがきっかけだそうだ。
「元々料理は好きでしたが、自宅で友人達のために作る程度でした。仕事で撮影現場の”ロケ弁”の発注を担当する機会も多かったので、日常的にお弁当やケータリングに触れていたんです。そんなときにふと『自分でも作ってみたい』と思って始めたのですが、今思うとそれが転機でしたね。徐々に口コミで注文をいただくようになり……。元々凝り性だったので、コツコツと料理を作る『職人仕事』が性に合ったのかもしれないですね」
人気メニューの1つ、「季節のちらし寿司」のアイディアは、編集プロダクションで働いていたときの経験から思いついたそう。
ファッション業界人に愛されたケータリング屋「ネコメシ。」 主宰・熊谷典子さんのお弁当の物語。(前編)
集英社オンライン / 2022年6月2日 11時1分
熊谷典子さんが主宰する「ネコメシ。」は、ファッション業界で愛されたお弁当屋さんだ。惜しまれつつ2022年に閉業したが、そのお弁当やケータリングは、華やかかつ個性豊かでありながら、どこかほっと安心できる味わい。モデルや俳優、カメラマンなど多種多様な業界人を虜にし、編集者から圧倒的な支持を得ていた。今回はそんな「ネコメシ。」ファンのベテラン編集者たちのコメントと共に、熊谷さんに聞いたおいしさの秘訣を紹介する
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熊谷典子さん。「ネコメシ。」主宰。「マンマの味をお届けします」をコンセプトに、ケータリングやお弁当販売を行う。2022年にファンから惜しまれつつ、ネコメシ。を閉業
現場の気持ちがわかるからこそ、喜ばれるお弁当が作れる
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酢飯の中に混ぜ込まれた、蓮根ときゅうりのシャキシャキ感が食感のアクセントになっている。季節ごとに変わる食材を楽しみにしていた業界人も多く、特に夏に人気があったのは、すだち。爽やかな香りと甘辛い穴子の組み合わせが食欲をそそる一品だ。
「撮影が続いて連日お弁当やおにぎりばかりで白いごはんが続くことが多いのを、編集プロダクションでの経験で知っていました。そんなとき『時々酢飯があると嬉しいよね』という声が現場で上がっていたのが印象に残っていたので、ちらし寿司を作ろうと思い立ちました。意識したのはお弁当箱の蓋を開けたときに、季節に合わせた食材の香りがフワッと立ちのぼること。そのために旬の食材を酢飯の上に敷き詰めています。春から夏にかけては、酢橘などの柑橘、秋は菊の花、冬はゆり根……という具合に季節によって具材を変えていました」
<季節のちらし寿司>
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かやく・・・
ごぼう、こんにゃく、油揚げを3mm角に切り、正油と砂糖で薄く炊く。
甘酢漬けにした蓮根を3mm角に切る。
干し椎茸を戻し、正油と砂糖で甘辛く炊いた後、3mm角に切る。
穴子・・・
下処理をした穴子をザラメ、正油、酒で甘辛く炊く。
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(ちらし寿司の作り方)
① きゅうりを薄切りにし、茹でて冷や水に取った後に固く絞る。
② 酢飯にかやくと胡麻、薄切りにしたきゅうり、2cm角に切ったアナゴ、刻んだ山椒の葉を混ぜる。
③ ②を笹を敷いた容器に詰め、スライスした酢橘を敷き詰める。
蓋を開けるだけで、気持ちが盛り上がる
早朝からの撮影の朝ごはんは、おむすびやパンなどの炭水化物ではなく、フルーツのような軽めの食事を好む人も多い。そんなときに重宝されていたメニューが、「フルーツの盛り合わせ」だ。「ネコメシ。」を頻繁に頼んでいた編集者からも熱い声が届いた。
「写真を撮れるわけはないし、メイクアップを施せるはずもなく、きれいな着せ付けやしわ取りもできない。目に見える専門技術を現場で披露することがない編集者にとって、ファッション撮影現場でのケータリング手配はじつは大切な腕の見せ所なのです。だから私は『ネコメシ。』に相談することが多かった。“御開帳”の際、どれだけ現場の皆さんに喜んでいただけるか。その一瞬に注力していたので、特に彩りの美しい果物の盛り合わせが、どれだけ力となってくれたか分かりません。気持ちよく撮影を進行するための影の同志でもあってくれた熊谷さんに、改めて感謝しています。」 ーー五十嵐真奈 SPUR.JP編集長
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熊谷さんに盛り付けの秘訣を聞いてみると、
「盛り付けは、フラワーアーティスト、ニコライ・バーグマンのフラワーボックスを参考にしています。メインとなるフルーツを1つ決めて、そこに合わせて色のグラデーションを作っていくんです。あとは表現したいニュアンスを決めて、それに向けて色合いを決めていきます。”楽しさ”だったら補色を大胆に使ってカラフルに、”シック”なイメージは同一色のグラデーションなど。季節によっても、暖かいときは黄・白・緑などの色を使い、寒いときは赤や紫の果物を選んでいましたね。」
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<フルーツ盛り合わせ>
材料:形や大きさの違う果物を3、4種類。
切り方:揃えた果物の大きさと、盛る器の大きさを比較して切る。果物同士は大体同じ大きさに。
色:メインの果物に合わせてグラデーションを作る。ブルーベリーやザクロなどの小さい果物は補色に。
その場にいる全員が満足できるような工夫を
「おむすびは男女ともに人気のメニューでした。忙しい撮影でも片手でさっと食べられるように小ぶりに作っていたんです。様々なメンバーが集まる現場で全員に満足してもらえるように、ハーブご飯などのユニークなメニューと、ちりめん山椒や梅干しなどの定番メニューと両方を用意していました」と熊谷さんは話す。
「ここぞ、という表紙の撮影でも、『ネコメシ。』こと熊谷さんのケータリングはパワーをくれた。美味しいお弁当があればそれだけで撮影に安心して臨める。見た目にも鮮やかなすだち薫る混ぜ飯に花びらを散らしたフルーツ、唐揚げ…と全部好きでしたが、一番はおむすびと煮卵。当日の撮影スタッフの人数で割って『余り』を秒で計算してこっそり頂いていました…。熊谷さんが営んでいた三宿の『黒猫』にもカメラマンと訪れましたが、何とも蠱惑的なムードでした。」 ーー吉崎哲一郎 UOMO副編集長
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米は『ネコメシ。』用に、時間が経っても美味しく食べられるようお米マイスターにブレンドしてもらっていた。「特に変わった炊き方はしていないのですが、羽釜で炊くと冷めてもモチモチとした食感が残ります」
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<山椒おむすび>
① アク抜きをした実山椒とちりめんを、酒、正油、砂糖を煮立たせた鍋に入れ、強火で炒る。
② 炊き立てのご飯にちりめん山椒を混ぜる。
③ 多めの手塩をし、おむすびを握る。
④ 通気性を良くし、乾燥しないように冷ます。
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今回は、現場で実際に人気があったメニュー3品について紹介した。そのどれも、熊谷さんの細やかな気遣いと精細でユニークな工夫が込められている、『ネコメシ。』を象徴するもの。次回は家庭でも手軽にできる「唐揚げ」などのレシピと、その美味しさの秘訣について熊谷さんにお伺いする。
写真/猪原悠 取材・文/平井莉生、川端うの(FIUME Inc.)
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