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校歌の歌詞に「ああ」がよく使われるのはなぜ? 校歌作りのプロが明かす制作秘話と最新トレンド「昨今は3番まであると子どもたちが飽きてしまって…」

集英社オンライン / 2024年3月3日 11時1分

卒業シーズンの3月に欠かせないものといえば、校歌だ。その歌詞には各校の在る風土や若者の志などが表現されることが多いが、特に多用されるのが「ああ、我が母校」といった歌詞で使われる「ああ」という感嘆詞。なぜこれが校歌ではおなじみのフレーズになっているのか。校歌づくりに携わって40年のプロがこの疑問に答えてくれるとともに、時代を経て変化している校歌のあり方や、変わらない思いを語ってくれた。

「ああ」を入れると歌いやすくなる

実際に「ああ」というフレーズはどの程度の割合で校歌に使われているのだろうか。一例として、昨年夏に全国高等学校野球選手権大会(甲子園)に出場した高校の校歌の歌詞を確認してみると、全49校のうち13校、実に約26%の校歌に「ああ」が使用されていた。


校歌の歌詞に「ああ」が含まれている、昨夏の甲子園出場校一覧

「“ああ”や“おお”というフレーズは、校歌ではよく使われる言葉のひとつですよ」と教えてくれたのは、校歌を中心に曲づくりを手がける大阪府の音楽制作会社「SHIOKAWA」で代表を務める男性(72)だ。校歌づくり約40年のベテランで、これまでに50曲以上の校歌制作に携わってきた。そもそも「ああ」とはどういう意味なのか、尋ねてみると……。

「人の感情を表す詠嘆の表現で、ありがたい感情とか、楽しかった思い出とか、そういう気持ちを表現するために入れられることが多いですね」(SHIOKAWA代表の男性、以下同)

そして、「ああ」が多用されるのにはこんな理由があった。

「リズム的な問題かな。『ああ』を入れると曲のリズムが整えやすいし、歌いやすくなる効果があるんです。これは作詞家の直感的な部分が大きい。『入れることで、その後の言葉がより引き立つな』とか『リズム的に落ち着くな』とか、そういう感覚的な理由で入れられていることが多いと思いますね」

作詞家の技術的、直感的な理由から歌詞で重宝される「ああ」。その他、校歌の歌詞といえば、山や川の名前などその学校のある土地の象徴や、学び舎や教室、といった学校生活の情景が浮かぶ単語が多く使われる。

※写真はイメージです

「たとえば教室の窓から見える、校舎の裏側の山から日が登る様子や、下校時に歩いた河川敷の風景など、在学生や卒業生が校歌を歌って学校での日々を思い出せる歌詞が多いです。

そのため、作詞家は想像で歌詞を書くのではなく、学校の写真やビデオ、地図などを見て参考にしたり、実際にその学校に出向いて風景を確認したり、校長先生に話を聞いて歌詞にしています」

一方で、このような傾向があるとも。

「過去や沈みゆくものを連想させる言葉はあまり好まれません。例えば、夕日。同じ太陽なら、将来や未来をイメージさせる朝日を使うことが一般的ですね」

時代の流れも校歌も変化

そもそも、校歌はどのように、そしてどのくらいの期間で作られるのか?

「公立校の場合は、教育委員会から依頼が来ます。最近だと学校が統合したとか、開校何十周年の記念に新しく校歌をつくりたいとかそういったご依頼が多いですね。おもしろいケースだと、現在の校歌はいきなり歌が始まって歌いづらいからイントロだけ考えてほしいなんてご依頼もあります。

依頼を受けると、まず校歌に使いたいキーワードをその地域の市民や学校の生徒に公募。それをもとに、作詞家が歌詞をつくる。その歌詞を、教育委員会のメンバーなどで構成される校歌制作委員会が確認し、曲をつけ、3ヶ月ほどで校歌が完成します」

また、校歌に使われるフレーズにも流行りすたりがあるのだとか。

「20年くらい前までは、校歌は大人が子どもに与えるものだったんです。でも、最近は、子どもが歌いたい歌を大人が代わりにつくるという考え方に変わりました。

歌詞を公募したりして子どもたちの声を反映するし、これまでは『我らいざ行かん』みたいな文語体が多かったけれど、最近は口語体が多い。子どもたちがわかりやすいように四字熟語とかも減ってきてますね」

※写真はイメージです

ポップスを見ても最近は楽曲時間が短いのがトレンドだが、それは校歌も例外ではない。

「校歌は通常3番までつくりますが、最近は2番のあとにもう1回サビを繰り返す『ツーハーフ』というスタイルも増えてきました。式典の中で、3番まである長い歌だと子どもたちが飽きてしまって。時代ですかね(笑)。最初は驚きましたが、短くすることで盛り上がる効果もあるので、どちらにもよさがあると思います」

歌詞だけでなく、曲調も子どもたちが歌いやすいものに変化している。以前はマーチ調が主流だったが、最近では8ビートのような軽快なリズムのほうが子どもたちに好まれるそうだ。

このように、時代とともに変化している校歌のあり方だが、それでも作り手の思いは変わらない。

「作詞家、作曲家にとっても、校歌をつくれるのは名誉なこと。自分の肉体が滅びても、校歌は、ひとつの学校の歴史としてずっと歌い続けられる。だからこそ責任は重いし、1曲1曲妥協できない気持ちがあります。

校歌って、友達と喧嘩したり、挫折したり、いろんなことがあったときに子どもたちを鼓舞できる存在だったらいいなと思っていて。ふと口ずさんで懐かしく思うのもいいし、学生時代にがんばっていた気持ちや友達の顔を思い出すきっかけになるかもしれない。そういう“応援歌”を作りつづけたいなと思います」

歌えばそれぞれの青春に思いがめぐり、甘酸っぱくノスタルジックな気分になる。校歌の歌詞や「ああ」のフレーズには、そんな不思議な力が宿っているのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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