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【惜別】 末期がんで20キロ痩せた映画宣伝P・叶井俊太郎が中学の同級生でラッパー・Kダブシャインと振り返る“チーマー以前”の渋谷

集英社オンライン / 2024年2月22日 10時1分

漫画家・倉田真由美氏(52歳)の夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎氏(享年56歳)が今月16日に死去した。2022年6月にステージ3の膵臓がんと診断を受け、医師から「余命半年」の宣告を受けていた。「がん」公表後も変わらず、精力的に映画製作に携わり続ける生粋の仕事人だった叶井氏。哀悼の意を表して、末期がん患者と15人の著名人による対談本『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー)より、中学の同級生で伝説のラッパー・Kダブシャインとの対談を一部抜粋してお届けする。

本記事は2月16日に逝去した叶井俊太郎氏(享年56)の仕事を偲んで再編集・再掲載する。(初公開日:2023年10月29日。記事は公開日の状況。ご注意ください)


#1

83~84キロの体重が62~63キロに…

叶井 中学のときから付き合いがあるやつの中で有名になった唯一の人がKダブだったんだよね。ずっと一緒に過ごしてたから、そういう話をするのも面白いと思って。Kダブにがんだって言ったら、一緒に遊んでた連中を集めて飲み会に誘ってくれたりして。中学ぶりに連絡が取れたってやつも3人くらいいて、すごく懐かしくてね。みんなも、再会できたのは叶井のがんのおかげだって。がんになったのを褒められてもしょうがないんだけどさ。

Kダブ 今日はサングラス持ってきたよ、泣いてもいいように。

ラッパー・Kダブシャイン(左)と叶井俊太郎(右)

叶井 いや、がんの話してからも、死ぬほどしゃべってんじゃん。

Kダブ だんだん実感が出てきちゃうとイヤだなって。

叶井 でも、オレ痩せたの分かるでしょ? 20キロ痩せたもん。

Kダブ 顔はそんな変わらないけど肩幅とか見ると……ね。

叶井 この前、胃を切って2週間ぐらい入院して、それで20キロ痩せたんだけどね。もともと83~84キロくらいあったから、ガリガリってほどじゃないけど。でも自分的にはガリガリだよ。いま62~63キロで今これ以上太らないから。食事は食べられるけど、徐々に死んでいくよ。しょうがないね。

叶井俊太郎

Kダブ ……サングラスかけなきゃ。

叶井 全然泣いてないじゃん!

Kダブ いや、抑えているんですよ。

叶井 でも、松濤中学出身の人たちはみんな優しいよね。コッタ(Kダブシャインの愛称)も、オレががんになってからマメに連絡してくるしさ。

Kダブ もう3回ぐらいみんなで集まったよね。最初に今年の春、1回集まったじゃない? オレと松濤中の友達と3人で「他に誰か会いたい人いないの?」とか聞いて。

渋谷のディスコで朝帰りして遊んだ中学時代

叶井 オレががんで余命いくばくもないからって、コッタと元松濤中の友達と3人でごはん食べたとき、オレが中学・高校時代とかによく遊んでいた友達たちに会いたいと言ったら、今年の春に約30年ぶりにみんなで集まって。あれはすごかったな。この年齢になって松濤中のコアな遊び人たちもバラバラになっちゃったし、今の連絡先が分からない人も多かったけど探してくれて。松濤中の人たち同士も35年会ってなかったんだよね。コッタもそうでしょ?

Kダブ 別のタイミングで会っていた人も、中にはいたけど。何人かは35年間くらいまったく会ってなかったね。そういう大変な状態で叶井俊太郎サイドから「会いたい」と言ってくれて、また集まれることが、みんなもやっぱりうれしかったんじゃない? そういえば、前回はキャンセルしてましたけど……みんな心配していましたよ。

ラッパー・Kダブシャイン

叶井 みんなからLINEが来ました。コッタは学年的にはオレのひとつ下で、オレが高1の頃に出会ったと思うんだけど、振り返ると不思議なつながりだなと思うんだよね。そもそもオレは松濤中出身じゃなくて目黒3中だから地元の友達でもないし、一時期に出会った友達、その場限りの友達に近かったんだけど。

――改めて、お2人は10代からのお知り合いということなんですけど、どういう出会いだったんですか?

叶井 オレが中3の時に通っていた、渋谷警察署の並びにあった「富士学院」っていう学習塾で、松濤中とか青山中のやつらと仲良くなって。その塾に通っている松濤中の女友達が、渋谷の溜まり場によく連れて行ってくれたんですよ。塾終わりとかに「友達紹介するから来なよ」みたいな感じで。

Kダブ 宇田川町交番の側にアールビルというのがあって、オレの通っていた松濤中の卒業生とかのたまり場になっていたんですよ。公園通りの今のディズニーストアのところの1階にあった「ジャック&ベティ」ってカフェテリアで待ち合わせして、初めての友達とか紹介し合って、2階の「ラ・スカーラ(LA・SCALA)」というディスコに行くのが定番のパターンで。20人ぐらいの小さいコミュニティだったし、なんとなく常連とは顔見知りみたいな感じになるんですね。たぶん叶井俊太郎ともそんな感じで、初めて出会ったと思う。

叶井 84年くらいに初めて出会っているのかな。

中3の春休みに人生初ディスコに行ってから朝帰りの日々

Kダブ 「ラ・スカーラ」はオレが高校に上がる直前の中3の春休みに、オレからすればひとつ上の松濤中のOGに、生まれて初めて連れて行ってもらったディスコです。

叶井 だから、オレからすると松濤中や青山中のやつらは、めちゃめちゃ進んでいたわけです。あの塾に通っている目黒三中の生徒はオレだけだったから、「渋谷の塾に行ったらディスコに初めて連れて行かれた」って、学校の友達に自慢したもん。渋谷の奴らヤバいよって。

Kダブシャインと叶井俊太郎

――塾に行っているのに全然勉強していないですね。

叶井 当時、ほぼ家に帰っていないんだよね。学校の後に渋谷の塾へ行って、終わってから松濤中のやつらとディスコに行き、また制服に着替えて学校行くみたいな生活していたから。今この年齢でこういう病気になったことで、あの頃一緒に遊んでいた奴らどうしてんだろうなって思うというか、すごく印象に残っているわけです。オレだけ学校も違ったし。

Kダブ まあ、でもいろんな人がいたけどね。ちょっとずつそういう人たちと仲良くなっていくみたいな感じだったから。

叶井 そういう小さなコミュニティが渋谷の中に点在していたよね。

Kダブ 80年代前半は映画『サタデーナイトフィーバー』(1977)の名残りみたいな時代だから、まだクラブじゃなくてディスコ全盛で、渋谷にも2~3軒、人気のサーファー系のディスコがあって。荻野目洋子みたいなディスコサウンドやユーロビートが流れているという。

『サタデーナイトフィーバー』(1977)

叶井 そういう世代ですね。

――お2人がよく遊んでいたグループというのは、チーマーみたいな感じのイメージですか?

叶井 別にそういうノリじゃないんだよな。

Kダブ アールビルの一部には、ちょっと武闘派というか、荒っぽいのもいたけど。オレらは基本そういう感じじゃなかったね。叶井俊太郎たちはナンパ師みたいな感じ。まあ、その後の渋谷には、埼玉県とかから集団で四駆で乗り付けてくるような輩も増えるんですけど。チーマーが出てくる以前の時代ですね。

構成/伊藤綾 写真/二瓶綾

『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー)

叶井俊太郎

2023年10月30日

¥1,650

312ページ

ISBN:

978-4-866251776

『末期がん患者との対談本って、 今までにない前代未聞の企画じゃないですか?
いやーかなり楽しかった!
皆さまご協⼒ありがとうございました。
おかげさまで伝説になりそうな本が完成しました。』――叶井俊太郎 まえがきより

『夫のがんが判明した昨年は、⼈⽣で⼀番泣いた⼀年だった。
「なんで泣いてるの」 泣く私に、いつも夫は⾔う。
「泣いても仕⽅ないでしょ、治らないんだし。泣いて治るなら俺も泣くけどさ」
夫はがん告知されてから⼀度も泣いていない。』――妻・倉⽥真由美(漫画家)あとがきより

映画業界では知らない人のいない名物宣伝プロデューサー・叶井俊太郎(かない・しゅんたろう)。
数々のB級・C級映画や問題作を世に送り出しつつも結局は会社を倒産させ、
バツ3という私生活を含めて、毀誉褒貶を集めつつ、それでもすべてを笑い飛ばしてきた男が、
膵臓がんに冒された!しかも、診断は末期。余命、半年──。
そのとき、男は残り少ない時間を治療に充てるのではなく、仕事に投じることに決めた。
そして、多忙な日々の合間を縫って、旧知の友へ会いに行くことにする……。

本作は、膵臓がんで余命宣告を受けた叶井俊太郎の対談集です。

対談相⼿は、鈴⽊敏夫、奥⼭和由、Kダブシャイン、ロッキン・ジェリービーン、樋⼝毅宏、柳下毅⼀郎、宇川直宏、中原昌也、江⼾⽊純、河崎実、清⽔崇、豊島圭介といった、叶井をよく知る映画監督、⼩説家、評論家、デザイナーなどに加え、妻・倉⽥真由美との出会いにかかわった編集者・中瀬ゆかり、作家・岩井志⿇⼦、中村うさぎといった⼥傑たちまで、実にさまざまです。

話題は叶井俊太郎の特異な処世術・仕事術や、90年代サブカル映画界隈のハチャメチャすぎるエピソード、バツ3の叶井俊太郎に友⼈を紹介する奇特な⼥性たちとの思い出話など。それらが爆笑とともに(本当に笑っている)語り尽くされます。 また、対談の後半では叶井俊太郎が対談相⼿に「余命半年を宣告されたら、あなたならどうする?」と質問。末期がん患者を相⼿に⾃らの余命に思いを巡らせるという、厳かでスリリングな展開が訪れます。

この本は、ひとりの映画⼈の業界冒険譚であると同時に、各界の⽂化⼈たちの“余命半年”論を通して、命との向き合い⽅を考え直すものとなっております。

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