食品から日用品、衣料品や家具・家電など豊富な品揃えを誇る総合スーパー(GMS)。2020年に創業100周年を迎え、長らく業界の雄としてGMSを続けてきた株式会社イトーヨーカ堂だが、ここに来て苦境に立たされている。
2月9日、同社の発表によれば、北海道・東北・信越の「イトーヨーカドー」17店舗を閉店させることがわかった。イトーヨーカ堂は、かねてから業績不振が続いており、2024年2月期にはついに営業利益が赤字に転落する見込み。親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、構造改革の一環として既存のイトーヨーカドー店舗を4分の1にまで削減する方針を掲げている。
イトーヨーカドー凋落の裏側で西友が地道に健闘…総合スーパー業態がオワコン状態の時代、明暗を分けた施策の“決定的な差”
集英社オンライン / 2024年2月23日 9時1分
2024年の春以降、総合スーパーを運営する「イトーヨーカ堂」が北海道・東北・信越から撤退すると発表。業績悪化を重ねた結果、閉店ラッシュが続くイトーヨーカ堂に対し、過去同じく不振にあえいでいた西友は対照的な動きを見せた。かつて同社に勤務し、流通アナリストとして活動する株式会社ラディックの西川立一氏が分析する。
GMSから抜け出せなかったイトーヨーカドー
今回のイトーヨーカドーの撤退施策を受けて、“GMS業態限界論”を唱える者も少なくはない。西川氏もイトーヨーカドーのようなGMSの崩壊は、必然だったと指摘する。
「80年代までGMSは、駅前の一等地などを中心に衣食住を提供した小売店として一時代を築き上げた業態でした。なかでも、イトーヨーカドーや西友は、人口密度が高く商圏人口が多い首都圏を早い時期から抑えられていたので、シェアを獲得できたんです。
しかし90年代以降、『ニトリ』や『ユニクロ』などの専門店の台頭に伴い、GMSの専門性が浅い総合的な品揃えでは太刀打ちできなくなっていきます。そして極めつけはイオンが郊外にショッピングモールを出店したこと。自動車普及率の高まりとともに人々はイオンへと足を運ぶようになり、2003、2004年度には、イトーヨーカ堂はイオンに売上高、営業利益を抜かれてしまいました」(西川氏、以下同)
イトーヨーカ堂の問題点は、その時点でGMS業態から脱却できなかったことにあるという。
「同社はGMS業態で小売業界を席巻した企業ですし、元トップランナー。その上、一等地に土地を構えており、地元住民からもそれなりに支持され、関係して引くに引けなかった状況にありました。
おまけに親会社が運営する『セブン-イレブン』などコンビニ事業の好調も重なったことで、イトーヨーカ堂の損失を補えたことも抜本的な改革が遅れた要因に。GMSの衰退は免れず、今日まで不振が続いてしまったのだと考えられます」
西友はGMSから撤退、食品スーパーに転換
GMSがオワコン化していき、イトーヨーカ堂の失速が著しい一方、異なる動きを見せてきたのが、旧セゾングループの中核を担った「西友」だ。
かつてGMS業態として営業してきた西友は、主に関東の生活インフラを支えてきた企業で、イトーヨーカ堂とともに大きな勢力基盤を築いていた。
しかし現在、西友はGMS業態から離れ、食品メインのスーパー業態へと舵を切っており、GMS業態からの撤退が遅れたイトーヨーカ堂とは一線を画している。
店舗数を見ると、イトーヨーカドーが126店(2023年2月末時点)であるのに対し、西友は322店(2023年11月時点)と軽く上回っている。すでに同業態ではないので、単純比較はできないものの、店舗数だけで見れば両社の違いは明らかだ。
西川氏は、西友がGMS業態から撤退するきっかけとイトーヨーカ堂とは正反対の道を進むことになった理由を語る。
「西友はバブル崩壊で当時手がけていた金融事業が不良債権化したことなども影響し、業績悪化に苦しむように。そこで日本進出を狙っていた米国のスーパーマーケット大手『ウォルマート』が、東日本を中心に出店を広げていた西友に目を付けて、2002年に傘下へと加えました。
ウォルマートは、まずは不採算事業であるGMSから撤退し、ノウハウがあり利益も見込める食品スーパー事業に専念させる戦略を打ち出したのです。ウォルマートの経営理念であるEDLP(Everyday low price)の方針を徹底し、低価格路線を明確にしました」
西友の「毎日安く 毎日おいしく」というコピーは、ウォルマートの経営思想が由来だ。さらに西友の脱GMS路線は続く。
「西友では2000年に大手スーパーのなかでも先駆けて『西友ネットスーパー』を立ち上げた。そして2018年、楽天が西友のネットスーパー事業に注目し、提携を開始。同年、『楽天西友ネットスーパー』として再スタートし、楽天経済圏入りしたおかげで楽天ポイントを貯めることができるようになり、さらなる客層を獲得できたのです」
GMS業態の限界の見極めで明暗が分かれた
これだけ聞くと「西友は先見の明があり素晴らしい」という声も出てきそうだが、実情はそれほど調子のよいものではなかった。
「出店過剰で競合も激しく、勝ち抜くのは容易ではありません。西友の既存店舗は老朽化が進み、減価償却が終わったところも多かったですが、黒字化は難航。現にウォルマート傘下後の西友は、決算の公表をやめていることから再建が思うようにいかなかったのでしょう。
けっきょく2020年にウォルマートは、西友の株式を売却し、事実上、日本市場から撤退しているので、最後まで西友の立て直しは図れなかった。ですが今のイトーヨーカ堂の現状を顧みるに、早い段階でGMSから撤退し、食品スーパー路線に移行した点は評価すべきです」
イトーヨーカ堂のGMSからの撤退は遅きに失し、経営再建の進捗状況もなかなか進まなかった。これに対し、西友の奮闘はポストGMS時代の生き残り戦略としては理に叶った策と言えるかもしれない。
そんな両社の今後だが、西川氏としてはどのように推移していくと考えるのだろう。
「西友はウォルマート傘下時代のノウハウも蓄積されていますし、楽天との協業も継続しているので、安定した経営を行っていけるかもしれません。ただしイトーヨーカ堂は、脱GMS路線に有効な施策を打てないまま今日に至ったので、店舗数をますます減らしていく可能性が高い。
現在、イトーヨーカ堂が力を入れている首都圏は、『オーケー』『ロピア』『ドン・キホーテ』といったディスカウントストアの勢力が大きく、とても太刀打ちできるとは思えません。最悪の場合、事業の分離・売却といった線も現実的になるでしょう」
取材・文/文月/A4studio 写真/shutterstock
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