2022年5月、フランスのパリに本部を置く「国境なき記者団」が今年の世界報道自由度ランキングを発表し、日本は前年67位から順位を4つ下げて、71位となった。
なぜ君は総理会見に参加できないのか? 「報道自由度71位」という日本の異常な現実
集英社オンライン / 2022年5月31日 9時36分
「国境なき記者団」による世界報道自由度ランキングが今年も発表され、日本は世界180か国中、前年の67位からさらに順位を下げ、71位に転落した。もはや“発展途上国や独裁政権に近い国々と同等”とされる日本の「報道の自由度」。フリーライターの犬飼淳氏が総理大臣記者会見の閉鎖性を例に、その異常性をレポ―トする。
国境なき記者団にも指摘された日本の記者クラブ制度の閉鎖性
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2022/05/30025802912985/800/0495_002.jpg)
国境なき記者団のHPより。2022年度の世界報道自由度ランキングで日本はG7の中で最下位の71位。1位はノルウェーで、デンマーク、スウェーデンと続く。近隣国では台湾が38位、韓国が43位、中国大陸が175位。ロシアは155位だった
同団体は、「日本の記者クラブ制度は、政府会見への参加や取材を既存の大手メディアに限定し、記者の自己検閲を招いている。フリーランス記者や外国人記者に対する露骨な差別でもある」と、世界基準から大きくかけ離れた日本の記者クラブ制度の問題点を端的に一刀両断している。
会見の種類までは明言していないが、重要性に反して閉鎖的な総理大臣記者会見が影響していることは間違いない。
そこで本記事では、日本の総理大臣記者会見の閉鎖性をシリーズ形式でお伝えしていきたい。具体的には、駆け出しのフリーランス記者である筆者が会見に参加・質問することは果たして可能なのか、自らの体験をリポートする。
フリーランス記者が会見に参加・質問するには大きく4段階(1 事前登録→2 抽選→3 参加→4 質問)を経る必要があるのだが、今回は、最初の関門である「事前登録」に焦点を当てる。
まず、フリーランス記者が事前登録するにあたっての条件は、首相官邸ウェブサイトに以下のように記載されている。
協会(日本専門新聞協会、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会、日本新聞協会)の加盟社が発行する媒体に署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者
出典:首相官邸ウェブサイト(https://www.kantei.go.jp/jp/pages/20220316kaiken.html)の記載内容を筆者要約
これだけを読むと「協会加盟社で署名記事を書くだけなので、さほど厳しくないのでは?」と思われるかもしれない。だが、ここには2つの大きな落とし穴が隠れている。
落とし穴 ①「実際の参加条件は公表内容より厳しい」
これは、総理大臣官邸報道室に筆者が電話をして、詳細を確認したことですぐに発覚した。
なぜ電話かというと、首相官邸ウェブサイトには官邸報道室の連絡先として電話番号しか記載されていないため、必ず1度は電話する必要があるのだ。
筆者の場合、電話した際に口頭でメールアドレスを伝えて、それ以降からメールでのやり取りがようやく可能となったが、こうした点にも、手続きをあえて煩雑にすることで新規登録のハードルを上げていると思わざるをえない。
以下、官邸報道室 担当者からのメールの一部を抜粋して引用する。
参加をご希望の場合は、別添申込書のほかに、次の①~③も併せてご送付ください。
なお、手続きに1か月ほど頂戴いたしますことをご了承ください。
① 顔写真付きの身分証明書の写し
② 直近3か月間の掲載記事の写し(日本専門新聞協会、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会、日本新聞協会の加盟社が発行する定期的刊行物等への掲載で、総理や官邸の動向を報道するものに限る)
③ 記者としての活動実績・実態についての②を掲載した加盟社または媒体による証明(②を発行したことの確認と、推薦状又はこれに代わるもの)
例)「(申込者)は(媒体)に定期的に執筆している」「(申込者)を内閣総理大臣記者会見への参加者として推薦します」といった文言と、媒体の編集者による署名(責任者であればベター)
出典:官邸報道室から筆者への参加条件連絡のメール(一部抜粋)
一読すればわかる通り、ウェブサイトの公表内容に対して幾つもの条件が追加されている。
・①は項目ごと追加。
・②では「直近3ヶ月間」が条件に追加。その一方、登録手続きは1ヶ月もかかると宣言しており、登録の難易度を引き上げている。
・さらに②では「総理や官邸の動向を報道するもの」も条件に追加。しかし、ただでさえ取材機会が限定されているフリーランス記者に対して、総理大臣記者会見への参加より前に、総理や官邸に関する署名記事を求めるのは順番として完全に矛盾している。
・③では「推薦状」の提出が追加されているが、そもそもフリーランス記者から見て、取引先にあたる媒体、編集者の推薦状を求めること自体が一般常識から大きく乖離しているように思える。現に、筆者は実に80本以上の署名記事を寄稿した媒体の編集者にすら推薦状の発行を断られ、署名記事掲載と推薦状の両方を引き受けてくれる媒体を探すことに非常に苦労した。
総じて、「いかに事前登録のハードルを引き上げるか」という観点で練り上げられた条件であると判断せざるをえない。
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内閣総理大臣官邸報道室からのメールに添付された事前登録申込書。メール本文には記載されていなかった、さらに厳しい条件「直近3ヶ月以内に各月1つ以上記事等を掲載」が追加されている。ただし、タイトルが「内閣官房長官の定例記者会見」とあり、どこまで正確な文書なのかは不明だ
落とし穴②「直近10年の事前登録は0名」
実は、現時点で事前登録しているフリーランス記者(約10名)は全員、2012年の民主党・野田政権以前に登録している。つまり、2012年12月の自民党・第二次安倍政権発足後の約10年間にわたって、新たに事前登録が認められたフリーランス記者はひとりもいないのだ。
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この点の詳細を官邸報道室に確認したところ、「そもそも新たな申請自体が0名」との回答があり、官邸側が申請却下を連発したわけではない可能性もある。しかし、ここまでに見てきた“厳しい参加条件”によって新規申請自体を実質的に不可能にしているという見方もできる。
実態については、今後 筆者が試みる予定の事前登録の結果を踏まえて判断したい。
お気づきとは思うが、本記事が公開されることによって筆者は「総理や官邸の動向を報道する署名記事を加盟社が発行する定期的刊行物に直近3ヶ月以内に掲載する」という条件を満たす。
官邸側の登録手続きだけで1ヶ月もかかるため長期戦になると予想されるが、筆者が約10年ぶりにフリーランス記者として事前登録できるのか身をもって検証していきたい。
写真/小川裕夫
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