SNSでの社会的弱者バッシングが横行する4つの理由…「自分よりダメな人を叩けば“溜飲”が下がりますか?」
集英社オンライン / 2024年3月14日 17時1分
“優しい人”について精神科医の視点から説いた新刊『なぜか人生がうまくいく「優しい人」の科学』。社会的弱者バッシングなどが横行するようなギスギスした社会ではどう生き抜けばいいのか? 書籍より一部抜粋、再編集してお届けする。
自分の心の中にある「歪み」 の存在を知る
現在の日本は、長引く不況や経済格差の拡大などによって、社会全体がギスギスしている状態にあります。
「自分が生活するだけで手一杯」という人が増えたことで、 周囲の人たちに気を配るだけの精神的な余裕がどんどん失われているように感じます。
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私が最も関心を寄せているのは、不景気が長く続いたことによって、格差社会の「歪み(ひずみ)」が急速に広がっていることです。
その象徴といえるのが、「生活保護バッシング」や「精神障害者差別」など、いわゆる社会的弱者に対する「理由なき攻撃」です。
大地震や集中豪雨の被害者には深く同情できる人たちが、生活保護を受けている人や、精神障害がある人には、厳しい批判の目を向けているのです。
こうした現象の背景には、無記名、無責任に自分の意見を発信できるSNSの普及が大きく関係していますが、精神科医としては、「なぜ、人はこんな行動をしてしまうのか?」という心の問題に注目しています。
優しい人であるためには、自分の心の中にある「歪み」の存在を認識して、それを修正する必要があります。
「社会的弱者バッシング」が横行する四つの理由
インターネット上には、生活保護バッシングや精神障害者差別など、社会的弱者に対する過激な批判が氾濫しています。
本来であれば、社会的弱者は、地域社会全体で優しく庇護すべき対象です。温かい目で見守ることはあっても、目に余るような罵詈雑言を浴びせるような相手ではないはずです。
なぜ、こんな現象が横行しているのでしょうか? その背景には、次のような四つの理由をあげることができます。
【理由①】自分よりダメな人を叩いて「溜飲」を下げている
一番の理由は、自分よりダメだなと思う人を見つけて、それを罵倒することで「憂さ晴らし」をしているのです。
「自分の方がマシだな」と感じることで、ささやかな優越感を持つことができれば、その瞬間だけでも、自分の置かれた苦しい状況を忘れることができます。
生活保護バッシングには、国から生活費を支給されることに対する嫉妬も多分に含まれています。
「アイツより自分の方がマシだな」という発想をしていると、 人との比較でしか自分
のことが考えられなくなり、つねに自分より下の人を探し続けることになります。
延々とバッシングが繰り返される原因は、そこにあります。
人との比較で溜飲を下げる行為は、自分を「みじめ」にするだけです。
みじめな思いをしているから、自分のバッシングが余計に過激化している……ということに、早く気づく必要があります。
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【理由②】弱者に対する「想像力」が欠けている
名前も顔も知らない社会的弱者を、平気で叩けるというのは、相手に対する想像力が決定的に欠けていることも大きな原因です。
「能力的に劣っているからだろう」と自分勝手に結論づけて、 社会的弱者が抱える事情までは考えが及んでいないのです。
社会的弱者には、それぞれ異なった事情があります。
病気やケガで仕事が続けられず、仕方なく生活保護を受けている人もいれば、貯蓄がないために生活が破綻してしまった高齢者もいます。
それを一括りにして、「どうぜダメなヤツなんだろう」と決めつけて一斉にバッシングするのは、相手に対する想像力が欠如している証拠です。
「自分こそ正論」という考えが他者を傷つける
【理由③】すべてが「他人事」で「自業自得」と考えている
15年ほど前に、日本中で「自己責任論」なるものが流行したことがありますが、その考え方は、今でも日本人の心の中に根強く残っています。
心の病が原因で生活保護を受けている人は、「自業自得」であり、 「自分はそんなことにはならない」と勝手に思い込んで、すべてを「他人事」と考えている人が多いように思います。
仕事が忙しくて体調を壊したり、上司のパワハラによって心の病を患うことは、誰にでも起こる可能性があります。
何の根拠もなく、 「自分だけは平気」とか、 「自分だけは特別」と考えているから、見ず知らずの社会的弱者を、上から目線で叩くことができるのです。
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【理由④】自分の意見こそが「正論」だと思っている
SNS上で他人を誹謗中傷している人の多くは、自分の考え方こそが「正論」であり、「世間のバカな連中は、なぜこんなことが理解できないのだろう?」という思いから、容赦のないコメントを投稿しています。
自分の意見だけが正しいと思い込み、世の中には多種多様な考え方があり、人の生き方は千差万別……ということが理解できていないのです。
最近では、SNSでコメントを投稿する際に、「この意見は誹謗中傷にあたるため、名誉毀損の可能性があります」という警告が表示される機能が普及しています。
その警告を見て、初めて自分の意見が正論ではなく、単なる誹謗中傷だと気づく人が増えているといいます。
人との比較で自分を考えたり、自分より下の人を見つけて溜飲を下げる行為は、自分のマインドをマイナスに向かわせます。
こうした発想を続けていても、自分の生活が豊かになることも、人生が楽しくなる
こともありません。
相手が得をして、自分が損をしたら負け……という考え方を、心理学では「勝ち負け思考」といいますが、勝ち負けや損得勘定で物ごとを判断していると、次第に自分を見失うことになります。
こうした考え方や発想は、一刻も早く改めることが大切です。
文/和田秀樹 画像/shutterstock
『なぜか人生がうまくいく「優しい人」の科学』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))
和田秀樹 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2024/03/11065911784942/400/yasa.jpg)
2024/2/2
1,628円
208ページ
978-4295409328
【発売から1週間で重版決定!】毎日を明るい気持ちで、機嫌よく、前向きに過ごすためのヒントをまとめた1冊!
▼人に優しくできれば、人生が回り始める
あなたは、自分のことを「優しい人」だと思いますか?
こう質問されて、「はい」と即答できる人は、それほど多くないはずです。
ほとんどの人が、「人には優しくありたい」と思っていても、日ごろの言動を冷静に振り返ってみると、意外に優しくない自分に気づくのではないでしょうか。
人に優しくする際には、さまざまな心理や感情が働いています。相手に対する「思いやり」や「好意」の気持ちだけでなく、「打算」や「自己防衛」といった損得勘定が働いていることもあります。
相手に嫌われたくないと思って、表面的な言葉で取り繕う優しさもあれば、嫌われることを覚悟で進言する優しさもあります。
価値観や考え方が多様化した現代社会では、何が本当の優しさなのか、ハッキリと明確にはわからないような状況になっています。
人に優しくするというのは、意外と複雑で、思い通りにいかないものです。
人に優しくすると、自分の気持も良くなることで、脳内にセロトニンやオキシトシン、ドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されて、心身にいい影響が生まれることが科学的に明らかになっていますが、毎日の生活にもさまざまな好循環をもたらしてくれます。
しかし、私たちの生活には、人に優しくなれない要素がたくさんあります。
物価高、上がらない給料、度重なる増税などによって、世の中全体がギスギスとしていますから、どうしても自分のことだけを優先して考えるようになり、周囲の人を慮るような精神的なゆとりを見失いがちです。
こんな時代だからこそ、「優しさとは何か?」を考えることで、その意味と意義を改めて見つめ直す必要があると感じています。
人に優しくできれば、人からも優しくしてもらえます。
優しい人に囲まれると、たくさんのいいことがあります。
たくさんのいいことがあると、人生がうまく回り始めます。
人生がうまく回り始めれば、もっと人に優しくすることができます。
この本をお読みいただいて、毎日を明るい気持ちで、機嫌よく、前向きに過ごすためのヒントを見つけてほしいと思います。
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