ヌード写真集、濡れ場…女性芸能人の「清純派からの卒業」はなぜ消えた? 井森美幸VS芦田愛菜の”争いも勃発中か…「清純派」ファンタジーの現在地
集英社オンライン / 2024年3月8日 11時0分
〈〈金沢・仮装卒業式〉「全長3メートルの縦笛」「設計エラー画面」「Hondaのエンジン」…それぞれの想いを込めた卒業制作に身を包んで臨んだカナビ卒業式に溢れた笑顔〉から続く
永遠の清純派俳優・吉永小百合を筆頭に “清純派”と呼ばれる俳優はたくさんいる。しかし、それとセットのようについていた清純派「卒業」という言葉は聞かなくなった。いったいなぜなのか、その理由をテレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが分析する。
「もうどうにも止まらない」「後ろから前からどうぞ」
卒業には驚きがあった
「清純派からの卒業」という言葉を聞かなくなってひさしい。
かつては「体当たりの艶技!」や「初の汚れ役!」、古くは「五社英雄監督作品!」「つかこうへい演出の舞台!」といったフレーズとともに清純派の殻を破っていた女性俳優やアイドルが多くいたが、近年とんと目にする機会が減った。
昭和から平成にかけては、さまざまな「清純派からの卒業」パターンがあった。
映画などで濡れ場を披露するケースや、ヌード写真集を出すみたいなケースは、ある種卒業手法の定番であったが、それでも「あの朝ドラ女優が!」とか「あのアイドルが!」とかいうギャップに毎回新鮮に驚いたものである。
デビュー時はお人形さんのような衣装で「こまっちゃうな、デートに誘われて♪」と歌っていた山本リンダが、しばらく経ったら「もうどうにもとまらない♪」とクネクネ踊るようになったのも一つの「清純派からの卒業」だったかもしれない。
そういった意味では、平尾昌晃とのデュエット曲「カナダからの手紙」で「あなたのことを思い出して、カナダの夕陽見つめて♪」いた畑中葉子が、その後「後ろから前からどうぞ♪」と歌い出したのもそうだ。
たとえが少し古いかもしれないが、とにかく昔は「清純派」というのは「卒業」とセットだったのである。
しかし時代はアップデートしてきている。
そもそも「清純派」という言葉自体が、女性に清廉さと純粋さを求める男性目線の勝手なイメージである。それを女性に求め続けること自体が令和の世の中では時代遅れになっているのだから、その卒業もなくなるのは、まあ必然であろう。
では、もう「清純派からの卒業」は見られないのであろうか。
清純派には「奥ゆかしい」や「恥じらいがある」が大事?
しかしながら「清純派」という概念自体は、まだなんとなく芸能界に残っている。
社会が一般女性にそれを求めることは不適切であっても、ある種のファンタジーとして芸能人にそれを求める習慣は、いまだあるような気がしている。
「清純派」なる言葉は不思議だ。辞書的な定義はともかく、かなりふわっとしたイメージの世界だと思うのだが「世間が考えるこの人は清純派、この人はそうじゃない」は大体一致する。
あえて条件を列挙するならば「奥ゆかしい」「恥じらいがある」「すれていなそう」「身持ちがかたそう」「誰のものでもない」みたいなイメージをキープし続けているのが清純派と呼ばれる人たちの共通項かと思う。
最後の「誰のものでもない」を重視すると、デビュー時のキャッチフレーズが「まだ誰のものでもありません」で、いまだに誰のものでもない(未婚である)井森美幸が「クイーン・オブ・ザ・清純派」となってもよさそうだが、世間がイメージするそれは既婚者の吉永小百合だったりするのである。やはり不思議だ。
結婚とか熱愛とかを機に清純派イメージを失くしてしまう人は多いと思うのだが、「奥ゆかしい」とか「恥じらいがある」のほうが要素として大事なのかもしれない。
そういう意味では、2012年の主演映画「北のカナリアたち」において、67歳にして「映画のキスシーンに恥じらい」という記事が出た吉永小百合に勝てる人はなかなかいなかろう。
まあレジェンド級の「清純派」はともかくとして、こういうファンタジーとしての「清純派」を業界全体として守るのが、アイドル業界である。
現代では「清純派」は無理あるファンタジー?
もちろんアイドルのあり方も80年代と現代ではかなり変わっているし、必ずしも「清純派」であることを売りにするアイドルばかりではない。
しかし、一部アイドルグループの恋愛禁止のようなルールは「アイドル」の定義の中にある種の清純さを含ませているからこそ存在するわけで、それが守られることで満足するファンは一定数いるのである。
ただ、裏返していえば「ルール化しないと守れない世界観」なのも事実であり、やはり現代の自然の摂理からすれば無理のあるファンタジーなのだろう。
そしてその世界のルールをしっかり守って決してボロを見せないアイドルは「清純派」ではなく「ストイック」「プロフェッショナル」と呼ばれる。
現代でも「清純派」は作れる。しかしそれを守り通すには鉄の意思が必要だという話である。
では、なぜ昔はそんな「清純派」を「卒業」しなくてはならなかったのだろうか。
芸能界で生き残りをかけた熾烈な争いの影響
盛んに言われていたのは「ずっと清純派だと役の幅が広がらない。これからの役者人生を考えたら、一度卒業しないとダメだ」みたいな論調である。
一見、もっともらしく聞こえる意見である。確かに昔はその手の風潮もあったのだろう。
しかし現代の「清純派」イメージの人を見ると果たしてそうかなと思う。
綾瀬はるか、有村架純、新垣結衣といった人たちは「清純派」とカテゴライズしていい俳優さんだが、役の幅が狭まっているようなことはなく、さまざまなキャラクターを演じている。
出演する映画やドラマ自体もコメディ・アクション・恋愛・医療モノ……とジャンルもさまざまだし、役どころもワンパターンではない。
確かに大きくイメージを崩してしまうような役は少ないかもしれないが、別にそれで困ることはない。むしろ「清純派」イメージを守り続けている人たちは常に主演級であり、それを守っているからこそ主役が張れるともいえる。
つまり、今となっては、ただでさえ少数派になった「清純派」イメージの俳優さんが、わざわざそれを卒業するメリットがないということである。
もちろん今でも「体当たりの汚れ役」を機に抜擢される人もたくさんいる。ただそれは無名なところから一念発起してというパターンが多いように思う。
昔は清純派のイメージでデビューする人がワンサカいて、次から次へと新たな清純派が出てきた。そのため、芸能界の競争に生き残っていくためには、その席を降りて次のステージに行くしかなかったのである。
答えは50年後…「清純派」ファンタジーをストイックに守れる存在
そんな「清純派」の定義も「卒業」の必然性も大きく変わっている現代。若い世代で今後レジェンド級の「清純派」となっていきそうな女性俳優といえば、さきにのべた清純派の共通項にすべて当てはまっているであろう、芦田愛菜ではないだろうか。
今の彼女は「清純派」というよりは「優等生」に近いかもしれないが、将来にわたってそのイメージが崩れそうにないところがすごい。
現代は「清純派」のイメージを自ら卒業しなくても、簡単に崩れてしまう罠がいっぱいである。そんな中、あのイメージを守り続けられる芸能人はそう多くない。
芦田愛菜は、SNSもやっていないし、バラエティも「博士ちゃん」しかほぼ出ることはない。良好なイメージを元にCMはバンバンやっているが、女優としての作品はある程度厳選している。鉄壁のディフェンスである。
同じ子役出身でも、平成の子役・安達祐実は子供イメージ脱却のためグラビアをガンガンやったり、映画で汚れ役を演じたりと意識的に自ら崩していった感があるが、今のところ芦田愛菜はそういった方向には行く気配がない。
芦田愛菜には、貴重な「清純派」ファンタジーをストイックに守れる存在として、吉永小百合の高みを目指してもらいたいものである。
彼女が、70歳であってもキスシーンに恥じらうのか。答えは50年後である。
文/前川ヤスタカ 写真/shutterstock
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