食後の眠気は病気のサイン? バランスがよいとされる日本人の食事が「糖質過多でタンパク質不足」である落とし穴
集英社オンライン / 2024年3月13日 11時1分
ランチの後、しばらくすると「眠くなる」「だるくなる」。あるいは十分に食べたはずなのにすぐに小腹が減る、集中力が途切れる、イライラする――。北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長の山田悟医師は、こうした体調不良を「糖質疲労」と名づけている。今、日本人の間で増えているこの症状の正体とは。山田氏の新著『糖質疲労』より一部抜粋、再構成してお届けする。
「手軽でおいしい」食事は糖質に偏りがち
現代社会はタイパ(タイムパフォーマンス)という言葉が生まれるほど、多くの人が最小の時間で最大のメリットを求めようとしています。それは、多くの人が多忙で、時間的なゆとりがなくなっていることの証左だと思っています。
結果として、朝食ぬきや早食いが習慣になっているという人が多くなっているように思います。
こうした食生活は、朝食でのたんぱく質・脂質摂取による血糖値上昇ブレーキをなくしているため、ランチ後の食後高血糖を起こしやすくしています。
また、それとは別に、女性によくみられるパターンとして、やせることを目的に、通常の食事を軽くしようとして、かえって間食が多くなり、間食によって糖質を過食ぎみという方が多くいらっしゃるように感じています。
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実際、間食として手軽に食べられる食品は、多くが糖質中心の食品です。常温で保管できるおいしいものばかりを求めていると意図せぬうちに糖質過多になってしまうのかもしれません。たんぱく質や脂質の多い食品は冷蔵庫でないと保存しにくい食品が多い一方で、糖質中心の食品は常温で保存しやすいものが多いのです。
タイパやダイエットを意識して間食が多くなると、おのずと糖質摂取が増えやすいということはご認識いただきたく思います。
また、「バランスのよい食事」と称して、糖質過多の食事が推奨されているという現実があります。
一般的に「バランスのよい食事」というフレーズがあり、何らかの三大栄養素比率(たんぱく質:脂質:炭水化物でPFCバランスなどとも言います)によって万人の健康が増進されるかのように言われがちです。
たとえば日本では、日本人の食事摂取基準(2020年版)に「炭水化物50〜65%、脂質20〜30%、たんぱく質13〜20%」がよいバランスであるかのように記載されています。しかし、これは本当なのでしょうか?
実は、欧米のガイドラインでは、万人にとってベストの栄養素比率は存在しないと明記されています。
食事摂取基準は「いい加減」に決められていた
では、どんな理由で日本人の食事摂取基準のバランスが決定されているのかを確認すると、これが非常に「いい加減に」取り決められたものだということがわかります。
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日本人の食事摂取基準における三大栄養素比率においては、最初にたんぱく質が設定されています。体内で合成できないアミノ酸(必須アミノ酸)が不足しないように下限(13%)が決まり、上限については根拠なく20%としています。
これは、たんぱく質比率が35%までは問題はなかったという2018年の論文を引用しつつ、たんぱく質比率20%以上は安全面での今後の検討課題であるという2013年の論文を引用して20%を上限と定めているのです。
2013年時点での検討課題を検討し、その結果として2018年に35%でも問題がないと回答されているはずなのに、2013年の検討課題をそのまま採用し続けていることになります。
次に定められているのが脂質です。まずは、飽和脂肪酸摂取を7%以下にすることを考慮して、それによって脂質全体の上限もおのずと決定されるという理由で30%を設定しています。また、必須脂肪酸が不足しないよう下限(20%)が決まりました。
飽和脂肪酸摂取を7%以下にすることには目的も、その根拠もありません。飽和脂肪酸を制限してかえって動脈硬化症が増えたという論文があるからです。
さらに、飽和脂肪酸摂取を7%以下にするためには脂質全体が30%以下にならなければならないという根拠も存在しません。
オリーブオイルをふんだんにかけるのであれば、脂質全体の比率は上昇し、飽和脂肪酸の比率は低下していくでしょう。オリーブオイルには飽和脂肪酸が含まれておらず、一価不飽和脂肪酸だけで構成されているからです。
最後に、炭水化物は全体の「100%」から、「たんぱく質」「脂質」を引いた、50〜65%とされています。その理由として、炭水化物摂取が過剰で問題になるのは糖尿病だけであろうから、「100%-たんぱく質-脂質」で決めるとの記載があるのです。
しかし、炭水化物摂取が過剰で問題になる、すなわち、糖質摂取で食後高血糖が問題となるのは糖尿病だけではありません。
当然のこととして、糖尿病のみならず、明確な糖尿病予備軍(ここでは空腹時血糖異常を指します)も、糖質疲労を感じている人も(ここでは健診における空腹時血糖異常はないものの、食後血糖値が140㎎/㎗を超えている人を指します)、炭水化物(糖質)を控えめにすべきであって、炭水化物比率50〜65%であっていいはずがないのは、この比率の設定理由からも明らかだと思います。
日本人は世界的に見て「たんぱく質不足・糖質過多」
米国では1970年頃の(卵とバターを控えましょうなどとTIME誌[45]に言われる前の)炭水化物の平均的な摂取比率が40%であったそうです。
日本人が、栄養のいい食事として刷り込まれ、妄信しがちな「炭水化物50〜65%、脂質20〜30%、たんぱく質13〜20%」という比率は、世界的に見て糖質過多であり、このことが日本人での糖質疲労を招いている原因の1つと言えるかもしれません。
ちなみに、現在、日本人(成人)は平均的に1食あたり90〜100g、1日あたり270〜300gもの糖質をとっています。糖質かぶせランチの習慣のある人は、もっと摂取量が多いかもしれません。
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米国の糖尿病学会が定めた糖質制限食の定義は1日、130g以下です。ロカボのルールも同じで、糖質摂取量の上限を1日、130gと設定しています。
現在の日本人の平均摂取量はその倍くらいということになります。
糖質疲労の症状が出ているなら、「糖質過多かもしれない」という視点で、自分が摂取している糖質量を気にかけることが、症状改善のはじめの一歩になるでしょう。
ちなみに、国民健康・栄養調査のデータでは、飽食の時代と言われて久しいにもかかわらず、日本人のたんぱく質の摂取量は少なく、2000年頃から低下し、1950年代の水準まで下がっているとされています。
もちろん、かつての飢餓の時代には過剰申告、いまの飽食の時代にあっては過少申告の可能性はありますが、もっと、日本人がたんぱく質(や脂質)の摂取を心掛けるべきであることは間違いないでしょう。
文/山田悟
写真/shutterstock
糖質疲労
山田 悟
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2024/03/07084522827203/400/cover.jpg)
2024/3/7
1,540円
192ページ
978-4763141217
食後の「眠い」「だるい」「食べ足りない」「集中力が下がる」は、「糖質疲労」かも!
糖質過多が「疲れ」と「病気」と「老化」を生む。
糖尿病専門医が教える「内臓を長持ちさせる」方法とは?
糖尿病だけじゃない。だるさ、老け顔、皮膚炎、腎炎、腎臓病、自己免疫疾患、痛風、脂肪肝……
それ、「糖質疲労」が引き起こしています。
こんな「健康神話」信じてませんか?
朝のリンゴは医者いらずである
朝はシリアル+低脂肪ヨーグルト+ハチミツが定番
目覚まし&美肌のために朝はスムージー
夜は腸内環境のための乳酸菌飲料
疲れたらエナジードリンク
ファスティングのあとの酵素ジュース
熱中症予防のスポーツ飲料
健診結果を聞いてからは「ランチはおにぎり&野菜ジュース」
そばならOK
ストレス解消・脳疲労回復・ごほうびには甘いもの
子どものころから「三角食べ」
……これ、「糖質疲労」を招く、間違った食べ方です。
油とタンパク質をしっかりとって、「ごはんだけ少なめ」にする。
そんな、ゆるい糖質制限をするだけで、あなたの健康と日々のパフォーマンスは激変します。
最新の医学情報、エビデンスを元にした「病気と糖の関係」と
「健康になる食べ方」をお届けする一冊です。
(もくじより)
・「朝食にフルーツ」はやってはいけない食べ方だった
・「そばならOK」は誤解だった
・ヘルシーの代名詞「サラダチキン」の落とし穴
・美容ドリンクを飲めば飲むほど「老けて」いく!?
・「満腹中枢」を正常に戻すには、たんぱく質と脂質を「お腹いっぱい」食べなさい
・「マヨネーズ」を加えると血糖値が劇的に上がりにくくなった!
・「病気」までのカウントダウンは「あと10年もない」!?
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