1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

「本質的には人は人によってつくられた作品を好む」というが、それは作品の背景情報が評価に影響を与えているだけ? もはや見抜けなくなるまで発展したAI技術

集英社オンライン / 2024年2月8日 18時1分

「クリエイターはみなAIに取って代わられるのでは?」AI技術が発展すればするほど、たびたび議論になる話題だ。最新の調査では、人間は本質的には人によってつくられた創作物を好むという結果が出ているが、果たして予備知識なしで生成AIかそうでないかを見分けられるかは疑問だ。最新技術が生む議論に忖度なしで切り込んだ書籍『生成AIで世界はこう変わる』より一部抜粋し、作品に対して人が抱く感情を解説する。

#2

AIがつくった作品に価値を感じられるか?

「AIを使っているとわかった作品には、あまり価値を感じない」

「クリエイターがAIを使っているのを見ると、複雑な気分になる」

「良いイラストを見つけたときに、それがAIによるものなのか、人間によるものなのか、確認するようになった」



「AIを使った作品は、人間のつくった創作物と混ざらないように隔離する必要がある」

これらは生成AIブームの開始から現在にいたるまで、SNSなどで実際に見られている反応です。

写真はイメージです

実際には、創作のなかに「なんらかの生成を行うAI(機械)で生み出された要素」が混じっているという事態は、そこまで特別なものではありません。シンセサイザーやボーカロイドなどは、そもそものコンセプトとして機械的な音声合成を行うものですし、数年前から存在するイラストの自動彩色も、現在の生成AIと呼ばれているものと本質的には同じ(大量の著作物からニューラルネットワークを学習し、出力が生成的)です。

上記の反応は、生成AIによる生成物が、人間が生み出す作品と表面上は見分けがつかないレベルに達して初めて表面化したものと言えるでしょう。

これは人類史上で例がなかった事態であり、このような反応のもとになる人間の価値観が長期的にどのようになっていくかは、筆者も(そして人類の誰にも)正確な予測は困難です。

一方、AIが生み出したコンテンツに対する現在のわれわれの価値観に関しては、生成AIブーム以前と以降に出た2種類の興味深い研究があります。これらの研究で得られた結果は、長期的なわれわれの価値観を考えるうえでヒントになるかもしれません。

人間によるものを買いたい

まず1つ目の研究は、「人間のアーティストはAIを恐れるべきか?クリエイティブAIの認識に関するレポート」と題された論文で、2019年に行われたものです。

この論文中では実験の参加者に、「人間が制作した絵画とAIが制作した絵画を買うとしたら、どちらを買うか」「人間が制作した音楽とAIが制作した音楽を買うとしたら、どちらを買うか」という質問に対して回答させています。

その結果、前者は90.1%、後者は93.1%の参加者が「人間によるものを買いたい」と答えています。

また、AIに任せたい仕事、逆に任せたくない仕事に関するアンケートでは、創造的な仕事や感情支援、高齢者ケアなど、いずれも感情や共感をともなう仕事が「任せたくない」と回答される傾向にありました(図4-4、図4-5)。

出典: “Should Human Artists Fear AI?: A Report on the Perception of Creative AI”をもとに作成

出典: “Should Human Artists Fear AI?: A Report on the Perception of Creative AI”をもとに作成

記述式の回答では、AIと創作に関して「AIによってつくられた芸術は、決して人間には受け入れられることはない」など、AIによる創作に関して相当に否定的なものが確認されています。

この研究が行われていた時点では、現在のようにAIと創作に関する激しい議論は世間一般では起きていませんでした。また、将来的に現在のような高性能なAIが登場するかどうかも不透明な状況でした。

それにもかかわらず、AIによる創作に関してこのような否定的な傾向が見られたことから、人間が根源的にAI(機械)によって一定以上自動化された創作に対して、否定的な感情を持つことがうかがえます。

「人間がつくったかどうか」が最大の価値基準?

2つ目の研究は、「人間対AI――AIが制作したアート作品よりも人間が制作したアート作品を好むのか。そしてその理由」と題された論文で、生成AIの登場によってAIと創作に関する議論が本格した2023年に行われたものです。

この実験では150人の被験者に対して、「人間がつくった」「AIが生成した」というラベルをランダムに割り振った画像を見せ、「どれくらい好きか」「どれくらい美的だと感じたか」「どれくらい深みや意図を感じられたか」という項目について、5段階評価させました。この実験には大変面白い仕掛けがありました。

実は、実験に使用された画像はすべてAIによって生成されたもので、人間が制作したものは1つもなかったのです。つまり、この実験で「人間がつくった」「AIが生成した」とラベルが付いた画像の間で回答の傾向に差が出るとすれば、作品の物理的・表面的な性質は関係なく、「AIが書いたのか、人間が書いたのか」という作品の背景情報が評価に影響を与えていることになります。

この実験の結果は、「人間が書いた」というラベルが付いた画像のほうが、どの項目についてもより高く評価されたというものでした(図4-6)。

出典: “Humans vs. AI: Whether and why we prefer human-created compared to AI-created artwork”をもとに作成

以上の研究を踏まえると、人間がコンテンツを鑑賞する場合、コンテンツそのものではなく、その作品に付与される背景情報に大きな影響を受けていること、そして「人によって生み出された」という背景情報に対して肯定的な傾向を示すということは明らかです。

しかし、今後の技術発展を考えると、将来的に生成AIによって生み出される作品は、現時点ではまだ見られる不自然な部分も克服し、人間の生み出す作品と表面上は見分けがつかなくなるでしょう。本章の冒頭で例に挙げた私のイラスト投稿に対する反応の違いが生まれたのは、「人間が生み出したものに高い評価を与えたい」という、ある種の本能的な価値観が根源にあったからだと言えるでしょう。

一方、これらの研究からは明らかでないこともあります。AIによる生成と人間による創作を分ける基準はなんなのか、という点です。

すでに現在の創作コンテンツにも、AIや機械によってある程度自動化された部分が混じっていることは珍しくありません。将来的には、作者はともかく外部からは判断できないものがますます生まれていくでしょう。そもそも、AIか人間かを問う意義自体に、疑問が生じてくるかもしれません。

これは創作作品の鑑賞を楽しんできた筆者の私見になりますが、先ほどの研究における人間かAIかという二元論も、実際のところは本質的ではない気がします。

われわれは作品を鑑賞する際に、作品を生み出すクリエイターの情熱や、作品に込められたストーリーも含めて受け取り、感動しているのだと思います。生成AIが発展する以前であれば、高品質な作品の背後に、自然とクリエイターの情熱と込められたストーリーが存在すると見なせました。仮にある程度、AIや機械的な自動化の影響を受けているとしても、高い技量と根気、情熱がなければ、そのような作品を生み出せるわけがなかったのです。

ところが、そこに自動化のレベルが何十段階も進んだ生成AIが現れ、誰もが手軽に高品質な作品を生み出せるようになったことで、われわれの作品鑑賞における常識がうまく機能しなくなっているというのが、現在の状況だと思います。

おそらく今後、従来のクリエイターは、自身の感情面での自動化の許容度と、生成AIの利用によって得られる効率化などの恩恵度合を考慮して、最適な利用ラインを選択していくと思います。人によっては、まったく利用しないという選択も考えられるでしょう。

生成AI登場以降にAIを利用してコンテンツ生産者になった人は、その利用ラインもゆるやかかもしれません。プロンプトを工夫する行為が、本人にとって情熱やストーリーを反映するものとしてとらえられるのであれば、それはそれとして尊重されてもいいと個人的には思います。

では、鑑賞者側は何を基準にコンテンツを味わうのか。これも、人によって異なるラインができていくのでしょうが、創作物を生み出そうとした人そのもの、あるいはコンテンツ上で表現されたこだわりや工夫のようなものに注目することになるのではないかと思います。


図/書籍『生成AIで世界はこう変わる』より
写真/shutterstock

生成AIで世界はこう変わる(SBI新書)

今井翔太

2024年1月7日

990円

256ページ

ISBN:

978-4815622978

新進気鋭のAI研究者が大予測! 生成AIで変わる私たちの仕事・くらし・文化

話題の生成AI、どこまでなにができる?AIって結局、どんなしくみで動いているの?最新テクノロジーで私たちの仕事は奪われる?AIで働き方や生活がどう変わるのか知りたい…

ChatGPT、Bing、Claude、Midjourney、Stable Diffusion、Adobe Firefly、Google Bard…今世紀最大ともいえる変革を全世界にもたらした、生成AI。

この時代を生きるわたしたちにとって、人工知能をはじめとする最新テクノロジー、そしてそれに伴う技術革新は、ビジネス、社会生活、娯楽など、多様な側面で個々人の人生に影響を及ぼす存在となっています。

ただでさえ変化スピードが速く、情報のキャッチアップに苦戦するテクノロジー領域。数か月後には今の状況ががらりと変わってる可能性が非常に高い…そのような状況下で、今私たちは生きています。

ホットな話題でいえば、「クリエイターはみなAIに取って代わられるのでは?」「人間にしかできない価値創造ってなに?」など、これまで当たり前だと信じて疑わなかった「労働」「お金」「日常生活」などのパラダイムシフトが起こっています。

そんな今、まさにみなさんに手に取っていただきたいのがこの1冊です。この時代を生きる多くの方が抱いているであろう不安や疑問、そして未来への興味関心に、本書はお応えします。本書では、AI研究の第一人者である東京大学教授・内閣府AI戦略会議座長を務める松尾豊氏の研究室所属の今井翔太氏が、生成AIで激変する世界を大予測!

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください