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もはや管理職は罰ゲーム? 縮む給与差、育たない後任、辞めていく女性と若手…昇進が希望にならない日本の会社組織の問題点

集英社オンライン / 2024年2月9日 11時31分

高い自殺率、縮む給与差、育たぬ後任、辞めていく女性と若手──。日本の管理職の異常な「罰ゲーム化」をデータで示し、解決策を提案する。ビジネスの現場を救う知恵とヒントを指南する『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)より一部抜粋・再編集してお届けする。

死に至る管理職 管理職と健康問題

2019年、英国の疫学・公衆衛生専門誌「Journal of Epidemiology and Community Health」に、衝撃的な研究が発表されました。その内容は、「日本では一般職よりも管理職のほうが死亡率が高い」というものです。

この研究は、日本・韓国・欧州8カ国(フィンランド、デンマーク、イングランド/ウェールズ、フランス、スイス、イタリア、エストニア、リトアニア)の過去25年間の変化について国際共同研究をしたものです。日本からは東京大学の研究者が参加しています。



この研究では、欧米では一般的に管理職や専門職の死亡率がその他の職種よりも低いのに対し、日本においては1990年代後半に管理職男性の死亡率が上昇したことが報告されています5(図表14)。普通に考えれば、管理職のほうが、健康に割けるリソースが多くなりそうです。経済的な余裕があるほど、ジムに行ったり健康的な食事を摂ることができそうですし、社会的地位が高いほうが、健康への意識も高くなりそうです。

しかし、日本は死亡率という点でその関係が逆であることが示されたのです。男性の管理職の死亡率は1980年代から1990年代中頃にかけては他の職種に比べて低い状況でしたが、1990年代後半を境に死亡率が大きく上昇し、他の職種と傾向が逆転したということが報告されています。

経済的な不況とともに、管理職の死亡率が逆転してしまったのです。特にそこで増えた死因が「自殺」だと言われています。2020年の日本の自殺者数は2万1081人で、先進国の中でもいまだにトップクラスです。また、バブル後の自殺者急増は「経済・生活問題」を抱えた中高年男性よるものが大きいことがわかっています。経済的不況とともに働き盛りの管理職の自殺が増えてしまったのです。

管理職の「罰ゲーム化」が自殺や病気につながるリスク

管理職の「罰ゲーム化」は、会社の経営上の問題だけでなく、人の人生を丸ごと狂わせる心身へのダメージにつながりかねないということです。人は、ビジネス・パーソンとしてはいつか引退していきますが、体と心は一生涯で一つです。この「罰ゲーム」が、自殺や病気といった重大なリスクを高めるのであれば、それはすでに大きな社会課題です。

管理職の苦境は、環境問題や貧困問題のような社会的イシューとしての「わかりやすさ」や「共感されやすさ」を持ち合わせていません。多くの管理職は、組織の序列では上位者であり、賃金も多くもらっています。多くの人は、そうした管理職の負荷に対して無関心です。管理職問題はあくまでビジネスや会社運営上の問題であり、「管理職を救う」といったミッションは、社会的なものになかなかなりません。

しかも、その共感の得られなさからか、管理職本人もなかなか声を上げようとしません。プライドが邪魔して助けを求められなかったり、組合員ではなくなったため労働組合に相談できなかったり、家族を支えたり会社の部下を守るために、様々な重圧を受けながら孤独にこの問題に対処することは、むしろ悲劇につながりかねません。

管理職は「特に誰にとって『罰ゲーム』に見えるのか?」という視点について、さらに解像度を上げてみると、「罰ゲーム化」のさらなる悪影響が見えてきます。会社のメンバー層の中で「罰ゲーム」の状況に最も影響を受けるのは、他でもない「女性」です。

ここまで見てきた管理職の負荷をめぐる状況の多くは、性別に限らず一般的に起こっている現象です。しかし、それでもこの「罰ゲーム化」現象は、男性よりも女性の活躍をより阻むことになります。なぜでしょうか。

「罰ゲーム化」が、女性活躍のハードルに

86年の男女雇用機会均等法施行から40年近くが経過し、「女性活躍推進」の名のもとに、企業は自社の女性管理職の比率を上げるための施策を様々に実施してきました。今、注目が集まる人的資本開示の中でも、ジェンダー・ギャップの指標開示は大きなポイントの一つです。そこでも「女性管理職比率」は極めて重要な指標になっています。

しかし、「罰ゲーム化」した管理職は、職場のジェンダー・ギャップ縮小の大きなハードルになってしまうのです。

今、女性活躍を課題に掲げる企業に話を聞くと、企業は口をそろえて「女性に意欲が無いので困っている」と言います。管理職の女性比率は会社によって違いますが、パーソル総合研究所の「女性活躍推進に関する定量調査」でも、あらゆる段階の企業に共通して見られたのがこの男女の意欲格差の問題でした。

企業の昇進レースから、女性の側から徐々に抜けていき、いざ数少ない女性候補者を登用しようとしても、本人から断られてしまって打つ手なし……。日本企業の女性活躍は、このようにして行き詰まります。しかし、これを意欲の低い女性のせいにするのは、まったくもって論理の倒錯です。今の管理職は、女性にとって「意欲を必要としすぎる」ものになっている。そのことを直視する必要があります。

『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』

小林 祐児

2024年2月7日

1,012円(税込)

新書判/256ページ

ISBN:

978-4-7976-8134-5

高い自殺率、縮む給与差、育たぬ後任、辞めていく女性と若手──、
日本の管理職の異常な「罰ゲーム化」をデータで示し、解決策を提案する。
ビジネスの現場を救う”希望の書”!

「管理職の活性化」に悩む経営層にも、現場の管理職にも役立つ、知恵とヒントに溢れた1冊。

・・・・・
──「はじめに」より (一部再編集して抜粋)

今、管理職として働くということが、「罰ゲーム」と化してきている。
日本の管理職に対するこの「罰ゲーム」という比喩は、近年、ビジネスの現場や研究者の間でもしばしば聞かれていたものですが、いよいよ正面から取り上げる必要が出てきました。

この「罰ゲーム化」の影響は深刻です。
管理職ポストの後継者不足、イノベーション不足、部下育成不足、さらには管理職本人のストレス、そして本人の自殺という悲劇的な問題にまで連綿とつながっています。経営・組織の課題の域を超え、「社会課題」とも呼べるものになってきました。

さて、ではこのバグの原因は何でしょうか。
あまり気が付かれていませんが、この管理職の「罰ゲーム化」には、放置すると負荷が上がり続ける、まるでインフレ・スパイラルのような構造が存在します。
ここ10年ほどで現れたハラスメント防止法、働き方改革、テレワークの普及など、新しいトレンドの多くが、管理職の負荷を増やし続けています。

すべてのゲームには、「作り手」がいます。
会社という世界の中で言えば、働く環境やルールを決める側、経営や人事といった人たちです。しかし残念ながら、ゲーム環境の作り手の多くも、この「バグだらけの職場」を放置し続けています。
社長と人事の間、部長と課長の間、事業部門と管理部門の間には、まるで半透明のベールがかかっているように、課題への認識も切実さも噛み合うことなく、すれ違い続けているのです。これが実は、「罰ゲーム化」の根本的原因です。

このゲームは、本当のゲームのようにやり直しがききません。
人生もキャリアも一度きりであり、リセットボタンは存在しません。
雇用や組織の研究者の端くれであり、端くれらしく民間企業のビジネスの現場に近いところで研究している身として、この状態を放置することはできません。だからこそ、この本は書かれました。
様々な方にとって本書が、この問題を真剣に考え、議論し、行動を起こす助けになれば、筆者としてこれ以上の幸せはありません。

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