ひときわ寒い冬に待ち遠しくなるのは花の季節である。枯れ木の中でいち早く蕾をふくらませるのが梅であるが、「梅」のつく地名で最も有名なのは大阪の梅田だろうか。大阪駅の所在地(大阪市北区梅田三丁目)でもあるが、明治7年(1874)に関西初の鉄道が神戸までの間に開通した時、その停車場が建設されたのは大阪の旧市街から北に外れた曽根崎村の田んぼが広がる地域であった。
埋め立てにちなむ埋田が転じて梅田になったとされるが、梅田姓に由来する説もある。
『角川日本地名大辞典』に掲載されている大字レベルの現役の「梅田」(梅田町も含む)は全国に19あるが、このうち埼玉県春日部市、新潟県長岡市、和歌山県海南市、鳥取県琴浦町の梅田は「埋田」に関係すると説明しており、由来が記されていない梅田も沖積地が目立つ。
日本には古くから良い字を選ぶ「好字化」の伝統があり、梅の字が特に好まれたのだろう。長崎市の出島にほど近い梅香崎町も、幕末期に埋め立てられた場所に当時の長崎奉行が命名したという。
もちろん好字ではなく、新しい地名には文字通りの梅の木に由来する地名が目立つ。最も古そうなのが梅の名所・偕楽園で知られる水戸市の梅香(上梅香・下梅香)。梅を愛した佐竹氏の家臣・岡本禅哲(号は梅香斎)の居館に由来する。愛知県知多市梅が丘は昭和55年(1980)成立と新しいが、「古くから梅の花の咲く丘であったことに由来」(前出『角川』)するという。