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【惜別】末期がんの叶井俊太郎が一番自慢できる仕事は『アメリ』でも『ムカデ人間』でもなく、あの映画を公開したこと

集英社オンライン / 2024年2月21日 18時31分

漫画家・倉田真由美氏(52歳)の夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎氏(享年56歳)が今月16日に死去した。2022年6月にステージ3の膵臓がんと診断を受け、医師から「余命半年」の宣告を受けた。「がん」公表後も変わらず、精力的に映画製作に携わり続ける生粋の仕事人だった叶井氏。哀悼の意を表して集英社オンラインでのインタビューをお届けする。末期がんで余命半年を宣告された名物映画宣伝プロデューサー・叶井俊太郎氏。残された少ない時間を治療に充てるのではなく、仕事に捧げることに決めた叶井氏に現在の心境を聞いた。(前後編の後編)

本記事は2月16日に逝去した叶井俊太郎氏(享年56)の仕事を偲んで再編集・再掲載する。(初公開日:2023年10月31日。記事は公開日の状況。ご注意ください)

#1

やっぱり娘の成長は見届けたかった?

――書籍『エンドロール!』には入れられなかったけど、実は会いたかった人とかはいますか?

大体網羅したと思いますよ。著名で付き合いがあった人となると、このぐらいじゃないですかね。本当はモデルとかそういうのもいたんだけど、違う意味で出しちゃいけない人たちじゃないですか(笑)。

叶井俊太郎氏

――墓場まで持っていく話もたくさんありそうですね。

だから、死んでからみんなが騒ぐのはOKよ。ジャニーさんみたいにね。

――あの人、なんでお葬式きてるんだろうみたいな。

そうそう。「叶井、あの人ともやってたんだ!」みたいなのがゾロゾロ出てきたら面白いよね(笑)。

――やっぱり病気になっても、人生観は変わらないものですか?

そうだね。もともと人生観なんてないし、この世に対する未練ももうないわけですよ。何かの仕事に置き換えて考えてみても、ジャンルが違うだけで、結局やることは一緒じゃないすか。だから、もうやりきってるんですよね。

――でも、ひとつだけ、やっぱり娘さんの成長は見届けたかったんじゃないかなと思って。

それも特にないよ。もう彼氏もつくってるし、部活も忙しいし、友達と毎日遊んでるし、家に閉じこもってゲームするようなタイプじゃないから、そこはよかったんじゃないかな。

一応、「もう死んじゃうんだ」って病気のことは伝えたけど、「まあ、なるようにしかならないっしょ」って言ってて。俺と同じ考え方だったから、逆に救われるよね。思春期だからあえてそういう風にしてるのかもしれないけど、全然悲しんでない。昨日の夜も11時ぐらいまで彼氏と話してたよ。

――ただ、叶井さん自身は娘さんができてから、すごく変わったように思います。

そう? まあ小さいときはよく遊んでたしね。最近はもう全然で、昨日もハロウィン用にドンキでセクシー警官のコスチューム買うからって1万円とられて、友達とディズニーランド行きたいからって2万円とられて。

「俺、末期がんなんだけど」って言ったけど、「関係ないっしょ」みたいな。

まあ、「お父さん死なないで〜」って感じじゃないから、俺も安心できるわけよ。いい子に育ったなって思うね。っていうかさ、そんな中2いるのかね? 周りの友達もだけど、そんなに金かけるのにびっくりしちゃうよね。

やり残したことや、心残りがまったくない

――この本をたくさん売らないといけないですね。

そうそう。最低でも1万部はクリアしなきゃダメだよね。

――書籍では対談相手に「自分が余命半年と告げられたら」という質問を投げかけていましたが、印象に残っている回答はありましたか。

でも、やっぱり何もしないって人が多いよね。今やってることをやり続けるかとか、今やってることを整理して片付けるとか。切り替えて新しく何かをするって人はいなかった。それでいうと、豊島(圭介)監督の「死に対して興味ないでしょ」っていう指摘が面白かったな。俺、本当にないわと思って。

――死後の世界とか考えたことがなかった?

全然なかったね。豊島さんがいまやっている『三茶のポルターガイスト2』が来年3月公開だから、それまでに死んで映画に出られたらいいなっていう気はしてる。コックリさんとかで呼び込んでくれたら面白いよね。

今年公開された『三茶のポルターガイスト』 ©2023/REMOW

――もしも天国と地獄があるとしたら、自分はどっちに行くと思いますか?

地獄だろうね(笑)。俺に光に包まれながら草原を走ってるイメージはないから、針にグサっと刺さって、ギタギタの血まみれになってると思う。なんなら、「これが地獄か〜」って、見てみたいくらいの気持ちがありますよ。

――本当にやり残したことや、心残りがないんですね。

まったくないですよ。本当にいままで1日1日が充実してたんだなって思います。

――何かと縮こまりがちな世の中ですから、叶井さんのような奔放な生き方に憧れる人もいると思うんですよ。

本当ですか? まあ仕事もプライベートも含めて、好き勝手やってきたからね。そういう意味でも、まったく後悔がない。

――何でそういう生き方でやってこれたんだと思いますか?

考えたこともなかったけど、我慢しなかったんだろうね。相手のことをまったく気遣ってなかったし、いつも自分優先みたいなところがあったんじゃないかな。それがいけないんだろうね。だから、やっぱり地獄行きだな(笑)。

――ただ、そういう生き方をしてきたから、スパっといいエンドロールが迎えられるわけですもんね。

そうね。結局、そこが未練のないところに繋がってくんだろうね。だから、仮に30代で末期がんと言われても、いまと同じ気持ちだったと思う。

いままでで一番自慢できる仕事は…

ーーちなみに、いままでやってきたお仕事で、一番自慢できることは何ですか?

自慢することなんてないけど、今年に劇場公開した『食人族4Kリマスター無修正完全版』くらいかな(笑)。『アメリ』を買い付けてヒットに導いた男とか言われてるけど、実は日本語字幕が入ったものは見てないんだよ。だから死ぬ前に見たかったなって気持ちはある。

映画『食人族』のワンシーン ©F.D.Cinematografica S.r.l.1980

――見る気なさそうですね。

ないね(笑)。あ、「死ぬ前にアメリが見たかった、アメリ買い付け異色バイヤーの暴露」ってタイトルどう? 面白くない?


――小見出しくらいですね。最後に、この『エンドロール!』をどう楽しんでもらいたいですか?

90年代サブカル、エンタメ業界の信じられないような話が満載じゃないですか。 宇川(直宏)くんとやったチャボやヤギを呼んできたパーティとか、DJ沢田亜矢子とかDJアジャ・コングとか、絶対ありえねだろうっていうことが、東京で日々ひっそりと繰り広げられてたわけですよ。そういう知られざる90年代サブカルの裏側を知ってもらえると思います。

――やっぱり、あの時代は叶井さんにとっても青春でしたか。

そうですね。Kダブと過ごした昭和の渋谷だって異常ですよ。塾帰りにディスコへ行って、朝まで遊んでからまた学校に行くなんて、そんな中学生いるわけないでしょ。でも、いたんですから。

――娘さんのこと何にも叱れないですよね。

叱れない(笑)。そういった異常な世界が臨場感たっぷりに伝わってくると思うので、面白いと思います。それと、映画関係者にもたくさん出ていただいているので、清水崇と呪怨の裏側だったり、ヒット映画に隠された裏の世界も知れるんじゃないかと思います。

――そして最後のあとがきを、くらたまさんがしっかりと締めてくれています。

読んだ人はみんな素晴らしいって言うよね。俺としては、真面目に書いててるから笑えないなあと思うんだけど、心配してくれているんだなって感じました。

取材・文/森野広明 撮影/井上たろう

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