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「ホウレンソウ」消滅の危機、次に消えるのは「卵」か…国産野菜全体が陥いる深刻な事情と食糧危機の未来予想

集英社オンライン / 2024年2月14日 8時1分

ホウレンソウや小松菜、白菜、キャベツなど日本の食卓に欠かせない葉物野菜は、昨今の異常気象も相まって栽培が困難になりつつあるという。さらに言えば、国産の農作物全般に栽培の危機が迫っているのだとか。その要因について、東京大学大学院 農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘氏に聞いた。

ホウレンソウや小松菜、白菜…葉物野菜が食べられなくなる?

寒い時期に旬を迎える葉物野菜は、サラダや炒め物、鍋といった料理に欠かせない食材だが、そのひとつであるホウレンソウが今、生産の危機に瀕している。

農林水産省が昨年8月に更新した『令和4年産指定野菜(秋冬野菜等)及び指定野菜に準ずる野菜の作付面積、収穫量及び出荷量』の累年データ(概算)によると、ホウレンソウの収穫量は平成25年(2013年)産で25万300tあったが、令和4年(2022年)産では20万9800tにまで減少。



白菜やレタス、ねぎなどほかの葉物野菜でも減少が続いているが、一際量を減らしていたのがホウレンソウであった。

ホウレンソウの収穫量がここまで減少している理由は一体何だろうか。

「近年の異常気象や暖冬による影響が大きいでしょう。ホウレンソウなどの葉物野菜は冷涼な気候が栽培に適しているので、気温が上がるだけでかなり育ちにくくなってしまいます。

また葉物野菜の収穫は機械化が進んでおらず、今でも手作業での収穫が大半。収穫作業は重労働でもあるため、多くの人手が必要になるのですが、働き手がなかなか集まらず、人手不足にもさいなまれています。

そこで外国人技能実習生の人手を頼っていたのですが、コロナ禍で一斉に帰国してしまい、技能実習生に依存していた農家は大打撃を受けました。収穫ができなくなり、次の年の種まきを3分の1に減らしてしまった農家の方もいらっしゃるぐらいです。

つまり、ホウレンソウ、白菜、ねぎなどの品目は、近年の気候変化の影響を受けて生産しづらくなっていることに加え、労働力を確保できずに人材不足に陥っているという二重の要因で生産量を減らしてしまっているのです」(東京大学大学院 農学生命科学研究科鈴木宣弘教授、以下同)

種と肥料の輸入が止まると、国産の大根や長ナスは食べられなくなる…

収穫量が落ちつつある葉物野菜だが、いまや野菜全般で同じような状況が起こっているという。

農林水産省が一昨年に公表した「作物統計調査」の主要野菜計(全国)収穫量累年統計データによると、昭和48年(1973年)に1480万6000tあった収穫量は、令和4年(2022年)には1284万2000tに。約50年でおよそ200万tも減少している。このままの状況が続けば、2035年時点で1973年時の半分の収穫量になってしまう可能性もあるそうだ。

「さまざまな品目の収穫量が減少している理由は、葉物野菜と同じく気候変動による影響ももちろんですが、それ以上に深刻な人材不足と農業従事者の高齢化にあります。

農業は十分な所得が得られないことによる離職者の増加が著しいのです。不安定な収入では、これからの農業を担う世代が育ちにくくなるのは当然でしょう。

そして日本の農家の平均年齢は現在68.4歳であり、10年後には約80歳になることが予想されています。高齢化が進む産業でどれだけの生産ができるか、どれだけの農家、農村が存続できるのか……より厳しい状況になっていくというのは想像に難くないでしょう」

さらに鈴木教授は種や肥料を輸入に頼り切っている日本の農業の現状にも警鐘を鳴らす。

「野菜の種は約9割を海外から輸入に頼っており、三浦大根や九条ねぎ、京みず菜、長ナスなど、日本の伝統的な野菜の種でさえ輸入の割合が高い。さらに肥料となると、ほぼすべてを輸入に頼っています。

現在、日本の野菜全体の自給率は80%ですが、仮に種が輸入できなくなるとしたら自給率は8%にまで大幅に減少してしまう。そのうえで肥料まで輸入が止まってしまうと、さらに半分の4%にまで下がってしまうんです」

国際情勢の変化により種と肥料の輸入がストップすることで、日本の農業が壊滅的な打撃を受けるという最悪のシナリオも考えられなくはない。

「コロナショックで物流が止まった際に種の供給も止まりかけたこともあり、さらにはロシアによるウクライナ侵攻により、世界的に肥料の需給逼迫への危機感が一層高まりました。

そして昨年12月、農業大国の中国は自国内での需要が高まったこともあり、化学肥料の原料として使われる尿素とリン酸アンモニウムの輸出規制を強化。日本は肥料の多くを中国からの輸入に依存しているので、今後輸入が滞ってしまうと、野菜の収穫量が半分に減少してしまうほど打撃を受けることになってしまいます」

種や肥料などの輸入が止まってしまうと、生産の基盤となる種や肥料を国外に頼る構造により農家が廃業に追い込まれ、国産農作物の減少が加速しているともいえるのだ。

実は鶏卵も危ない? 悪い食品も輸入せざるを得ない未来も…

国際情勢による食品危機は野菜だけにとどまらない。なんと鶏卵も危ないのだとか。

「雛や飼料のとうもろこしを輸入に100%頼っているため、国際情勢の影響をモロに受けてしまいます。また養鶏は病気のリスクも高く、生産中止に追い込まれることもしばしば。昨年の鳥インフルエンザによる鶏卵不足により、鶏卵の値上げや卵を使用した商品の販売休止が話題になりましたよね。

また飼料が高く、生産者の利益が薄い養鶏は、ブランド卵の養鶏場を除き中・小規模の経営では生計を立てることは難しい。したがって、巨大経営で計画的に、大量に生産せざるを得ませんが、それでも国内の鶏卵ニーズを賄いきれないという現状があります。昨年のように鶏卵をめぐる危機が食卓に影響を及ぼす可能性は、今後もあり得ることなのです」

野菜に加え、卵も食卓から消えてしまうと、我々の食生活もガラリと変化するに違いない。最悪のケースだと、ほとんどの国産の農産物が消えてしまう可能性もゼロではないだろう。

そんな考えたくもない未来が来てしまった場合の生活への影響は?

「国産の食糧が消滅してしまうと、外国からの輸入品に頼らざるを得なくなるので、食の安全面でのリスクは高まります。

たとえば、収穫後に農薬などを使用し、品質保持の処理をする『ポストハーベスト農薬』は、安全性の観点から日本では認められていません。しかし、国産の農作物が枯渇し、食べ物を選べる状況ではなくなってしまうと、海外からの食料に頼らざるを得なくなりますが、その輸入さえできなくなれば、日本人は飢え死しかねません」

国産の自給率を上げる策を打たねば、食の安全そのものが危ぶまれる。気候変動にも耐えうる品種の改良や人手不足、国外依存の構造の解消などが喫緊の課題となるだろう。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock

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