「嫌われることに対して1ミリも躊躇がなかったです」 弱肉強食のアイドル戦国時代をFKDはいかに生き延びたのか 聞き手:吉田豪
集英社オンライン / 2022年6月4日 10時1分
アイドル戦国時代のキーパーソンの1人でありながら、長らく表舞台から遠ざかっていた”FKD”こと福田幹大が、10年ぶりにメディアに登場! ももいろクローバー、ハロー!プロジェクト、ぱすぽ☆、Doll Elementsといった有名アイドルグループと関わり続けてきた自身のアイドル業界歴を語り尽くす。プロインタビュアー・吉田豪による、福田幹大インタビューの第4回(全4回)。
アイドル戦国時代の終わり
――(吉田豪)そしてドリーミュージックに移るんですか?
FKD 2012年ですね。ご当地アイドルをやってみたかったんです。そしたら「仙台のご当地アイドルやりたいからどうだ?」って言われて、作ったのがsendai☆syrupです。ゼロから女の子呼んでオーディションやって。そのなかのひとりがのちのラストアイドル・相澤瑠香ですから、人生わかんないですよね。それで東京でも何かやらなきゃっていうことでDoll☆Elementsを。
――一時期、FKDさんのアイドル熱が1回冷めたみたいな話があるじゃないですか。
はい。どるえれをやってた時期に、アイドル市場全体がつまんなくなってきちゃったっていうのがありまして。
――それはももクロとかぱすぽ☆を仕掛けてた頃とは時代も違うし、刺激も違うだろうしで、しょうがない部分はあると思います。
TIFでアイドルがお友達同士で写メ撮ってる姿を見て妙に冷めちゃって。単純につまんないっていう思いと、そのあと誰でもアイドルをやれる時代になっちゃったんですね。みんな地下アイドルだなんだってタケノコのように出てきてはなくなって。
どるえれのあとは当面アイドルやらなくていいやって思いましたね。そこからアニメにいきました。音楽はすごく好きですけど、僕はアイドルは心底好きではないのかなって。戦国時代が好きだったのかもしれないです。
――あの刺激的な時代がとにかく楽しかった。
人生で一番大事な時間を、ワーッと上り調子の世界の最前線で過ごさせてもらったっていうのは、何ごとにも代えがたい経験だったんじゃないかなと思いますね。最近、地下アイドルの現場に行くんですけど、やっぱこんなもんかって思っちゃうんですよね。怒鳴ってブチ切れてるヤツもいないし。
――そりゃそうですよ(笑)。あの時代が異常だっただけで。
でも、あの頃はいたるところで「ぶっ殺すぞボケが!」みたいな声が飛び交ってたし、山田さんのスマイレージの扱いなんて完全アウトじゃないですか。
――軍隊でしたからね。
あれが当たり前だったんですよ。AKBもモーニングもそうだし、吉川友でモーニングの現場に行ったときなんてピリピリしてましたから。
――あそこは上下関係が厳しいですから。
ホントとんでもないですよ! ベリキュー(Berryz工房と℃-ute)の方々なんて、僕が「吉川友の担当です、どうも」って言うと直立不動で「どうも!」みたいな感じで。
あの頃は、鞘師(里保)とズッキ(鈴木香音)と生田(衣梨奈)が入ったときで、よく世間話をしてくれたんですよ。子供だなーと思って見てたら、半年くらいでもう超絶体育会系に染まっていくっていうのを見て、ハロプロ怖え、みたいな。
――それと比べたらももクロとかはぜんぜん自由にやってたんですかね。
とは思いますけど、いまのアイドルと比べればやっぱりとんでもなかったです。れになんてボロボロ泣かされてましたもんね。それくらい超絶体育会系の業界のなかで、頑張る女の子を応援するファンの人たちっていう構図を作れてたのがその時代だったのかな、と。
緊張感を失ったアイドル業界の功罪
――戦いの要素は確実になくなりましたからね。
そうですね。だから僕が行ってもう一回火に油を注いでみるとか(笑)。そういう気持ちは少しだけあります。でも、いま平和なんで受け入れられもしないだろうし。
ただ、地下アイドルが「武道館を目指します」とか「一番取ります」とか、めちゃめちゃ簡単に言うじゃないですか。ナメんなって感じですね。それで何年かして解散っていうのが何百何千とあるわけじゃないですか。
――武道館に辿り着くのがどれだけ難しいと思ってんだって話ですからね。
そうです。それをバイト感覚で片手間にやってるの見てると残念だなっていうか、まあそりゃそうだよなとも思うんですけどね。
過酷な現場経験から得たもの
――当然、対バンも死ぬ気でやってたときが一番楽しいに決まってるし、ハローが対バンの場に出てきたみたいな時期が一番興奮したのは事実なんですよ。
そうですよね、あのときは負けたら死ぬと思ってました。アップアップガールズ(仮)なんて、山田さんも腹を括ってやってたと思いますし、プレッシャーも尋常じゃなかったと思います。あのときのピリピリ感ってもう味わえないんだろうな……そういう時代じゃないですしね。
――アプガの時点でとっくに戦争は終わってるのに、ひとりだけ「戦争は終わってないぞ!」って騒いでる日本兵みたいな感じでしたもんね。
それはそれでいいのかなと思うんですよ。僕が話してることってオッサンの昔話なのかもしれないです、いまの若いアイドルヲタからしてみたら。でも、お客さんもあの頃すげえプロだったんですよ。
本気で頑張ってる女の子を本気で応援して、「俺らがマジ武道館に連れてくぞ!」っていうガチのソルジャーたちだったし、だからこそ本気で怒られました。「おまえらふざけんなよ、こんなクソみたいな曲作ってんじゃねえ」とか「このクソ運営!」とか。
――ダハハハハ! どのグループのときに言われたんですか?
ぱすぽ☆かな? どるえれのときも言われました。でもいい曲を作ったら直接誉めてくれるし。俺、どるえれのとき2回ぐらい土下座してますから。殺害予告もありました。「FKDマジ殺すから」って。考えられないですよね。
――それくらいの事態になったのはどるえれのときぐらいなんですか?
どるえれのときはマネジメントも兼ねてたんで、それもデカかったですね。どるえれとぱすぽ☆のときはとにかく客と衝突したな。客商売としては0点です。ひどい時代でした。
――いまは、その経験がプラスになるような状況になってきてるんですか?
この歳になってやっとですね。いままでは音楽畑でずっと雇われディレクターをやってたんですけど、コロナっていうのもあって違うことをやろうと思いまして。
ひとつは声優アイドルユニットをゼロから作ってどこまでいけるかをもう一回やってみようっていう。それが泡沫のクロワジエールっていうユニットです。3年後トップを取ろうっていう気持ちでやっています。
あといまミュージックプラネットっていう音楽サービスの中の一つの事業責任者という形で、ナンバーワンを目指すよりもひとりひとりの音楽活動に向き合うって仕事を必死にやってる最中ですね。
いまのももクロはどう見えている?
――よくわからないまま作ったももクロの初期の曲がいまだに愛されてるのはどんな思いですか?
何年か前にさいたまスーパーアリーナで彼女たちを観たんですけど、お客さんが何万人といるじゃないですか。いきなり『overture~ももいろクローバーZ参上!!~』が流れて全員歌い出してるわけですよ。この人たち全員、頭おかしいのかなっていう(笑)。「え、俺とヒャダインが適当に作った曲がなんでなんで?」みたいな感じで。
2013年に日産スタジアムで開催されたももいろクローバーZのワンマンライブ「ももクロ夏のバカ騒ぎ WORLD SUMMER DIVE」の様子。 Sports Nippon/Getty Images Entertainment/Getty Images
そこから『怪盗少女』でドカーンと何万人が大合唱して、『走れ!』で大合唱して、『オレンジノート』でみんな涙してっていうのを見てて、「はぁ……なんだこれ?」っていう。正直いまでも実感が湧かない。
――当事者なのに(笑)。
いまだに『怪盗少女』と『走れ!』をやり続けてるって、ふつうのアイドルユニットではありえないじゃないですか。それがずっと愛されていて、曲が独り歩きするってこれかって。大前提は感謝しかないですけど、本音を言うと不思議ですね。
――ももクロでいまも一番聴くのは初期曲のコンピ『入口のない出口』(2013年6月5日発売)なんですよ。
そう言っていただけるとありがたいです。その実績があったおかげでいろんなアーティストさんに関わらせていただいて、ホントに感謝しかないですし、あの頃傷だらけになってよかったなって。
――ちなみに、たまアリでは挨拶には行ってないんですか?
行ったら帰ってました(笑)。はちみつロケットのときも、川上さんとたまたま道で会ったんですよ。「何やってんの?」「いまデジモンやってますよ」「フクちゃんはちロケに曲作ってよ」ってノリだったんですよ。それも3~4年前かな、それでリリイベに行ったら藤下さんがいて。結局、川上さんとふたりで握手会のハガシやらされて。
――ダハハハハ! 原点回帰ですね(笑)。
キングレコードのスタッフも、「あの人誰だ!?」みたいになって。川上さんが「久しぶりにやろうぜ」って言うんでノリでやってみたものの、「俺、何やってんだ?」と思って。
――もともとハガシやってたわけですよね。
川上さんとずっとふたりでやってました。あのときなんてひどいですよ、川上さん足が出てましたからね(笑)。
――ダハハハハ! ちょっと前から「川上さんの客に対する対応がひどい」みたいにネットで叩かれるようになったけど、そのレベルではなかったわけですね(笑)。
あの頃のオタク全員並べて聞いてみればいいですよ、「あの頃すごかったよな?」って。いまでも月イチぐらいで秋葉原を歩いてると声かけていただくんですよ。「FKDさんですよね? 僕らアイドルから足洗ったんですけど、あの頃は僕らの青春なんです」って、僕と同年代かさらに上のオジサンたちに言っていただいて。
いまでもときどき「FKD」っていうのを話題にしていただいてるのを見るとホントに感謝しかないですし、アイドルのいい時代に生きさせてもらえたなと思いますね。
――あの時代をおもしろくしてくれた人のひとりであることは間違いないですね。
そう言っていただけるのは光栄ですし、やってよかったなという思いしかないですね。あの頃は殴り合うくらいの気持ちでやってました。
――嫌われてもいいから結果を出すしかないぞっていう。
そうですね、嫌われることに対して1ミリも躊躇がなかったです。周りの人間にどれだけ嫌われても、どんだけ天狗だと思われもいいと思って死ぬ気でやってましたし、失うものがホントなかったんですよ。それよりも、結果を出さないとこの世界で生きていけないっていう怖さですかね。すっごい過酷な時代でした。
『走れ!』『怪盗少女』の影響力
――いま思うと『走れ!』がアイドルの世界に与えた影響はすごいデカいですからね。『走れ!』がモチーフのアイドル曲がどれだけあるのかって話ですよ。
そうですね。あの曲はmichitomoさんがキレッキレだったので素晴しい曲でした。
――『走れ!』と『怪盗少女』がアイドル界に与えた影響はとんでもないし、あのシングルはタイトル曲で攻めまくってカップリングがストレートないい曲っていうバランスも含めて理想的だったって、百田夏菜子さんも言ってましたよ。
ホントにありがたいですね。あの曲をもう一回作れって言われたらできるのかなってよく考えるんですよ。それこそ「『怪盗少女』みたいな曲」、『走れ!』みたいな曲」って発注があって、自分のなかではそれよりもいい曲って何曲もあって。たとえば吉川友ちゃんの『こんな私でよかったら』(2011年12月28日発売)とか。
――あれも名曲ですね。
これは超えたと思ってリリースして、曲としては素晴しかったし、いまでも吉川友ちゃんの代表曲になってますけど、『怪盗少女』ほどのインパクトは与えられてない。
――『少女飛行』もいい曲ですけど、『怪盗少女』は歴史を変えたんですよね。
『少女飛行』もそうですよね。ぱすぽ☆のときはSUPER GiRLSにはとにかく負けたくないと思ってて、そこバチバチさせたいなっていうのはスパガの樋口(竜雄、統括プロデューサー)さんとも話してましたね、ライバルとして頑張りたいねって。
プロレスとアイドル
――当時、運営にプロレス好きが多かったのが大きかったと思うんですよね。川上さんと山田さんが戦いがわかる人だったから。
僕はそれほどプロレスに明るくなかったので。だから「もっとやれもっとやれ!」って焚きつけられて傷だらけにされて、いいオモチャだったんだろうな。そしたら「あいつは裏切り者だ」っていろんなところで言われて。
――わかりやすくヒールターンした感じですもんね。
ヒールやってましたねえ……。
――敵軍に回って。
ホントそうですよね! 俺よく五体満足で生きてるなあ、この歳まで。
アイドルと人生
――いい話が聞けましたよ。
あの頃みなさんどう思ってたのか、いまだからこそ川上さんにお話をうかがってみたいです。あの頃みんな頭おかしかったんで、全員集めて答え合わせできたら楽しいんじゃないかなって思いますね。
――異常な時代だったせいか、みんな意外と当時の記憶がないじゃないですか。山田さんもあまり覚えてなかったり、川上さんもけっこうフワッとしてるんですよ。メンバーは追い込まれたことは覚えてるんですけどね。
いまでも武道館とかアリーナとかやってるももクロを見てて、れにちゃん今年29歳かって。あーりんが20歳過ぎたときもホント絶望しましたけどね。「おまえランドセル背負ってたじゃん!」みたいな。歳とりましたねえ(笑)。
――ももクロから離れて12年ですからね。
ももクロを離れるときに優しかったのはなぜか川上さんだったんですよ。「フクちゃんありがとね、フクちゃんもいろいろ人生経験してみたいだろうからさ、頑張りなよ」って言ってくれて。正直、怒鳴られるか殴られるかぶち殺されるかだと思ってたんですよ。なのに、すげえ優しいテンションでそう言っていただいて。
藤下さんと川上さんは人生の恩人ですね。ももクロのメンバーもぱすぽ☆のメンバーも、ぱすぽ☆の林さんもそうですし、素晴しい方たちに……もしかしたらアイドル戦国時代ってただ僕を育ててくれただけの時代だったのかもってちょっと思う部分があります。いろんな方にご指導いただいて、ホントにありがたい時代でした。
取材・文:吉田豪
写真:小山田恵太
サムネイル画像:Sports Nippon/Getty Images Entertainment/Getty Images
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