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年間死者数1000人超! もはや日本の猛暑は“自然災害”だ

集英社オンライン / 2022年6月3日 11時1分

天気予報で「熱中症情報」が注目される季節がやってきた。今年は5月の段階で気温35℃以上の猛暑日を記録した地域もあり、熱中症で緊急搬送される人が続出している。近年では、年間1000人を超える人が熱中症で亡くなっており、もはや“自然災害”といっても過言ではない状況だ。いったい、どんな点を注意すれば熱中症を防げるのか?

汗をかかなくなったら重症の疑い

暑い日に、拭いても拭いても汗が出る。次第に頭痛、めまいも……。そんな症状が出たら要注意だ。

古い話になるが、私が大学の卒業研究で、九州にある大規模造成地の地質調査をしていたときのこと。

真夏で造成地には木陰も建物もなく、地面からの照り返しも強かった。1日目の午前中は、汗をぬぐったタオルを絞ると水滴がボタボタと落ちたものの、午後になると汗をほとんどかかなくなり、2日目からは激しい頭痛に襲われた。



当時の私は、帽子をかぶっていれば大丈夫と考えていたが、熱中症の診断基準に当てはめると、汗をかかなくなるのは重症、頭痛は中等症だ。知らないというのは恐ろしいことで、もう少しで救急車で搬送されるところだったのだ。

熱中症は体温が上昇した際、体の体温調整機能がうまく働かなくなり、体内に熱がたまることで発症する。軽症の場合、症状としては、めまい、たちくらみ、筋肉のこむら返りなど。高温多湿の環境下でこのような症状があらわれたら、熱中症を疑ったほうがいい。

対処法は、涼しい場所に移動し、濡れたタオルや氷などで体を冷やすこと。吐き気、頭痛がある場合は、医療機関を受診した方がよいとされている。

環境省の資料によると、熱中症は10代は運動中、成年の男性は作業中、乳幼児や高齢者、40代以上の女性では住宅内か庭で発症することが多いようだ。

桐蔭横浜大学大学院の星秋夫教授の論文によれば、医学者で陸軍軍医の森林太郎らが1897年に出版した書籍の中で、「熱中症」という言葉が初めて使われたという。ちなみに森林太郎とは文豪、森鷗外の本名だ。

この書籍には「夏の行軍では軍医はまず気温や湿度を測定し、危ないと判断したときは行軍を中止するか……」という記述がある。つまり熱中症は100年以上前から知られていたのだ。

今や熱中症による死者数は、自然災害の10倍ほどに

星教授の論文によると、熱中症による死者は1972年から1993年の間は、年平均で60人ほどだった。

だが、2010年に初めて死者数が年間1000人を超えると(1731人)、2018年~2020年までの3年間は毎年1000人オーバーに。このように熱中症の死者数は驚くほど増えているのだ。

死者だけではない。特に猛暑だった2018年には熱中症の疑いで、病院などで診療を受けた人が60万人近くもいたという。病院に行かなかった人はこの何倍もいたと考えられるので、実際には何百万人もの人が熱中症になっていたと推定できる。

天気予報では、熱中症の危険度を色と数字で表している。これは「熱中症警戒アラート」と呼ばれるもので、暑さ指数(WBGT)を元に発表。昨年から全国で運用が始まったばかりだ。

暑さ指数は①湿度②日射・輻射などの周辺の熱環境③気温の3つを取り入れた指標で、環境省の「熱中症予防情報サイト」に記載されている下記の表によれば、31以上が「危険」、28~31が「厳重警戒」、25~28が「警戒」、25未満が「注意」となる。この表は見やすく分かりやすいのだが、「注意」の色が、涼しそうな水色というのはちょっと変では、と感じるのは私だけだろうか。

ただし、気温が同じでも、湿度が高いと蒸し暑く感じるし、屋外で運動や仕事を行う場合は、日射量も影響する。気温はあくまで目安でしかなく、それよりも熱中症情報を敏感にチェックしておくことが、命と健康を守る秘訣といえる。そのうえで長く暑い場所にいないこと、涼しい場所で休憩すること、こまめに水分補給をすることを心がけたい。

政府は猛暑を“災害”扱いすべきでは

最高気温の日本記録は、埼玉県熊谷市の41.1度(2018年)。この年の流行語大賞のトップ10に「災害級の暑さ」がランクインした。これは気象庁の記者会見で同庁の関係者が、この時の猛暑を「災害という認識」と発言したのがきっかけだった。

「災害級」というのは、災害ではないが、災害と同程度の危険があることを意味している。こう言うと「大げさではないか」と思う方もいるだろうが、非常に的確な表現に思える。

国土交通省が公表する防災白書で「自然災害」とされているのは、地震・津波や火山噴火、台風、集中豪雨などで、熱中症はこれに入っていない。

しかし、死者数を比較すると自然災害は2018年が444人、2019年が155人、2020年は107人なのに対して、熱中症は同じ3年間に1581人、1224人、1528人。自然災害の数倍から十数倍もの人が亡くなっており、その点においては、まさに「災害級」といえるだろう。

熱中症の死者は近年、高齢者や女性に多く、また屋内での発生も増加している。

死者のうち65歳以上の割合は、1995年は179人(56.3%)だったが、死者がもっとも多かった2010年は1372人(79.3%)と8割近くを占めた。その後も毎年、おおむね同じ割合で推移している。

一方で、「医療機関を受診した人の半数以上は65歳未満」というデータもあり、新型コロナウイルス同様、死者に占める高齢者の割合が高くても、若い人も注意が必要といえる。実際、65歳未満の死者数は2018年が293人、2019年が224人と決して少なくない。

政府は熱中症の死者数を年間1000人未満にすることを目標としているが、法律で災害だとされていないせいか、その対策は注意を呼び掛ける広報活動が中心にならざるをえない。

例えば、環境省は「熱中症予防情報サイト」を作り、トップ画面で全国の暑さ指数を図示している。ここには有益な情報が多く、この原稿を書く際にも大いに利用させてもらったが、はたしてこうしたPRだけで死者が減らせるのだろうか。

環境省のプレスリリースには「令和3年の東京23区のデータでは、(熱中症死者数の)8割以上が高齢者、約9割が屋内で、そのうち約9割がエアコン未使用だった。エアコン未使用のうち、約2割はエアコンが設置されておらず、熱中症予防のためにはエアコンの設置及び適切な利用の促進が重要」と書かれている。

エアコン未使用のうち約8割の人が、エアコンがあるのに使っていなかったということをもっと重視すべきだ。

気象庁が発表した「3カ月予報」では、今年の夏は全国的に暖かい空気に覆われやすいため、気温は高くなるそうだ。ちなみに今年の5月1日から29日までの間に、全国ですでに2294人が熱中症で緊急搬送された。これは昨年(1417人)の1.6倍を超える。

悪いことにロシアのウクライナ侵攻が重なり、電気料金の値上げが続いている。よく政治家は「国民の生命と財産を守る」と言う。だが、本気で守るつもりなら、エアコンのない家庭にはエアコンを設置し、高騰した電気料金を一部、補助する仕組みを作れば、助かる命はかなり増えるのではないだろうか。

猛暑は自然災害であり、自然災害から国民を守るのは国の務めと考え、早急に取り組んでほしい。


写真/共同通信社

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