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80代にして中古でも老人ホームでもなく新築マンションを買う…母と私の合言葉は「将来売りづらくならないようにしないとだね」

集英社オンライン / 2024年3月3日 9時1分

ライフスタイルの大きな変化は、何がきっかけになるかわからない。「本当は商店街のそばで暮らしたい」そんな母の一言から、目に留まった小さなマンションとの出会い。実家売却、遺言書作り、家財道具を手放し、親子で目指した新たな暮らし方とは? 新しい老後の過ごし方を描くエッセイ『最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理』(集英社)より一部抜粋・再編集してお届けする。

#1

建設予定地を見てわずか一ヶ月で購入

9月、マンションの購入契約を結ぶため一ヶ月と開けず長崎に飛び、まだ見たこともないモデルルームを訪ねる。

初めてお会いする営業マンのMさんは、思った通り背が高く端正な顔立ちの好青年。「お電話いただいてからは、お母様の銀行行きに必ず私がご一緒してますから安心してください」と小声で言ってくれた。よく気がつく上、「調べておきます」と言ったことは間を置かず、すぐに丁寧なメールが返ってくる。



不動産営業にありがちな、契約したら顧客を部下まかせにする営業マンとは真逆の奇特な人だ。不動産や税の知識も相当あり、東京に来たら富裕層に引っ張りだこの営業マンになるだろう。

購入契約はMさん、契約担当の方と進める。母と私、それぞれがマンション購入契約書に捺印、サインをする。今回のマンションを販売する会社の創業者は母の同級生らしい。一緒に遊んでいたあの子がこんな立派な会社を作るなんてと、母はサインしながら感嘆している。

しびれを切らした父を、友人がコーヒーを飲みに連れ出してくれた。退場する父の後ろ姿に「お父さん、ありがとう」と手を合わせる。建設予定地を見てわずか一ヶ月で購入するのだ。局面は大きく変わろうとしている。

契約が終わり、初めてモデルルームを見た。両親はすでに何度も訪れているようで、どこに何があるかも熟知している。コンパクトながらも「ザ・新築マンション」のきらびやかさもあり、ここに親が暮らすのだと想像するだけで気持ちが沸き立った。

写真はイメージです

最新設備が苦手という二人は、食洗機は使わないだろうが、寒暖差がやわらぐ複合ガラスの窓や、洗濯を干したり、花を育てるに十分広いバルコニーがあり、やっぱり必要にして十分な住まいだと思った。

300㎡余の大きな家から60㎡少々のマンションへ。持参できる家具は10個くらいだろうか。2LDKのスペアルームともいうべき5畳間が意外に小さく気になったが、上階の角部屋だ。2面の窓からは遠くに山並みも望めるだろうし、開放感は十分だ。

新築マンションのメリット

小さな家の住み心地はヌケ感のある、なしで全く違ってくる。マンション購入者に聞いた「希望する間取りランキング」ではダントツ1位、半数近い人が「角住戸」と答え、第2位が専用ポーチとあった。(「スーモ」2023年4月11日号)ここはポーチこそないものの、角住戸のため人が玄関先を通ることもない。

モデルルームも見ないまま、母に勧めたマンションだったが、現段階では引っかかる点がなく何よりだ。こうなったら、一日も早く完成したマンションを見たい。

今回、新築マンションを選んだのは性能への期待も大きかった。これまでは中古物件をリフォームして、理想の家を作って暮らすことに腐心してきた私だった。リフォームの実録を何冊も本に書き、50代までは安くて自由度の高い中古物件が一番だと思ってきた。

だが歳を重ねるうちに別の考えも生まれた。親しい年上の友人が新築マンションに移り、何度も訪ねるうちに、抗えない性能の価値を実感したのだ。

外熱を通しにくい複層ガラスの窓は寒暖差が少なく、夏と冬はありがたさが身にしみた。冬は、ゆるい床暖房の微熱も逃がさず、部屋全体がほんわかと温かい。また、24時間換気で空気がよどみやすいトイレも洗面所もいつもクリーンである。

そんな経験から、部屋が狭くなっても、住宅の性能を上げるほうが高齢者にとっては快適に暮らせるはずだと思った。

また、なぜ購入するのかについては、高齢で借りられないことが大きい。そして老人ホームの高額な入所費用を支払うことを考えれば、月々の使用料もかからず、マンションという資産は残る。もちろん、置かれている環境や健康状態など人それぞれだから一概には言えないが。

写真はイメージです

契約を結び、実際のモデルルームも見た後、二人の暮らしに合わせ、変更工事のプランを作った。何度か修正をかけ、見積もりを取り直していく。

「あれ、その寝室のコンセントは、この前やっぱりいらないとキャンセルされましたよ」などとМさんが、こちらが何を変更したのか、忘れていることを正してくれる。毎日、書類の束と格闘している私としては、その度に救われるのであった。

リフォームした点

(変更工事の内容)

・リビングに床暖房を
冬場は床暖房だけで過ごしてきたし、エアコンの暖房は喉を痛めるため、床暖房を追加。

・作り付け食器棚
母はこれまでの古い食器棚を使いたがった。だが、サイズが合わず、壁の間に数センチの隙間ができる。デッドスペースはほこりの巣窟となるため食器棚を新設した。

・ガスコンロをIHに変更
これまでもIH調理器だったため同じ仕様にした。
・リビングと寝室を分かつ壁を3枚の引き戸にする
60㎡少々の住戸に開放感を持たせるため。引き戸を開ければ広々とした空間が生まれる。万が一、片方が寝込んでもリビングの人の気配に安心できる。

・母の身長(140㎝)に合わせて、クローゼットのバーやトイレの吊り戸などを低い位置に

手の届かない棚やハンガーパイプをすべて使いやすいように高さを低くした。

・コンセントの数を増やす
携帯充電器から湯沸かしポットなど、キッチン周辺は電気製品が密集する。火災の原因となるタコ足配線をさせないためにも追加。

・ピアノの防音工事
30年以上、ピアノの訪問レッスンを受けてきた母は、アップライトピアノだけは持っていきたいと希望していた。

マンションの上層階でピアノとなれば、防音室を作ることになるかと心配していたが、床の補強工事のみで大丈夫とのこと。費用も20万円程だった。あとは時間帯に配慮すればピアノを弾けるとの管理会社の回答に工事を依頼した。

追加工事のプランがまとまると、快適な住まいのカタチが見えてきた。

母と私の合言葉は「将来売りづらくならないようにしないとだね」だった。両親の年齢を考えると、まずはこの先10年間を快適に暮らすための家づくりだ。使い勝手を良くすると同時に「売却する時のこと」も充分考えなければいけない。

最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理

井形 慶子

2024年2月26日発売

1,870円(税込)

四六判/256ページ

ISBN:

978-4-08-781749-2

人生の大きな変化は、何がきっかけになるかわからない。
「本当は商店街のそばで暮らしたい」
母の一言から小さなマンションに出会った。

実家売却、遺言書作り、家財道具を手放し
親子で目指した、新たな暮らし方とは?
感動の日々を描くエッセイ。

『年34日だけの洋品店』に続く50代からの生き方を綴る第二弾!

<本文より>
この歳で住み替えて本当に良いのだろうか、心は揺れたが、
これから二人が助け合って生活するにはマンションの方がいい。
今の場所で頑張り続けるより「無理をやめる」決断をする方が
どれだけ難しく、前向きなことか。

<もくじより>
1 親の老いに気づくとき
2 最後に住みたい商店街の町
3 80代でマンションを買う
4 待ったなしの遺言書作り
5 親の思いと子の現実
6「住みたい家」と「売れる家」
7 目標6ヶ月で実家売却
8 住み替えの不安を払拭するために
9 何でも売ってみる「家じまい」
10 一週間でお片付け
11 必要最低限の整理しやすくくつろげる家
12 2LKDの新しい家

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