本記事は2月16日に逝去した叶井俊太郎氏(享年56)の仕事を偲んで再編集・再掲載する。(初公開日:2022年7月15日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
【惜別・叶井俊太郎】世界46か国以上で上映禁止! 映画史上最悪の鬼畜ホラー映画
集英社オンライン / 2024年2月23日 10時1分
漫画家・倉田真由美氏(52歳)の夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎氏(享年56歳)が今月16日に死去した。2022年6月にステージ3の膵臓がんと診断を受け、医師から「余命半年」の宣告を受けていた。「がん」公表後も変わらず、精力的に映画製作に携わり続ける生粋の仕事人だった叶井氏。哀悼の意を表して集英社オンラインでのインタビューをお届けする。全世界46か国以上で上映禁止! なぜ叶井氏はそんな悪名高き映画を買い付けたのか直撃した。
こんなヒドい映画は観たことない!
アメリカのエンターテインメントサイト「whatculture.com」の「2000年以降に製作された物議を醸す映画20本」(2014年)で堂々の第1位に選出されたハードコア・スリラー映画。
その名も『セルビアンフィルム』。
同ランキングでは、日本からも深作欣二監督作『バトルロワイヤル』が第19位、三池崇史監督作『ビジターQ』が第5位に選出。そんな名作を上回ることから、この映画がタダならぬ映画であることはうかがい知れる。
実際に映画を知る人たちのTwitterの反響も大きく、伝説のトラウマ映画という声もある。
「今月セルビアンフィルム上映するんだ。あれは劇場ではみれないな。てか私はもう観れないな」【言葉を喋るグラボイズさん】
「セルビアンフィルム、ニコ生で観たけど相当キツい映画だったのにリマスターやるんですか…?ほんとに…?」【もことよんこさん】
「タブー描写の大安売り!劇場で観てたら大の大人がトイレに駆け込みましたからねぇ…」【ネズミツオさん】
「『マイスモールランド』を観て号泣した同じ映画館で『セルビアンフィルム』を観ることを想像したら喜怒哀楽がぶっ壊れそうで既に怖いです…」【Don@30s3m30mさん】
一体どんな映画なのか? なぜ上映されるのか? 買い付けと配給を担当する映画プロデューサーの叶井俊太郎氏に話を訊いた。
日本初上映では異例の満席&立ち見の大盛況
――単刀直入に聞きますが、なぜこんな「胸糞悪い」と評判の映画を買い付けてきたんですか?
この映画の日本初上映は2012年で、当時は上映期間中にめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。同年12月に閉館したシアターN渋谷という劇場では満席で立ち見も出るくらいの盛況ぶりでした。その時は「R20指定」として、注意書きが出たりもしてね(笑)
「本作は20歳未満の方はご覧いただけません。本作品には、倫理的にも表現的にも最悪の描写が含まれております。20歳未満の方には、決してお見せ出来ません。また20歳以上の方であっても、心臓の弱い方や体調の優れない方のご鑑賞はお勧めできません。くれぐれもお客様各自の責任においてご鑑賞下さい」
映画を観た人たちの感想が「エグすぎた!」とか「本当にヒドい!」とか、そんな反響ばっかりだったんですよ。そんなただでさえヒドい映画が今回「4Kリマスター」になってさらにクリアに、鮮明にヒドいシーンが観られるわけですよ。正直、どうなってるんだろう……そして、何を考えてるんだろうと……(笑)。その心意気を買って、これは映画館で観るために配給しないと損でしょ!ということで買い付けました。
――日本初上映の際に観た映画が「4Kリマスター」になると、どういう映像になるのか気になったんですね(笑)
いや、オレは映画観てないよ。だって、なんか怖いじゃないですか。
――え? 映画を観ていないのに買い付けてきたんですか?
はい、予告編だけしか観てません。観るつもりもありません。
映画を観ると感情移入してしまう
――いやいや、観てない映画を買い付けてくるってどういうことですか?
映画を観て買い付けると思い入れが入ってしまうからね。その映画に感情移入してしまうと、「ビジネス」としてはよくないと思うんですよ。映画監督にもいるじゃない。感情移入しすぎて、意固地になってしまってる監督とか……。
――志高く映画を撮っている監督はたくさんいます。謝ってください。
ごめんなさい(笑)。映画を作る人たちのことは尊敬しています。でも、映画の制作と買い付けや配給は全然別だから。「いい映画だったから買う」とか「これをみんなにも観てほしい」とか感情移入してやってると失敗することが多かったから。
――志高く映画を買い付けている人はたくさんいます。キノ・イグルー※に謝ってください。
ごめんなさい(笑)。でも、映画を1本買い付けてくるって本当に大変なんですよ。
※キノ・イグルー:世界中から良作映画を買い付けて上映している有坂塁と渡辺順也による移動映画館。
――いつも映画は観ないで買い付けてくるんですか?
一応、オレもこう見えてホラー映画のヒット作をたくさん仕掛けてきたことで知られているわけですよ。『八仙飯店之人肉饅頭』『キラーコンドーム』『ムカデ人間』……。でもね、全部観てないのよ、正直。観てしまうと、商売として難しくなっちゃうから。
自分は観ないけど、みんなには観てほしい
――叶井さんといえば、社会現象になった『アメリ』のバイヤーとしても知られていますが……。
もちろん観てません。
――やっぱりですか……大ヒットした映画ですけど……。
はい。ホラー映画かなと思ってポスターと予告編だけ観て買いました。でも、『アメリ』の話でいうと、10月公開予定の『オカムロさん』という映画に出演する子役で本名が「アメリ」って名前の女の子がいたんですよ。そのお母さんに名前の由来を聞くと、映画『アメリ』から名付けましたって言われて、さすがに嬉しかったですね。
――それはいい話ですね。
でしょ! 『アメリ』も引き当てたオレが自信を持って買い付けた映画なんだから、『セルビアンフィルム』も見ごたえあるはずです。だから、あなたも『セルビアンフィルム』を劇場で観てくださいね。
――え! 買い付けた叶井さんも観てない映画をですか!? いや、その週は『キャメラを止めるな!』を観に行きたいなと…。
それはオレも気になってるから観に行きたいと思ってるけど、それ観た後で観に行ってよ。
――あ~、『キングダム2 遥かなる大地へ』も観たいんで……。
じゃあ、もう観に行かなくていいけど、せめてこの記事の最後に映画の情報入れてしっかり宣伝しといてくれよ。こういうインタビューって大体宣伝のためにやるもんでしょーが!
――(いや~宣伝宣伝うるさいな……)もちろん、バッチリ宣伝しておきます! 本日はありがとうございましたっ!
取材・文/隅田川レコバ
『セルビアンフィルム 4Kリマスター 完全版』詳細はコチラ
⇒公式ホームページ
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