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「日高屋」のロードサイド店拡大は原価率抑制に心血を注ぐ「幸楽苑」と同じ轍を踏むことになるか…デフレ下で成長した飲食店がぶち当たる壁とは

集英社オンライン / 2024年1月31日 11時1分

コロナ禍で2期連続の営業赤字となったが、2023年2月期は黒字化を実現。1月5日に発表した2023年3-11月の売上高は3割の増収。営業利益は24倍に跳ね上がった。ただし、日高屋はコロナ禍を機に出店戦略の見直しを図ろうとしている。ロードサイド店を強化しようというのだ。日高屋ファンにとってエリア拡大は大歓迎だが、この戦略は不採算店を生み出す危険性も孕んでいる。業績が低迷する幸楽苑を彷彿とさせるのだ。

「日高屋」が値上げ実施後も客数は2割増

日高屋は、2024年2月期の売上高を前期比23.1%増の470億円、営業利益を前期の7倍近い41億5000万円と予想している。昨年8月21日に通期業績予想の上方修正を発表しており、440億円としていた売上高を6.8%引き上げた。



予想通りに着地をすると、コロナ禍前の2019年2月期の売上高419億円を1割以上上回ることになる。一時は3割近い減収に見舞われていた。まさにV字回復といったところだ。

日高屋は2023年3月1日から値上げを実施した。6個入りの餃子を20円、味噌ラーメン、とんこつラーメンを10円、価格を引き上げている。定食は30~50円、アルコール類も10~20円程度高くなった。

価格改定を行った後も客数が落ちる様子はない。2023年3-12月の既存店の客数は前年同期間の2割増で推移している。既存店客数は新規オープンした店舗の影響を受けず、本来の集客状況がよくわかる数字だ。

値上げを行った影響もあって客単価は1割近く増加。結果として、既存店でも3割近い増収となっているわけだ。

コロナ禍での数字の落ち込みが激しかっただけに、今期の回復は一層力強く見える。

アルコール比率が高いのにロードサイド店を積極出店

ただし、死角がないわけではない。コロナ禍を機に既存のビジネスモデルが限界に達し、出店戦略を大幅に見直したのだ。

日高屋はドミナント戦略を推し進めて成長した会社だ。東京都と埼玉県の繁華街を中心に出店し、会社員や学生の昼食と夕食の需要を獲得してきた。日高屋のアルコール比率は売上げの15%と高い比率を占める。通常の中華料理店は3%程度が一般的だ。これがいわゆる「ちょい飲み」需要である。

命綱は出店場所だった。日高屋は価格改定でも中華そばの値段を390円で据え置いた。都心で低価格メニューを提供できるのも、繁華街立地で高回転を実現できたからに他ならない。

しかし、その戦略を改めようというのだ。

郊外のロードサイトへの出店に加え、乗降客数3万人程度の駅前にも出店するという。
コロナ禍でリモートワークが進み、ロードサイド店が繁盛しているのはよく知られている通りだ。日高屋の出店戦略の変更は歓迎すべきことのようにも見えるが、必ずしも成功が約束されているわけではない。

不調から抜け出せない会社に、日高屋と酷似する低価格のラーメンチェーンで、ロードサイド型の出店を得意とする幸楽苑ホールディングスがある。

ロードサイド店はリピーター創出がカギとなる

幸楽苑は2023年4-9月に4億円の営業赤字を出している。2024年3月期は5000万円というギリギリの営業黒字を見込んでいるが、1億5000万円の純損失を計上する見込みだ。

通期の売上高は265億円を予想。この金額はコロナ禍を迎える前2019年3月期の6割の水準に留まっている。

決算短信より筆者作成

ロードサイド型は繁華街型に比べて回転率が低い。カウンターが少なく、複数人が座る席が多いために1人で来店すると4人掛けのテーブル席につくこともあるため、店舗の運営効率が悪くなりがちだ。

ガテン系の顧客を狙い撃ちする山岡家は、ターゲットに合致する店舗づくりを行うことができる。しかし、“安い”がセールスポイントの幸楽苑のような店舗の場合、客層にばらつきがあるために席の配置が難しくなる。

また、人流が限られるロードサイド店はリピーターの創出がカギとなる。山岡家はクセになる味でファンやリピーターを獲得できたが、万人受けを狙う店舗はどうしても新規客がメインになる。それでも“安い”をフックに集客できればいいが、回転率が少しでも落ちると立ちどころに不採算店となる。

しかも、ロードサイド店は店舗面積が広い一方で、スタッフの数は限られるため、隅々まで目が届かなくなりがちだ。繁盛していない店は活気がなくなって衛生面でも劣ることがある。それが客離れを加速させるという、悪循環に陥りがちなのである。

日高屋は高回転かつアルコール需要の獲得で、業績を拡大してきた。ロードサイド型はその強みのどちらも活かせないのだ。

「飲食店で安く食べたい」からの消費者意識の変化

バランスよく運営している中華料理店といえば王将フードサービスだ。2024年3月期の売上高は1013億円を予想している。初の1000億円を突破する見込みだ。王将はコロナ禍の2021年3月期でも6%程度の減収に留めた驚異的な会社である。

商環境が激変する中でテイクアウト・デリバリーの需要をいち早く獲得したことが窮地を救うことになったが、王将の強さは客単価の高さにも表れている。

※「王将フードサービス」決算短信より筆者作成

王将は2021年3月期に客単価が1000円を超えた。日高屋は800円前後だ。幸楽苑も日高屋と同水準だと予想できる。直営店1店舗当たりの売上を見ると、客単価の違いによる業績への影響が明らかになる。

2023年上半期において、直営店の売上高から直営店数を割って1店舗当たりの売上推定値を出すと、王将は8300万円、日高屋は5300万円、幸楽苑は3100万円となる。これが、1店舗が半年で稼ぐ金額の目安だ。王将は圧倒的な収益力で他店を引き離している。

写真/アフロ

日高屋と幸楽苑は、原価率の抑制に心血を注いできた会社だ。日高屋の原価率は27.8%、幸楽苑が28.8%だ。王将は31.8%である。両者ともにデフレ下で価格を勝負に勢力を拡大してきた。原価を切り詰め、安く提供するビジネスモデルを構築したのだ。しかし、「外食くらいは贅沢に」という消費者意識の高まりとともに、少しお金をかけても美味しいものを食べたいという需要が高まっている。

日高屋が今のビジネスモデルを堅持したまま、ロードサイド店へと軸足を移すのは難易度が高いと言えるだろう。同社の分水嶺を迎えているのは間違いない。

取材・文/不破聡

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