「なんでそれくらいの言葉で?」あまりにも激昂してしまう人が抱えている慢性的な敵意とは。自分に自信がない人ほど、否定的に物事を捉えてしまうカラクリ
集英社オンライン / 2024年2月2日 17時1分
人が怒りを感じるのは自然な感情であり、ときには行動の適切なモチベーションになることもあるだろう。だが、あまりにも激昂してしまう人は、自分の心にも原因がないか探ってみたほうがよさそうだ。『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』より、相手の言葉以上に深く受け取ってしまっていることがないか、自分の心を見つめ直すための思考法を一部抜粋して紹介する。
なんであんなことで、あんなに怒るのか?
攻撃性は、直接表現されなければ、その人の心の底に蓄積されていく。ある人の何気ない言葉が、その人の蓄積された憎しみに火をつけてしまったということがある。
だからちょっと人が何か失礼なことをしたというだけで怒りが収まらない。
その場に不釣り合いな怒りを表現するときには、その人の中に怒りの抑圧がある。
小さい頃から敵意を次々に抑圧していくと、敵意がその敵意の対象から乖離して一般化する。もう誰も彼もが憎らしくなる。
ちょっと失礼なことというだけで、心理的に不安定になり、ベッドに入ってからも怒りが収まらない。怒りでなかなか眠れない。
やっと寝られたと思うとすぐに目が覚める。そして怒りはもっと酷くなっている。そうして暗闇の中で朝まで眠れない。
そういうことが日常茶飯事である。単なる失礼な言葉がそこまで凄い影響を持ってしまうのはなぜか?
それは敵意が、単にある人への隠された憎しみという段階からさらに別の人への隠された憎しみと複雑に融合し、変容し深刻化しているからである。
そうした敵意が、心の中に表現されないままに慢性化してくる。
敵意が慢性化しているということは、その人は「すぐに怒る性格」だということである。
特定のある人に怒っているのではない。誰であっても怒りの対象になる。そのたまたま導火線に火をつけた人に向かって、溜まった怒りが爆発する。
そしてその慢性化している隠された敵意は、その人の心の独裁者になる。逆らうことはできない。
些細な失礼で、その慢性化している隠された敵意に火がつく。そして慢性化しているから、常に怒っているし、一度怒るとちょっとやそっとのことでは怒りが収まらない。
心理的に健康な人は、なんであんなことであそこまで怒るのかと不思議がる。なんでいつまで怒っているのかと不思議になる。
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しかし、それにはそうなるだけの原因がある。
自分でも自分の怒りは不適切だと思う場合には、自分の胸の奥深くで、自分の怒りの心理と行動を調べてみる。
何かで怒るのは自然な感情である。しかしその怒りの大きさは、怒りの原因よりはるかに大きかったということが問題なのである。
なんでもない日常会話のような言葉に対する過剰反応は、その人が想像を絶する蓄積された怒りを持っているという証拠でもある。
相手の態度が、その人の幼児期の屈辱的な数々の感情的記憶をその人によみがえらせたのかもしれない。ただ本人にはその意識はない。ただそのときの相手に向かって怒りを吐き出している。
小さい頃に怒りを表現できていないから、大人になっても消えていない。
小さい頃から怒りを隠しているので、周りの人皆が嫌いになっている。
だから人には何も言いたくない。大人になれば無口で不機嫌になる。
その人の怒りが激しすぎるのは、その人が「私は拒否された」という幼児期の感情をいまだに抱えていることを示しているからかもしれない。
自分に否定的な人は
相手の言葉に深く傷つく
小さい頃から怒りが抑圧されている。
そしてその抑圧された怒りは対象から分離されて拡大し、夢の中に現れることもある。夢の中には、人を殺したり、自分が天才になったり、他人を屈辱で精神的にまいらせる等々いろいろな事柄が現れる。対象からの乖離により、敵意は次第に強化される。
なんとなく、漠然とした敵意を世の中の人々に持っている人がいる。敵意とまではいかないが漠然とした不満を持っている人もいる。
「表現されないままに慢性化した敵意」はたどっていけば、幼児期の基本的不安感(自分が敵意に満ちた外界に囲まれているという孤独・不安感)にたどり着く。どうしてもそこに行き着く。
実は親子関係で傷つきつつ不安感を持ちながらも、意識の上では仲の良い家族という場合がある。いつも怒っている人の中には仲の良い家族という幻想の中で生きてきた人たちもいる。
無意識では傷つき孤立し不安でありながら、意識の上では仲の良い仲間という幻想で生きてきた。
子どもの頃に扁桃核にいろいろな苦しい体験が詰め込まれる。
それが大人になってから、あることをきっかけにしてそれに火がつく。その屈辱と怒りが再体験される。だからすぐに怒り、いつまでも感情が不安定なのである。
もちろん幼児期ばかりではない。その後の人生でも辛いことはある。その辛いことがその人の神経回路に焼きついている。
だから人は急に本当に幸福になるなどということもないし、急に強くなるなどということもない。
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辛い幼児期があって、辛い少年期があって、大人になってから脳の扁桃核は過剰に敏感になっている。
だから昼に何か些細なことがあると、それが扁桃核を過度に刺激して夜になっても寝つけないのである。
何かが引き金となって幼児期の辛い記憶がよみがえり、今のなんでもない事件を自分の中でもの凄い事件にしてしまう。たいした失礼でもないのに「許せない人」にしてしまう。
そして緊張し、食欲を失い、眠れない夜を過ごす。翌日はぼーっとしている。何もできないまま憔悴のうちに時は過ぎていく。
常に自分に対する否定的な態度がある
些細な一言で深く落ち込んでしまうのは、もともと自分が自分に対して否定的な態度をとっているからである。相手のその一言で自分の価値を全否定されたような気持ちになる。
言葉そのものは、まさにその人のある部分を否定したに過ぎない。
例えば「あなたの、その食べ方が気に入らない」ということにしか過ぎない。あるいはフォークの使い方がおかしいのではないかという言い方である。
しかし自己蔑視している人やナルシシストは、その言葉で自分の存在そのもの、自分の価値そのものを否定されたように感じてしまう。
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したがって人の何気ない言葉に深く傷ついたときに、必死になって怒りを抑えても、それでその人の心の問題は解決しない。
傷ついたときに、いかに自分が自分に対して否定的な態度をとっていたかということに気がつき、それを改めることが問題解決には重要である。
自分に対する自分の態度を改めないで、必死で怒りを抑えて生活をしても消耗するだけである。表面的にことは収まっていっても、心理的な問題は未解決のまま残る。
自己蔑視している人は、相手の言うことが自分の価値を否定したと受け取ってしまう。
相手にはそのつもりはない。
自分の側に、常に自分に対する否定的な態度があるから、相手の態度や言葉が自分の価値を否定したと受け取ってしまう。
外化(自分の理想を相手に反映しようとすること)であり、動機混同(相手の行動の動機を自分の動機と混同すること)である。
心に傷を持つと、どうしても自分が自分に対して否定的な態度になってしまう。
写真/shutterstock
「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き (幻冬舎新書)
加藤諦三
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2024/01/30014744368263/400/9784344987128-o.jpg)
2023年11月29日
1034円
224ページ
978-4344987128
「老いても幼稚な人」「晩節を汚す人」にはなりたくない!
「我が人生に悔いなし」と言える人と言えない人、どこが違うのか?
――老いと成熟の心理学
自分の人生はもっと幸せなはずだったのに、と嘆く老人は多い。最後に「我が人生に悔いなし」と言えるかどうかは、どれだけの社会的成功を手にしたかで決まるのではない。
勝ち組人生を送ってきた人でも、いつまでも自分が「すごい人間だ」と思い込んでいたら「裸の王様」になって孤立し、不満と後悔のうちに死んでいくことになる。
人生を最後まで生き抜くのは大変な難事である。普通の暮らしに感謝する。他者との比較をやめ、執着しない――。人生の見方を変え、老いを輝かせて幸福を引き寄せる、高齢者とその家族必読の書。
「老いを認められる人」は若い!
●恨みで一生を終えるのですか
●失敗は人生を意味あるものにする
●老化に失敗すると孤独になる
●老いてなお生きるのは恥ずかしいのか?
●高齢者は本来幸せで、健康で、活動的である
●「英雄末路哀れなり」の意味
●なんであんなことで、あんなに怒るのか?
●過去の成功に頼る人は行き詰まる
●完璧な健康を求めてはいけない
●幸せな人は不幸を受け入れている ……ほか
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