「モデルとして売れなかったから麻雀プロになった」Mリーガーになった岡田紗佳を苦しめたSNSでの誹謗中傷。「実力がないのに、モデルだからプロになれた」とも言われて…
集英社オンライン / 2024年3月17日 11時1分
麻雀のプロリーグ、Mリーグの『KADOKAWAサクラナイツ』の一員として活躍する岡田紗佳さん。数多くの番組に引っ張りだこの彼女だが、Mリーガーになった2017年当時には心ないSNSの誹謗中傷に心を痛めたこともあるそうだ。彼女の葛藤の記録をフォトエッセイ『おかぴーす!』より一部抜粋・再構成してお届けする。
モデルであることが、
麻雀業界でプラスとは限らなかった
芸能界は、競争の激しい世界です。そうした環境に長く身を置いていたからか、競い合う麻雀の世界も自分の性に合っており、だからこそ熱心に勉強にも取り組めたと思います。
しかし、一方で世間からの目は冷ややかでした。「モデルとして売れなかったから麻雀プロになった」、その逆で「モデル活動のために麻雀を利用している」など、心ない声が絶えなかったのです。
また、私を悩ませたのは世間の声だけではありませんでした。麻雀業界の中にも「実力がないのに、モデルだからプロになれた」「芸能人だから優遇されている」などと揶揄する人が一定数いたからです。業界の内外の板挟みになり、つらい思いをしました。
「麻雀プロを売れる道具として使うなよ」と思われても仕方がないと思っていました。
しかし、何度も言うように、当時の麻雀のイメージは決していいものではなく、モデルの仕事につながるようなキャラ付けにはなり得ません。芸能活動のマイナスになることもありますし、まさかモデルであることが麻雀界でマイナスになるなんて、思ってもいませんでした。
正直、ある時は「やっぱり世間のイメージ通り、麻雀業界って暗くて陰湿なんだな」とさえ、思ったことがあります。
少しずつ良くはなってきていますが、それでもいまだに芸能人というだけで色眼鏡で見られて、SNSやABEMAのコメント欄でひどい書き込みをされることがあります。
今でこそメンタルが鍛えらえて、誹謗中傷もかなりスルーできるようにはなってきました。しかし、今だから言えますが、以前は精神的にふさぎこんでしまったこともあります。
もちろん、麻雀の内容で修正できるところをすぐに修正することは大切です。それと並行して、まずは自分が何を求められているかを知り、その役回りをまっとうすることも同じくらい大切です。
また、麻雀プロには、麻雀の追究だけでなく、麻雀の楽しさをファンの方に知っていただくという、いわば広告塔としての役割もあります。
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特に私に求められていると感じたのは、いかに麻雀やMリーグに取り組む姿勢を見せることができるか。そして、どれだけ不細工でもいいから勝った姿をファンのみなさまに届けること。このふたつだったと思います。
なんだか堅苦しいお話をしてしまいましたが、これは私自身の体験から得た、ひとつの学びです。私がなぜこのような境地に至ったのか。このあと詳しくお話ししていきますね。
Mリーグ1年目の目標は、
「チームに迷惑をかけないこと」
2018年7月。私の運命を変えた、Mリーグが発足しました。
そのとき、私はまだプロ1年目。芸能人という偏見に悩まされながらも、必死に麻雀を勉強していたときです。新たな麻雀プロの大舞台に胸をときめかせて、ひとりのファンとしてMリーガーの雄姿を全試合見届けていました。
そして、その翌年。KADOKAWAサクラナイツが新規参入を表明。
ドラフトの結果は、みなさんご存じの通りです。
そう、うれし涙を流しました。
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涙を流したのは、MCの張敏賢*さんが、「岡田さんは人気だけではなく実力もある。対局を重ねて、どんどん成長していく姿に努力を感じる」というようなコメントをしてくれたことが身に沁みて嬉しかったから。
だって、まだプロ2年目ですから。実力や経験においては、まったく足りていません。指名を受けたときも、「岡田は戦えない」というコメントをたくさんいただきました。「見返してやりたい!」という気持ちもある一方で、「そうだよね」と自分でも納得してしまった部分があります。
チームメートになったのは沢崎誠*さんと、内川幸太郎*さん。お二人とも連盟の大先輩です。そんな中にプロ2年目のペーペーが混じって、Mリーグという大舞台で戦わないといけない。その重責は、計り知れないものでした。
そこで、私が掲げた目標は、「とにかくチームに迷惑をかけないこと」。
つまり、「ラスを引かないこと」でした。
勝ってプラスを届けるのではなく、ラスを引いて私がチームの足を引っ張ってはいけない。勝ちたいより、負けたくないという気持ちです。
しかし、そう思えば思うほど、打牌*は必要以上に消極的になりました。押すべき局面で押すことができず、加点のチャンスをみすみす取りこぼしては、じり貧になっていく。そんな、負のスパイラルに陥ってしまったんです。
そもそも、麻雀というゲームの性質上、ラスを引かないなんて不可能。そんな不可能を目標に掲げ、それが達成できずに焦る。プレッシャーで体重は激減し、出場第4戦目ではじめてトップを取れたときには、自然と涙があふれるほどでした。
同じ年に、同じくプロ入り2年目で赤坂ドリブンズに加入したまるこ(丸山奏子*さん)と、あるとき、こんな話をしたことがあります。
「相手からリーチが入ったら、すごく嬉しいよね」
普通、リーチを受けて喜ぶ麻雀プロなんて、ひとりもいません。しかし、みんなヤミテン*をしているんじゃないかと疑心暗鬼になり、見えない何かに怯えながら麻雀を打っていた私たちにとって、相手からリーチが入ることは、むしろ大義名分を持って降りることができる安心要素でした。
「岡田は戦えない」という下馬評を覆したい。しかし、いざ対局になるとプレッシャーで縮こまってしまう。やっていることもめちゃくちゃだし、感情もちぐはぐ。もう、どうしたらいいのかわからなくなっていました。
Mリーグがつらい、辞めたい。何度そう思ったか!! そんなときに、私はある痛恨のミスを犯したんです。
まさかの同点トップも、
みなさんの言葉に救われた
Mリーグ20日目、第2戦。今でも思い出したくないそのミスは、この対局のオーラス1本場に起こりました。
私は、2着目の小林剛*さんと1万7600点差のトップ目。剛さんに8000点を放銃*しても、1本場*の300点を足して1万6600点しか縮まりません。つまり、「1000点差でトップが取れる」状況でした。
しかし、その道中にラス目の魚谷侑未*さんからリーチがかかり、リーチ棒1000点を場に出します。「剛さんに8000点を打っても大丈夫」。そう思い込んでいた私は、安全な牌があるのにもかかわらず、剛さんに8000点を放銃。リーチ棒の1000点分が上乗せされて、まさかの同点トップになりました。
このとき、卓上で「違うか、間違えちゃった」とつぶやいたそうですが、気が動転して頭が真っ白になっていた私には、そのときの記憶がほとんどありません。それどころか、対局後インタビューの直後に過呼吸を起こして、体が動かなくなってしまったのです。その後に予定されていたLINEライブも、出席できませんでした。
「同点でもトップだからいいじゃん」「勘違いは誰にでもある」。そう思われるかもしれませんが、それまでの2か月間で追い詰められていた私は、その出来事によって、張りつめていた糸がプツンと切れたような感覚になりました。
そんなとき、手を差し伸べてくれたのは、同卓者のみなさんやチームメイト、そして連盟の先輩方でした。
3着・4着だったにもかかわらず、気が動転している私に「大丈夫だよ」と優しい言葉をかけてくれた黒沢咲*さんと魚谷さん。
「プロはミスを見せるのが仕事だ」と気づかせてくれたうえに、「ぼくも昔、赤五筒を切っているのに、五筒でロンって言ってチョンボ*したことがあるよ」と自身のミスをユーモア交じりに語ってくれた剛さん。
非難せずに笑って迎え入れてくれて、「ゆっくり休んでいいよ」と言ってくれた沢崎さん、内川さん。そのほかにも、連盟の先輩方からたくさんの温かい言葉をかけていただきました。
「裏ではいくらでも落ちこんでいい。でも、カメラの前では絶対に下を向くな。見ている人を心配にさせちゃいけない。機械でも、わけのわからないフリーズするんだから、自分のミスをあまり責めすぎるな」
萩原聖人*さんがかけてくれた言葉は、今でも忘れられません。
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また、とある対局の解説で、藤崎智*さんが「麻雀はメンタル。自分自身との戦い」とおっしゃっているのを聞いて、ハッとさせられました。解説のなかでのふとした言葉ですが、そのときの私には深く心に響いたんです。「技術の向上だけでなく、感情のコントロールも麻雀プロにとって必要なスキルなんだ」。そう気づかせていただきました。
今、こうして精神が安定して麻雀プロを続けられているのは、たくさんの方たちの支えがあったからです。みなさんが私にかけてくれた言葉は、当のご本人が覚えていなくても、私はずっと覚えています。
この先、もしも誰かのミスによってどれだけ大きな損失をこうむろうと、私がしてもらったように、優しく声をかけられる人になりたい。心から、そう思いました。
*張敏賢
かつて最高位戦日本プロ麻雀協会に所属していた麻雀プロ。2018年からMリーグの公式審判を務めている。
*沢崎誠
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。Mリーグでは、2019~2022年までKADOKAWAサクラナイツに所属。その老練なテクニックから「マムシ」の愛称で親しまれる。
*内川幸太郎
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。「手順マエストロ」という異名を持つ。MリーグではKADOKAWAサクラナイツに所属し、現在はリーダー的な立ち位置。
*打牌
ツモを行った後に、持っている牌から1枚を捨てる(手放す)こと。
*丸山奏子
最高位戦日本プロ麻雀協会所属の麻雀プロ。かつてMリーグ・赤坂ドリブンズに所属していた。「まるこ」の愛称で親しまれ、岡田さんとも仲良し。
*ヤミテン
闇聴。メンゼンでテンパイしている状態でリーチせずに黙っている状態を指す麻雀用語。ダマテン(黙聴)とも言う。
*小林剛
麻将連合-μ-に所属している麻雀プロ。Mリーグでは、U-NEXT Pirates所属。対局中は感情をほとんど表に出さないことから、「ロボ」と言われることも。
*放銃
自分の打牌により他のプレイヤーがロンアガりすること。
*一本場
場に積まれている「積み棒」を表す単位ですのこと。親が連続でアガったり、流局すると本場数が増える。ルールによって違うが、Mリーグでは積み棒1本あたり300点が加点される。
*魚谷侑未
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。Mリーグではセガサミーフェニックスに所属している。数多くのタイトルを持つ、女流プロ屈指の実力者。
*黒沢咲
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。MリーグではTEAMRAIDEN/雷電に所属している。その優雅な風貌や、低い打点に目もくれず高い打点を目指す戦法から「セレブ」と呼ばれている。
*チョンボ
麻雀における反則行為全般のこと。
*萩原聖人
俳優。日本プロ麻雀連盟に所属する麻雀プロでもある。Mリーグでは、TEAM RAIDEN/雷電に所属している。Mリーグでの愛称は「雪原の求道者」「リアルアカギ」。
*藤崎智
日本プロ麻雀連盟に所属する麻雀プロ。元KONAMI麻雀格闘倶楽部所属。ヤミテンを多用することから「忍者」という愛称が知られている。
写真/書籍『岡田紗佳 1stフォトエッセイ おかぴーす!』より
岡田紗佳 1stフォトエッセイ おかぴーす!(KADOKAWA)
岡田紗佳
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2024/03/11054105171886/400/1.jpg)
2024/2/20
2,200円
192ページ
978-4048976985
岡田紗佳のフォトエッセイが初解禁!文章と写真がせめぎ合う攻防戦!Mリーグ、芸能界で闘い続けるプロ雀士岡田紗佳の“20代の記録と記憶”。
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