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スニーカーの王様がおにぎり屋に転身して1年…富を得ても所持する服は2着の本明秀文さんが「商売」のヒントを得る場所とは

集英社オンライン / 2024年2月29日 17時1分

日本のスニーカーブームを牽引してきた「アトモス(atmos)」の創業者であり、現在はおにぎり専門店「おにぎり まんま」を経営する本明秀文氏。なぜスニーカーの次におにぎりを選んだのか。多大な成功を収めながら服を2着しか着回さない理由とは。「ビジネス」よりも「商売」が好きという独自の審美眼や、ふだんのライフスタイルで意識していることを本人に聞いた。

熱狂的な“信者”がいないと商売が成り立ちづらくなっている

インタビュー当日、本明氏は大きな荷物を背負って現れた。

何が入っているのかを聞くと、「韓国の骨董市で仕入れた麻の布」だと言う。

「何でもかんでも物が売れる時代は終わり、今は『手に入りづらい物を売る』のが商売の鉄則です。ちなみに、この手織りの麻は韓国軍が北朝鮮に行って買ってくるような代物で、市場にほとんど出回らない“レアもの”。これを1つ1万円で仕入れて、欲しいという人に今から4万円で売りにいくんです」(本明氏、以下同)


うれしそうに布を広げて説明する本明氏

そんな本明氏がatmos退任後に手がけている「おにぎり まんま」のおにぎりは、仕込みに多大な時間がかかるため、提供できる量が限られている。にもかかわらず、新宿店はいつも長蛇の列ができている。

「『まんま』の一番人気のおにぎりは『卵黄×肉そぼろ』で、先月は月間6000個くらい売れました。それでも追いつかないくらい行列を作るお客さんが後を絶ちません。

私の商売におけるスタンスはおもしろいか否かですが、最近はお客さんの興味が細分化されていることもあって、『熱狂的なビリーバー(信者)』がいないと商売が成り立たなくなってきていると思います。その感覚はスニーカーを売っていても、おにぎりを握っていても変わらないわけです」

本明秀文氏

また、世の中の格差が一段と広がりつつある今、知識社会が顕著になっていると本明氏は説く。

「例えば、アメリカの半導体メーカー・NVIDIAは、なぜ時価総額を伸ばしているのか。そのすごさをわかっていないとビジネスで戦略を立てることもできないし、国籍関係なく努力しない人は落ちていく。世の中が急速に変わるなか、海外のことを知らなければ、どうにもならなくなる時代が来ていると言えるでしょう。

私は月に2回くらい海外に行くようにしています。家族がアメリカに住んでいるということもありますが、大学生の息子は『日本人やめる』と言っているんですよ(笑)。というのも、大学を休学して米軍に入隊したことで、アメリカの市民権がとれてしまうからです」

新聞、雑誌、書籍…あらゆる“活字”に触れて知識を得る

毎日3紙の新聞を読み、現代の社会情勢にアンテナを立てる一方で、本明氏は『平家物語』に今の世の中を重ね合わせ、自分がどう生きるかを考えているという。

平家物語の中で有名な一節である「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり」がお気に入りで、経済も動的で絶えず変化するものであり、いつの時代も「虚しさ」や「無常感」があることを言い表しているという。

「どれだけお金を稼いでも、いい生活がしたいわけではなく、『死ぬまでにどれだけ自分が満足できるか』ということを意識しながら、日々の生活を送っています。現在、私は55歳ですが、本当に自分の時間がないと思っていて。いつも本は2冊は欠かさず持ち歩き、移動中に読むようにしています」

取材時にカバンの中に入っていた書籍

さらに毎朝、新聞や経済誌に目を通すのを習慣づけているそうだ。日経新聞、朝日新聞、繊研新聞、週刊東洋経済、Foreign Affairs……。加えて、読書のジャンルも多岐にわたっている。社会学、人文学、歴史、小説、現代思想、文学、古典……。

いま好きな作家は岸政彦と柄谷行人。

ありとあらゆる本を読み、知識や教養を身につける。そして、実際に知識人や有識者と会った際に、自分の認識が正しいかの答え合わせをしているのだという。独自の審美眼を磨き、商売の勘どころを抑える。これこそ、“本明流商い”の基本なのだろう。

長年スニーカー業界に身を置き、直近では新著『スニーカー学 atmos創設者が振り返るシーンの栄枯盛衰』を刊行した本明氏だが、「次はハイブランドのスニーカー専門のセレクトショップが流行る」と見立てている。

「需要と供給の観点で考えると、企業価値は物の流通に比例し、どのくらい売れるかで価値が決まる。人と被らないのがファッションの醍醐味だとすると、ハイブランドがスポーツ分野に入ってきてもおかしくない。

ナイキのスニーカーは大量生産する分、ハイブランドよりは安い価格で市場に販売されます。その一方で、定価2万5000円のジョーダンをリセールで5万円で買うくらいなら、初めから生産量の少ない定価10万円ほどのハイブランドのスニーカーを買う選択肢のほうが賢いわけです。

また、最近では『ティファニー × ナイキ』や『アディダス × グッチ』といったコラボが大きな反響を呼び、スポーツとラグジュアリーの親和性が再認識されました。

ハイブランドもタウンユースだけではなく、スポーツとライフスタイルを融合したスニーカーを出せば、売れると理解しているはず。いずれ、どこかのブランドがその市場に乗り出すことは十分あり得るのではと考えています」

ムダな服は持たない、遊びにも行かない、限りある時間を大切に

atmosを一代で築き、大きな成功を収めて多大な資産を持つはずの本明氏だが、服は2着しか所持していないという。

「歳のせいもあって重たい服は着れないので、冬はノースフェイスのウインドブレーカーに、ウール素材のインナーを着ています」

これが定番スタイルで、靴下も2足しか持っていないとか。また、遊びにもほとんど興味がないと本明氏。

「仕事が遊びのような感じですよね。人と飲みにも行かないですし。1日のルーティンは早朝に起きて1時間ほど散歩した後に新聞を読みます。その後、午前中に打ち合わせや仕事を数本こなしてからジムへ行って汗を流し、帰宅後はご飯食べて、本を読むことが多いかな。

本当は人と会って、いろんな知識を教えてもらいたいけど、一日に何十人も会えないじゃないですか。だからまずは本から知識を得て、後で人から教えてもらうようにしているんです」

本明氏は、今のライフスタイルを45歳から約10年続けている。そのきっかけになったのが「母親の死」だという。肉親の死を目の当たりにしたときに、はっきりと輪郭をもった死生観が芽生え、「時間は有限」という感覚を大事にするようになった。

「昨年には親父も死んで、本当に人の一生は儚いというか。一日一日を大切に、遊んでいる場合じゃないと、余計に思うようになりましたね」

最後に本明氏が見据える今後の展望を聞いた。スニーカー屋からおにぎり屋に転身してから1年。目標は「ニューヨークへの出店」と「国内での地方展開」だと抱負を述べる。

「25年前にアメリカンレストランへ入ると、当時はバケットが出てきましたが、今はクロワッサンが主流です。つまり、先進国を中心に人口全体で歳をとってきて、柔らかくて体にやさしい食べものが求められているんです。海外で、日本のかつおだしや味噌、発酵食品といった日本食が注目されているのは、そうした流れがあるからなんです。

そのなかで、“おにぎりといえば〇〇”というブランドは海外にも日本にもまだありません。『おにぎり まんま』はそこを狙っていきたい。幸いにも、『おにぎり ぼんご』の店主である(右近)由美子さん直伝のレシピがあるので、海外では単価を上げて販売することも可能ですし、日本の地方では、その土地の豪族と組んでうまい形で出店を検討していきたいと考えています」

取材・文/古田島大介 撮影/集英社オンライン編集部

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