声帯手術、養母の命日のラストライブ…「いつかは自分もお母さんみたいに」川嶋あいの音楽の原点はMDウォークマン
集英社オンライン / 2024年3月2日 11時1分
2003年に『明日への扉』(I WISH)でデビューしたシンガーソングライター・川嶋あいさんは、自身の養親の命日である“8月20日”に毎年ライブを開催していた。しかし、2022年に手術した声帯の不調が続き、昨年8月20日のライブを最後にすることを決めた。養親である母の死、声帯の手術、さらには大切にしていた“恒例行事”からの卒業を決断するなど、デビュー20周年目に目まぐるしい変化が起きた川嶋さんの今の想いを聞く。
親と暮らせない子どもの多さを危惧
――川嶋さんは生まれてすぐに乳児院に預けられ、早くに産みの母親を亡くした後、養親に引き取られて育てられたとのことです。今日まで多くの人に感動を与える音楽活動を続けていますが、川嶋さんを音楽の道に導いた育てのお母さんもとても喜んでいると思います。
川嶋(以下同)そうだとうれしいです。育ててくれたお母さんは私の人生の扉を切り拓いてくれた存在です。
お母さんと出会えていなければ、音楽をやっていたのかさえわかりません。仮に元気に生きてこれたとしても、音楽をやっていない自分自身を想像すると怖くなります。本当に感謝しかありません。
――本当に感謝されているからこそ、“昨年で8月20日のライブをラストにする”という決断をするにはかなりの覚悟が必要だったのでは?
そうですね。何か重要な決断をするとき、いつもは自分自身の中で答えを導き出します。ただ、「8月20日のライブを今後続けようか?」ということに関しては、悩みに悩んで「最後にしていいのかな」と心の中でお母さんと会話して、2023年を一つの区切りにすることを決めました。
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川嶋あいさん
――川嶋さんは「こども家庭庁」のインタビューをはじめ、里親や養子縁組に関する取材も受けていますが、現在の状況についてはどのように感じていますか?
今現在、親と暮らせない子どもは約4万5000人もいると言われています。「なぜ日本では児童養護施設や自立支援ホームで過ごすしかない子どもがこんなに多いの?」ということに疑問を覚えて仕方ありません。
――子どもにやさしい環境、社会とは言えないですね。
私は養親に引き取られ、その親にも恵まれました。ただ、無事に養親に引き取られても、親とのコミュニケーションが上手くとれずに悩んでいる子どももいます。
――統計上の数字にはあらわれないだけで、親との関係で苦しんでいる子どもはたくさんいます。
子どもの生育環境は周囲からではわからない部分も多く、そうした可能性はあると思います。音楽活動はもちろんですが、子どもが安心して生活できるような社会をつくるための発信はこれからも積極的に続けていきたいです。
ひとりで抱え込むことをやめた
――声帯の手術、8月20日のラストライブなど、近年いろいろな変化がありました。その中でも、特に大きかった自身の変化を教えてください。
いちばん大きな変化は「ひとりで抱え込むことをやめたこと」です。これまでは自分の弱さを仲間や家族に見せることはなかったんですが、そうすることをやめました。
――これまではなぜ見せなかったのでしょうか?
「誰かに弱さを見せても何も変わらない」「結局、最後に決めるのは自分自身だから相談しても意味がない」ということを当たり前と思っていたんです。私は16歳で養親であるお母さんを亡くしたとき、言葉にあらわせないほどの悲しみを抱えていたのですが、どこかで「周囲に話したところで私の気持ちはどうせわからない」と決めつけて、誰にも打ち明けることはありませんでした。
――ただ、その考えが変わっていったと。
「ひとりで抱え込まなくていいんだ」と思えたきっかけをハッキリと覚えているわけではありません。ただあるとき、一緒に仕事をしている仲間に、悩みや苦しみをポロッと話したことがあったんです。相手も「なんでいきなりそんな話をするの?」と驚いたと思います。それでも私の話を聞いてくれて、話していると自分の中でどんどん安心感が生まれていくのを感じました。
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――意図して「ひとりで抱え込むことをやめよう」と思ったわけではないんですね。
本当になんとなく抱え込んでいたことを話しました。私の悩みを解決するベストアンサーが出たわけではないですが、「抱え込んでいることを誰かに聞いてもらうと、こんなに心が軽くなるのか」と強く感じました。
――ただただ聞いてもらえるだけでもうれしいですよね。
ひとりで悩む時間は大切ですが、勇気を持って吐き出してみることも本当に大切です。人はひとりでは生きていけません。仲間と一緒にいたほうがいいし、大切な人を見つけたほうがいいです。
――とはいえ、自分の弱さを他人に見せることは勇気のいることです。
めちゃめちゃ勇気が必要です。最初はその悩みを少しでもいいので出してみてほしいです。そうすることで、対話が生まれたり共感してもらったりなどを通して、自分自身の心が軽くなっていくと思うので。
音楽を聴く、つくる原点はMD
――CDではなく配信で音楽を聴くことが主流になり、音楽の楽しみ方はここ数年でガラリと変わりました。川嶋さんも音楽との向き合い方に変化はありましたか?
本当に私事ですが、私は5~6年前までMDウォークマンで音楽を聴いていました(笑)。ただ、MDもMDウォークマンも街から消えてしまって、配信で聴くという現代的な聴き方に泣く泣く移行したんです。
――最近までMDで聴いていたんですね。
MDコンポでMDに録音している間に歌詞カードを見て、その楽曲に込めた思いを想像する時間が本当に好きでした。また、友達とMDを交換して、好きな曲を聴き合ったりした時間も大切な思い出です。
――ちなみに、MDにまるまるアルバムを録音するタイプでしたか? 自分のプレイリストを組んで録音するタイプでしたか?
好みのプレイリストを組んで録音していましたね(笑)。いちいちCDを入れ替えるのは面倒でしたが、1曲1曲に向き合えるぜいたくな時間だったと思っています。そういった手間さえも、今となってはとても楽しかった記憶です。
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――自身の楽曲もMDを意識して制作していたのでしょうか?
そうです。やはり「MDに録音している最中に歌詞カードを読んでほしい」という気持ちが強くて、読んでほしくなるような作詞づくりを今でも意識しています。とはいえ、全アーティストが読んでもらうために歌詞にこだわっているとは思いますが……。
――具体的に意識したことは?
サビで「ここの歌詞ってなんて言ってるのかな?」と思ってもらえるようにしたり、文学的な言い回しにしたり、歌詞が気になるような工夫をしています。最近はTikTokやYouTubeのショート動画が全盛の時代なので、BGMとして楽曲が使われるとき、基本的にはサビから使われるので、サビの導入はキャッチ―な言葉を使うようになりました。
――“時代の変化にアジャストする”という意味では、イントロやギターソロは飛ばして聴く人も少なくない今、楽曲制作における苦労は尽きないのでは?
全然ありません。そうした傾向が見られることを「おもしろい」と考えています。むしろ短い曲が好まれているので、「もっと短い曲をつくりたい」という気持ちも芽生えました。
俳句や短歌みたいな短い曲だけのアルバムをつくってみたい
――「もっと短い曲をつくりたい」とは?
例えば、「短歌や俳句のように五・七・五とか五・七・五・七・七くらいの短い歌詞の楽曲だけを詰め込んだアルバムをつくってもおもしろいのかな」と考えています。
――ちなみに声帯の手術がきっかけで楽曲制作にも変化があったのでは?
術後に新作を録音していないため、正直何とも言えません。ただ、既存の曲を歌う際にキーを下げると、ファンが求めているキラキラ感が失われてしまいます。ファンの期待を裏切らないためにも、ライブでは原曲キーで歌うようにしています。
――歌っているときの喉の状態はつらそうですが。
苦しいです。ずっと苦しいです。(笑)
――この1年間でさまざまな変化を経験した川嶋さんですが、今年はどんな1年にしたいと思っていますか?
まず、3月上旬に『12個の季節~4度目の春~』のMVを公開する予定です。18歳のときにつくられた楽曲で、2004年にセカンドシングルとしてもリリースしています。
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――なぜ20年後となる今、MVを公開することになったのですか?
『12個の季節~4度目の春~』は『旅立ちの日に…』と同じで卒業ソングとしてファンの方々に支持されている楽曲です。高校卒業のタイミングで制作されたので、大人ではないけど子どもでもない…そんな思春期特有の揺れ動く恋心を描いた内容になっています。
『旅立ちの日に…』とはまた違った卒業に関する記憶を思い出してもらえる楽曲なので、「卒業シーズンでMVを公開しよう」となって今回実現しました。
――待ち望んでいるファンも多そうですね。
そうですね。ファンではない人も知っている人は知っている曲なので、いろいろな意味で懐かしい気持ちになってもらえるとうれしいです。
取材・文/望月悠木 撮影/石垣星児
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