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80代両親の家じまい…「本当は商店街のそばで暮らしたい」母の一言から始まった実家の整理「最後は住みたい町に暮らす」幸せ

集英社オンライン / 2024年2月25日 8時1分

ライフスタイルの大きな変化は、何がきっかけになるかわからない。「本当は商店街のそばで暮らしたい」そんな母の一言から、出会った小さなマンション。実家売却、遺言書作り、家財道具を手放し、親子で目指した新たな暮らし方とは? 新しい老後の過ごし方を描くエッセイ『最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理』(集英社)より一部抜粋・再編集してお届けする。

80代半ばでマンションを買う

天草旅行も終わり、親の家に戻り東京に帰る支度をしていると、いつものようにエプロン姿の父がお茶を飲んでいた。父の担当家事、食器洗いを終えてくつろいでいるのだ。

本当はどこにも行かず自分専用のソファに座って、この家から窓の向こうの海を眺めたり、テレビを見ていたいのだろう。それほど父は自分の建てたこの家を愛している。



「やっぱり我が家が一番落ち着くねぇ」と幸せそうに父が言った。すると母は、「そりゃそうだけど、時々よそに連れて行ってもらわないと、私はもたないのよ」と反論。母のストレスは極限のようだ。

父はその意味が理解できないようで、大げさだなと笑った。その後、いつものようにメガネがないと、あちこち探し始め、母が重たい腰を上げた。

東京に戻ることに後ろ髪を引かれた。両親には身内に代わって手助けしてくれる人が必要だ。

母に手伝ってくれる人を探そう、タクシーを使おう、お掃除サービスを入れよう、多少お金を払っても楽をした方がいいと訴えるのだが、ことごとく却下された。高齢になったらサービスてんこ盛りの素敵な高齢者住宅に住みたい私からすると、なぜ、もっと人に任せないのか歯がゆいばかりだ。それで母が幸せならいいのだが、疲労をため込み、体調を崩してもなお、自分で全てをやろうと死守する。

その根幹は何なのか。自分のペースを崩されたくない。人に介入されて自分の思うようにできないのなら、きつくても自分でやる、と決めているのだ。

何度かあった良縁とのすれ違いの末に

もし母が町に引っ越したらどうなるだろう。弁当屋も惣菜屋もあるから、小銭を持って商店街に行けば、食事は何とでもなる。通いの病院も近いから、バスで往復1時間使って通院することもなくなる。

そう考えた時、もう一度商店街エリアを見たいと思った。東京に戻る飛行機が出るまで少し時間があると車を飛ばす。

見慣れた商店街はのんびりと買い物袋を下げた人たちが歩道を行き交っていた。

歩き進むと、商店街のほど近くでマンションの建設工事が始まっていた。工事のお知らせを見るとそれは、威勢のいい営業さんに完売ですと告げられたマンションだった。

何と、こんないい場所だったのか。キャンセル住戸は無いのだろうかと営業さんにその場から問い合わせた。だが、「皆さんから同様のお問い合わせをたくさん頂いてるんですが、完売なんです」と、念を押すように言われた。

これまでも何度かあった良縁とのすれ違い。再び得がたい物件購入はタイミングを違えないことだ。

営業さんは、そこのチラシをご覧になったらどうか、みたいなことを言って電話を切った。

見ると建築確認書が書かれたボードの横にボックスがあり、チラシが入っていた。さっき営業さんが見ろと言っていたのはこれか。広げてみると、現地案内図が載っている。なんとここから近いようだ。

慌てて向かってみれば、地図の示す空き地にはすでにロープが張られていた。近くには高い建物もなく、建設地からの視界は開け、正面には弓を描くようになだらかな山が重なり合っている。これまで見た中で最高の立地ではないか。間違いなくここに、マンションが建つのだ。

界隈を父と共に楽しそうに歩く母の姿

震える手で何枚か現場の写真を撮り、やむなく空港に向かった。機内でもまだ、物件は残っているのだろうかと、その事ばかり考えていた。

夕方、東京に戻るやさっそくマンション販売の窓口に電話を入れたところ、募集は始まったばかりだという。金額は第一弾より少し割高だが、許容範囲だ。

丁寧な口調の青年営業さんが、購入可能な部屋をいくつか教えてくれた。私のように商店街マンション第一弾を買えなかった人が、どんどん申し込みを入れているらしい。聞けば眺めの良い南向きの角部屋に空きが残っているという。

申し込む場合はまず申込金の10万円を支払ってくださいとのこと。当然ながら一晩だけ待って欲しいと頼んだ。

くどいようだが、親は買うとも引っ越すとも言っていない。けれど今回はなぜか、流れが変わるような気がした。建設予定地を見たとき、この界隈を父と共に楽しそうに歩く母の姿が頭をよぎったのだ。

まずは母と話さなくてはと、頭を整理した。

最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理

井形 慶子

2024年2月26日発売

1,870円(税込)

四六判/256ページ

ISBN:

978-4-08-781749-2

人生の大きな変化は、何がきっかけになるかわからない。
「本当は商店街のそばで暮らしたい」
母の一言から小さなマンションに出会った。

実家売却、遺言書作り、家財道具を手放し
親子で目指した、新たな暮らし方とは?
感動の日々を描くエッセイ。

『年34日だけの洋品店』に続く50代からの生き方を綴る第二弾!

<本文より>
この歳で住み替えて本当に良いのだろうか、心は揺れたが、
これから二人が助け合って生活するにはマンションの方がいい。
今の場所で頑張り続けるより「無理をやめる」決断をする方が
どれだけ難しく、前向きなことか。

<もくじより>
1 親の老いに気づくとき
2 最後に住みたい商店街の町
3 80代でマンションを買う
4 待ったなしの遺言書作り
5 親の思いと子の現実
6「住みたい家」と「売れる家」
7 目標6ヶ月で実家売却
8 住み替えの不安を払拭するために
9 何でも売ってみる「家じまい」
10 一週間でお片付け
11 必要最低限の整理しやすくくつろげる家
12 2LKDの新しい家

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