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「公衆トイレで出産した女性もいた」ガザ地区南部ラファではイスラエルの地上作戦におびえる避難民であふれている

集英社オンライン / 2024年2月17日 8時1分

イスラエルのネタニヤフ首相は今月14日、エジプトで行なわれていたパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの休戦交渉を打ち切ると発表した。これによりイスラエル軍によるガザ地区南部ラファへの地上攻撃が激化する恐れがある。「国境なき医師団」の山田瑞穂氏に現地で何が起きているのかを聞いた。

ガザ南部最大の病院攻撃への抗議

パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃をきっかけに戦闘が勃発して4か月が経過した。11月24日から12月1日の7日間停戦したものの、その後、戦いが終息する気配は一向に見られない。

イスラエルのネタニヤフ首相は2月14日、「ハマスが譲歩しなかった」として、ハマスとの休戦交渉を打ち切ると発表。今現在までの死者は約3万人、負傷者は約7万人と言われているが、今後も多数の死傷者が出る可能性は高い。実際、多くの避難民が暮らすパレスチナ自治区ガザ地区南部ラファに対して、イスラエルは地上作戦を計画しており、さらなる攻撃を進める構えを示している。



ラファへの地上作戦が実施された場合、これまで以上の死傷者が予想され、ガザ地区で医療支援を実施している世界最大の国際的緊急医療団体「国境なき医師団」は公式Xで、「イスラエルがパレスチナ・ガザ地区南部ラファへの地上作戦を明言したことを受け、国境なき医師団はこれを直ちに停止するよう求めます」と抗議した。

また、2月15日には「パレスチナ・ガザ地区南部で最大の病院、ナセル病院に、イスラエル軍が退避を要求しました。国境なき医師団は、これを強く非難します。ナセル病院では、銃撃ですでに15人が死傷しています。ここを出ても、ガザに安全な場所はどこにもありません。改めて即時停戦を求めます」と投稿している。

予断を許さない状況が続いているが、日本ではイスラエルとパレスチナの紛争について正確に把握している国民は少ない。現地は今どんな状況にあるのか、国境なき医師団広報部の山田瑞穂さんに現地の状況を聞いた。

「10月7日にイスラエルとパレスチナでの衝突が起きて以降、今もなおガザ地区ではイスラエルによる容赦ない無差別攻撃が繰り返されています。その結果、ガザ北部の建物や地区全体が破壊されて瓦礫の山と化しました」

集英社オンラインでもこれまで報じてきたとおり、ガザ北部では病院や避難所が爆撃を受けたり、北部では街全体が危険に晒され南部への非難を余儀なくされていた。

「多くの避難民は南部で生活せざるを得ません。簡素なシェルターは強風や雨にあおられ、寒い季節を路上や空き地で過ごしています。加えて、砲撃や銃撃による傷への感染症、下痢、呼吸器感染症、皮膚感染症、栄養失調などあらゆる疾患に苦しんでいる人は少なくありません」(山田さん)

公衆トイレで出産した女性も…

しかも、こうした負傷者や病人を受け入れるはずの医療機関が、非常に厳しい状況となっている。

「紛争下であっても保護されるはずの医療施設、患者、医療スタッフも攻撃を受けています。国境なき医師団が支援する医療施設でもたびたび退避命令が出されるなど、ガザの負傷者や患者にとって医療支援のアクセスは容易ではありません。
WHOによると、ガザにある36か所の医療施設のうち、部分的に機能しているのは15か所。そのほとんどが南部に位置しており、南部への攻撃が激化した場合、医療施設での診察が困難になります」(山田さん)

1月15日、ラファのエミラティ病院。国境なき医師団のスタッフから支援を受ける新生児の母親
© Mariam Abu Dagga/国境なき医師団

攻撃による負傷だけではなく疾患に悩まされる人も少なくない。しかし、医療サポートを受けることは困難であり、現地がいかに凄惨な状況であるかがうかがえる。なかでも、イスラエルが地上作戦の対象として挙げたガザ地区南部・ラファの状況は深刻だ。

もともとガザ地区では220万人ほどが暮らしていたが、北部が攻撃されたことで多くの人が南部に避難した。100万人以上がラファに来ざるを得ない状況で、すべての人が安全に生活できる住環境は整備されておらず、「多くの人がテントや簡易的な建物で暮らしている」と山田さんはいう。

「ラファでは水や食料、トイレなどの衛生設備、医療へのアクセスはほとんどないのですが、他に行く場所の選択肢がありません。しかし、同じくガザ地区南部ハンユニスでも激しい戦闘が続いており、ラファへの人の流入は止まりません」

1月20日、ガザ地区南部、ラファで水を求める人びと © Mohammed Abed/国境なき医師団

ラファへの避難民が増えれば、ますます生活が困難になる。とりわけ、医療サポートが受けにくくなることは重大な問題だが、すでにその予想は現実のものとなっているという。

「ラファでは妊産婦の医療ニーズに対応している病院は1か所しかなく、分娩の対応数は紛争激化前の3倍に急増。受け入れ能力が追い付かず、命に関わる緊急の分娩にしか対応できない状況となっています」

続けて、分娩室が満室のために医療サポートを受けられず、公衆トイレで出産した女性もいたと話した。

「ラファから退避勧告されても、もう行くところがない」

医療体制や衣食住は不十分にもかかわらず、攻撃から逃げるためにガザの各地からラファに避難する人は増えている。多くの避難民が集まるラファで地上攻撃が展開された場合、これまで以上の死傷者が出かねない。「多くの人々が戦火にさらされることになり、想像を絶する結果を引き起こすでしょう」と山田さんも危惧する。

「すでにイスラエルによるガザ地区全域の非人道的な完全包囲により、ガザの人々は食料、水、シェルター、燃料、電気、医療といった必要不可欠なものを奪われています。仮にラファからの退避を促されたところで、もう行くところはありません。北部から避難してきた人が再びラファから北部へ戻ったとしても、帰れる家もなく、食料や水、医薬品にもアクセスできません」

1月 21 日、 ガザ地区南部、ラファでは飲料・調理用水、洗濯用水など清潔な確保するのに苦労している。過密な状態、清潔な水や衛生設備の不足、冬の寒さで、この地域の人びとの生活環境は絶望的である。©Mohammed Abed/国境なき医師団

ラファが本格的に攻撃された場合、生活できずに命を落とす人も甚大な数にのぼるだろう。そうした危機的な状況で、遠く離れた日本の地からできることは何かあるのだろうか。

「『報道がなくなったから解決しているわけではない』ということを心にとめていただければと思います」

今、世界中でパレスチナへの無差別攻撃に対する抗議デモが行なわれているが、日本でも全国各地でデモ活動が行なわれている。メディアでの報道が少なくなるなか、一刻を争うガザ地区について、山田さんはこう私たちに訴える。

2月11日、東京・新宿にて行われたパレスチナへの連帯を訴えるデモ 撮影/集英社オンライン編集部

「報道で情報を得るだけではなく、国境なき医師団を含め、現地の状況を発信しているガザで活動する団体もあります。そういった情報発信も参考にしてもらい、世界で起きている人道危機に関心を持ち続けてもらえるとうれしいです。

そして、イスラエルの侵攻を止めるために、国境なき医師団では、持続的かつ即時の停戦を訴え続けています。日本を含めた各国の政府には、持続的な停戦を推進するためのあらゆる影響力を行使していただきたいです。そのためにも、メディアの方々には報道を続けて協力してもらえればと思います」

パレスチナで今起きていることに関心を持ち続けることが、私たちにできるアクションなのかもしれない。

取材・文/望月悠木

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