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《漫画あり》「今の女性誌は“男性ウケ”より“自分の生活の充実”がメインになってきていますよね」漫画家・谷口菜津子が最新作でようやく描けた「勉強だけじゃどうにもならないこと」

集英社オンライン / 2024年2月25日 17時1分

2022年に手塚治虫文化賞新生賞を受賞した漫画家・谷口菜津子の新連載『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、”完璧な男”が慣れないながらに作る料理を通して、今までの「あたりまえ」を見つめなおす物語だ。インタビュー後編では、女性にとっての幸せの変化や誰かと暮らすために大切なこと、自身の結婚生活について聞いた。

今は「結婚しないの?」みたいな質問自体がタブー

––––女性の自立が叫ばれるようになって久しいですが、親は専業主婦だったという人たちもそれなりにいて、「これまで」と「これから」の変化の中で混乱する人も多そうです。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の主人公・海老原勝男の彼女、鮎美もその1人だと思うのですが。



勝男と鮎美は「これまで」の形式での「幸せになるためのモデルケース」を意識し過ぎて、“本当の自分”を忘れてしまった2人です。今まではうまくいっていたのに「これって違うかも」と先に気がついた鮎美が、勝男から離れてしまう。

たとえば私が10代のころに読んでいた女性誌は、着回しコーデのストーリーが「気になる男の子に告白するまでの30DAYS」みたいに「モテ」がすごくフィーチャーされていたような気がします。鮎美は、そういう「モテのテクニック」にマーカーを引くぐらい、真面目に“勉強”していた女の子です。

主人公・海老原勝男の彼女・鮎美。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1巻より(©︎谷口菜津子/ぶんか社)

でも、今の女性誌は「男性ウケ」よりも「自分の生活の充実」がメインになってきているような印象です。女性誌って、本当に世相を表していますよね。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1巻より(©︎谷口菜津子/ぶんか社)

––––「男性からモテる→お嫁にもらってもらう」ことが幸せだと思われていた時代から、だいぶ変わりましたね。

今って「結婚しないの?」みたいな質問自体が、タブーな雰囲気がありますよね。逆に私は20代のとき「結婚しなさそう」と何度か言われて、それはそれで何か足りないものがあるのかとムカついたりもしていました。

でも、結婚に対しては恐怖もありました。幼少期からあまり仲の良い夫婦関係をあまり見てこなかったのと、当時のドラマやバラエティでも「いつも怒っている嫁と、家に帰りたくない夫」みたいな構図を観てきたから、「今仲良くやっている恋人同士でも、自分も結婚をすることでこういった夫婦になってしまうのでは!?」と怯えていました。

––––「結婚=幸せ」という共通認識があるはずなのに、目にする夫婦生活は幸せそうじゃない、みたいな?

そうそう。なので、「不仲夫婦にならないようにするには、どうすればいいんだろう?」と考えて、私自身は別居婚を選びました。

漫画家・谷口菜津子さん

「誰かと暮らしていくには、話し合いが必須」

–––谷口さんが漫画家・真造圭伍さんと結婚したのは6年前ですよね。

私の場合は夫も漫画家で、2人とも家で仕事をしているんですね。彼が忙しいときに自分が暇だと、同業者として嫉妬してしまいそうで……。ある程度距離がないと「結婚生活が続けられない」という強迫観念があったんです。だから延命措置として別居していたんですが、コロナ禍を通してやっぱり一緒に暮らしましょうという結論になり、今は同居しています。

–––同居にシフトした理由は?

夫がコロナ禍で体調を崩してしまったのと、私、コロナ禍で一気に老けた気がするんですよ(笑)。ふと鏡を見たときに「このまま別居を続けていたら、一つ置きの自分を夫に見せることになる」と焦ったので、夫に同居したいと伝えました。

–––同居を始めて、いかがですか?

夫とはいろいろ話し合える仲で、日々「こういうことにストレスを感じている」みたいなことを確認し合っています。良好な関係を維持するためには、家事とかお金の負担とかを、お互い不満がないようにマネジメントするのが一番なんでしょうね。互いに自己実現するために、家をどう回すかっていう。

–––『今夜すきやきだよ』(新潮社)でも、「現代人だろ! 徹底的に話し合え!!」という名言が登場します。

気持ちだけじゃどうしようもないっていうのは、自分の中であります。誰かと暮らしていくには、話し合いが必須。

『今夜すきやきだよ』(©︎谷口菜津子/新潮社)

–––谷口さんは、ずっと一人暮らしだったんですか?

同性の友だち3人でシェアハウスに住んでいたときもあります。先ほどの「料理作れ男」と別れて精神的にまいっているときに、友だちのシェアハウスに交ぜてもらったんです。彼女たちと暮らしたことが、ターニングポイントになった気がします。

–––どんな点で?

ちゃんと生活できるようになりました(笑)。もともと私は、部屋は汚いし食事も適当な人間だったんですけど、同居人が生活を大切にするタイプの人だったので、彼女たちに影響されました。

たとえば2人は持っている食器が素敵なうえに、心が豊かだからそれを貸してくれるんですよ。いい器を使うと、なんでもない料理も美味しそうに見える。そこから料理に目覚めて、ちゃんと生活することの気持ちよさに気づきました。なんとなく、精神も安定した気がします。20代は、本当に自意識過剰だったので(笑)。

自分の作品は、疑問や不満から生まれている

―2013年のデビュー作『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』(エンターブレイン)では、不安定な自意識が描かれていましたよね。そこに共感した人も多そうですが。

当時の漫画は読み返せないです(笑)。今思うと、結構ひどいことを描いてしまっている気がします。

漫画家として「売れたい!」と思って作品を描いても、いざバズったりすると、悪口も比例して増えて、傷ついてしまう。私はネガティブなコメントも真正面からキャッチしてしまうタイプなので。

–––(担当編集)『じゃあ、あんたが作ってみろよ』開始前には、「私が不祥事でも起こせば、漫画も読んでもらえるのかなぁ?」と言っていましたよ。

そうでしたっけ(笑)!? 不祥事も炎上も起こしたくないですよ! 人生終わる!…… でも、今でも十分ネガティブですが、料理や暮らし全般に興味を持てるようになって、かなりマシになったと思います。

生活としっかり向き合うことで、「モテたい!」とか「人気者になりたい!」とか「寂しい!」とか、自分のことを考える時間が減ったんです。そういう意味でも、料理を好きになってよかった。

–––「自分のことを考えなくなる」ことが、精神安定に繋がるかもしれない。それは結婚に限らず、同居で見出せた?

私の場合はそうでした。人生って、勉強だけじゃどうにもならないことが多すぎて……。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の鮎美では、外に出ることで価値観が変わっていく様子が描ければなぁと思っています。

別に立派なことはしなくてもいいから、周囲の影響を受けながら、何をしているときが楽しいのかを探していく。人生、なんでもやってみるといいと思うんです。これはまさに自分に対して言っていることですが。


–––鮎美のようにテキーラを飲んでみるとか、誰かと同居してみるとか。

そうそう。そういったことが苦手な人も、実は自分でキャラ付けしているだけかもしれないので。

こういうことを、最近ようやく描けるようになってきた気がします。年齢を重ねると、新しい世代の価値観に追いつけなくて焦ることが増えてくるんですけど、それは見える世界が変わっていくってことなのかもしれません。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第1巻より(©︎谷口菜津子/ぶんか社)

–––今後はどんな漫画を描いていきたいですか?

自分の場合、ほとんどの作品が、疑問とか不満から生まれているんです。だから、そういうネガティブな側面も漫画にできたらなぁと思います。理想は、そのときそのときに見えた景色や、気づいたことを描き続けながら80歳ぐらいまで漫画家でいたいです。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第2話を試し読み

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文・インタビュー/嘉島唯

じゃあ、あんたが作ってみろよ(ぶんか社)

谷口菜津子

2023年12月14日発売

880円(税込)

B6判/192ページ

ISBN:

978-4-8211-5720-4

社会人カップルの勝男と鮎美。大学時代から続いた交際は6年目を迎えようとしていた。同棲生活にも慣れ、そろそろ次の段階へ…と考えていた勝男だったが、そんな彼に訪れた、突然の転機とは―!? 慣れないながらに作る料理を通して、ザ・昭和男が今までの「あたりまえ」を見つめなおす、第26回手塚治虫文化賞・新生賞受賞作家、谷口菜津子の最新作!描き下ろし漫画も多数収録。

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