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サイゼリヤのパスタが絶好調、「値上げしない宣言」からの営業黒字を実現した意外な理由とは

集英社オンライン / 2024年2月6日 17時1分

「サイゼリヤ」が2023年9-11月に国内事業で2500万円の営業利益(前年同期間は4億4300万円の営業損失)を出した。原材料や光熱費、人件費が高騰する中でも「値上げはしない」と宣言。苦戦が予想されたが、早々と黒字化を果たした。

営業利益率はコロナ禍前を上回る

経費削減と消費動向の変化をつかんだ巧みな戦略が奏功しているが、ライバルの「すかいらーく」が値下げに動くなど、収益力を取り戻したファミリーレストラン業界は競争が激しくなっている。

サイゼリヤは2022年8月期に4億2200万円、2023年8月期に72億2200万円の営業利益を出したが、国内事業部門は赤字だった。中国事業のほうが好調で、国内の赤字を埋め合わせていたのだ。国内事業を黒字化した意味は大きい。収益性の向上が期待できるからだ。



サイゼリヤは2024年8月期に売上高を2110億円、営業利益を131億円と予想している。営業利益率は6.2%だ。2019年8月期は6.1%だった。わずかだが、コロナ前よりも稼ぐ力は高まる見込みだ。2023年9-11月の営業利益率は6.6%で、通期予想を上回ってスタートしている。

サイゼリヤの業績推移 ※決算短信より筆者作成

サイゼリヤは経費削減と客数増、そして客単価の増加という3点セットが稼ぐ力の回復に寄与している。

2023年9-11月のサイゼリヤの販管費比率は52.8%。前年同期間は57.7%だ。5ポイント近く下がっている。販管費の4割程度は人件費が占めている。サイゼリヤは深夜営業の廃止し、伝統だった紙の注文方式も一部の店舗で改めている。

営業時間の見直し、デジタル化によるオペレーション改善、集計作業などの簡略化により、残業代などを大幅にカットできた可能性が高い。

サイゼリヤのパスタに思わぬ変化が・・・

客数の回復も顕著だ。2019年9-11月の客数は3800万人だった。2023年9-11月は4000万人で、6.7%増加している。なお、2019年11月末時点の国内の店舗数は1085、2023年11月末時点では1051だった。店舗は84店舗減少しているが、客数は増加しているのである。しかも、サイゼリヤは深夜帯の営業を廃止しているのだ。

24時間営業をやめることに批判的な声も大きかったが、経費削減・客数増という結果を目の当たりにすると、経営戦略においては優れた意思決定だったことがわかる。そしてサイゼリヤを語る上で外せないのが、客単価も上がっていることだ。2019年11月の729円から807円まで80円(1割)高くなっている。

値上げをしていないにもかかわらず、客単価が上がっているのは不思議な現象だが、消費動向を見ると納得ができる。下の表は、総務省の家計調査から2人以上の世帯の外食の支出額だ。2019年11月と2023年11月の月間の支出額を比較している。

コロナ前・後の11月外食支出額の比較(円) ※総務省家計調査より筆者作成

外食の支出額はコロナ禍をきっかけに抑制されたと思われがちだが、結果はむしろ逆だ。飲食店での食事代は7%増加している。サイゼリヤが得意とするパスタなどの「他の麺類外食」は7.4%、洋食も1.6%高まった。

飲食店で1回当たりに使う金額が変化

そして、同月における100世帯当たりの月間利用頻度を見ると、食事を行う頻度そのものが1割上がっており、洋食レストランの利用頻度は7.4%増加していることがわかる。

100世帯当たりの外食頻度 ※総務省家計調査より筆者作成

この結果から、サイゼリヤの客数が増加した理由を推察することができる。そして下の表が、1世帯当たりが1回当たりの食事で支出した金額を独自に割り出したものだ。

1回当たりの支出額(円) ※総務省家計調査より筆者作成

パスタなどの「他の麺類外食」は、7.4%も上昇している。洋食は5.4%下がっているが、ピザなどの「他の主食的外食」は3.9%上昇した。サイゼリヤが得意とする、「他の麺類外食」「洋食」「他の主食的外食」を合わせると、1.5%増加している。これらの要素を総合すると、消費者はインフレにある程度慣れ、飲食店で1回当たりに使う金額が変化したと推測できる。

さらにリベンジ消費が影響しているだろうが、利用頻度も上がっているのだ。

サイゼリヤは値上げをしないと宣言したことにより、消費者ブランド選好度が高まって集客に成功。消費者意識が変化したことによって客単価も上がるという、好サイクルの恩恵を受けた可能性が高い。

値下げで集客力向上を狙うガスト

インフレのさなかで値下げを行ったのが「すかいらーく」だ。同社は2022年に2度の値上げを実施したが、2023年11月に価格改定でガストの主力メニューの一つである「チーズINハンバーグ」を50円値下げするなど、30品目の見直しを行った。

ガストを運営するすかいらーくは2022年12月期に55億7500万円の営業損失を出すなど、コロナ禍から完全回復しきれていなかったが、2023年1-6月に営業黒字化を実現した。収益性の回復は、値上げによる客単価上昇の影響が大きい。

2023年は2019年と比較して、客単価は1.2倍に上昇している。仮に2019年の客単価が800円だったと仮定しよう。そうすると、2023年は970円まで上がったことになる。

すかいらーく客単価 ※月次業績の数字をもとに独自に算出

すかいらーくは2022年7月、10月に一部店舗で5%程度の値上げを実施しているが、2022年の客単価の伸びは限定的だ。値上げ効果がフルで寄与した2023年の数字がそのおかげで高くなっているのは間違いないが、2022年比で1割近く上昇している。

すかいらーくもサイゼリヤ同様、消費者意識の変化の好影響を受けている可能性がある。そこで、値下げで集客力を高めようと考えたのだろう。

写真/Shutterstock

値下げを行ったことで、2023年11月、12月の客数は前年同月比で12.6%それぞれ増加している。10月の客数は9.9%の増加だった。稼ぎ時の年末に効果は出ているように見える。気になるのは、インフレ下においても、大手ファミリーレストランが低価格を集客フックにしている点だ。消費者が財布のひもを緩めはじめているのは間違いなく、多少高くても質の高いものを求めている姿が浮かび上がっている。

中長期的に収益性を高めるためには、高単価のメニューを追加するなど、消費動向をとらえた店舗運営、メニュー開発が必要になるかもしれない。

取材・文/不破聡

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