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言語学者が明かす、敬語が過剰化するカラクリ。実は今こそ“カジュアル敬語”がおすすめッス⁉︎

集英社オンライン / 2022年6月5日 13時1分

社会人になれば敬語を使う機会が一気に増える。新入社員たちは、戸惑いながらも少し慣れてきた頃だろうか。学生気分で「行きます」と言えば、「違う!『伺います』だろう」と注意され、「していただきたいと存じ上げております」と言ったなら、「敬語の重複は間違いだ」とたしなめられる。はて、正しい敬語っていったい?

画像/shutterstock

“基準の敬語”を話すのはいつの時代も30代女性

敬語の使い方は、時代や相手との関係性によって常に変化する。しかし、実はいつの時代にも敬語表現の基準となる層が存在するのだという。東京外国語大学名誉教授で社会言語学を専門とする、井上史雄氏が話す。

「文化庁が毎年、国語に関する世論調査を実施しています。その結果を長年にわたって見てきましたが、一部例外を除き、どの時代も基準となっているのは30代女性が使う敬語です。社会人経験を積んだ上に、出産してママ友同士の付き合いを始めるとさらに丁寧な表現を身に着けることになります。敬語には、相手への敬意を表すだけでなく、自身の育ちの良さを相手に示す効果もあるからです。



例えば、『実家は世田谷区の成城で……』とか『夫は一部上場企業のどこそこに勤めていて』などと社会階層を具体的に伝えると角が立つ。しかし、何気ない日常会話の中で丁寧な言葉遣いをしていれば、教養がある、上品である、暮らしぶりがいいといった印象を与えます。相手が丁寧ならば、自分も丁寧に。そうして敬語がどんどん発達していく。お愛想、お靴、お手提げ袋など『お』を付ける傾向も強く、昨今ではどの世代も言う『させていただきます』もさらりと使っています」(井上氏)

一方、10代であえて乱暴な言葉遣いを好んでいた男性の多くは、高校や大学を卒業し、社会人になると一転して丁寧な敬語を使う。

「もともと日本語には男女差があり、社会がそれを当たり前のこととして受け入れてきました。例えば、命令形は男性が目下の男性に対して使うことが最も多い。かつては、家庭内で夫が妻に対して使うこともありました。しかし、女性が命令形でものを言うことは少ないのです。また男性より女性のほうが丁寧な話し方をするのも当然だと思われてきました。しかし、ここにきて言葉遣いにおける男女差がなくなってきています。特に新入社員の世代では、男女の区別なく、丁寧で柔らかい印象の日本語を話す傾向が強くなってきています」

世代間ギャップを生む「敬意逓減の法則」とは?

30代女性の敬語がより丁寧になり、これを受けてさらに20代女性も同じような表現を身に着ける。影響を受けた同年代の男性も似たような言葉遣いをする。かくして、20〜30代の若い世代ほど、より丁寧な敬語表現を使う傾向が強くなっていく。

しかし、「させていただいてもよろしかったでしょうか」というような敬語を使われた年配者は違和感を覚える。世代間ギャップはなぜ生まれるのだろうか。

「同じ敬語表現をずっと使っていると、やがて言う側、言われる側、どちらもその丁寧さに慣れてしまい、敬意が薄くなったように感じてしまうんです。これを『敬意逓減(ていげん)の法則』といいます。その結果、新たにもっと丁寧な敬語が生まれる。『していただけますか』→『していただいてよろしいですか』→『していただいてよろしかったですか』→『していただいてよろしかったでしょうか』と言葉を重ねていく。こうして敬語は時代を経るごとにより長く、丁寧になっていくのです」

若い世代は「失礼があってはならない」「きちんと敬意を表さないと」という思いで二重、三重の敬語表現を使う。しかし、年配者は自らが若いときに覚えた敬語が基準となっているため、「過剰な表現だ」「日本語としておかしい」と感じてしまう。

「敬語に慣れない若者は、まずは間違ってもいいからできるだけ丁寧に話そうと心掛けることです。二重敬語になったり、尊敬語と謙譲語が使い分けられなかったりしても気にしない。『敬意逓減の法則』を考えると、世代間の溝はなかなか埋められません。でも、正しい敬語より大切なことがあります。それは敬意。その思いさえあれば、たとえ間違いを指摘されることはあっても、怒られることはそうそうありません。生まれたての赤ん坊が日本語を覚えるようなもので、いったん社会に出ればまっさらな状態からどんどん習得していくのが敬語というものです」

画像/photo AC

今こそ“カジュアル敬語”のススメ

最近では、就職氷河期世代の正社員採用や転職の増加もあり、会社で年上の部下や年下の上司など社歴と年齢が比例しないケースが増えている。そのため、これまでの敬語も必然的に変わらざるを得ない状況だという。

「丁寧過ぎる敬語を使い続けると、年上の部下は自尊心が傷つくし、年下の上司もなんだか気まずい。そんなときに意外と汎用性があるのが、『わかったッス』『いいッスよ』といったカジュアル敬語。本来ならば、『です』『ます』と言うべきところを崩した表現で、1960年代に関西で誕生したという説が有力です。東京では野球や柔道など部活動を通じて広まったとされ、後輩敬語や体育会敬語とも言われます。これらを正しい敬語ではないと思う人もまだまだ多いですが、こうしたカジュアル敬語には、一定の敬意を込めて相手を立てながら、同時に心理的距離を近づけるという効果があります」

従来の敬語は、十分な敬意を相手に伝えられはするが、相手と一定の距離を置くという副作用もあるそうだ。しかし、カジュアル敬語は敬語とタメ口のいいとこどり。

「商談相手、取引先にこそ使えませんが、目上、目下という立場があいまいになりつつある社会の中で、上手に使いこなすことができれば、職場でよりよい対人関係を築くことができるのではないかと考えています」

埋めてみせよう、世代間ギャップ

一方で、敬語を使われる年長者や上司が気をつけるべき点とは。

「敬語が“進化”し、日本語全体がさらに丁寧になってきた昨今、若い世代は年配者の端的なもの言いや軽い命令口調をキツい言い方だと捉える傾向にあります。年長者は、これまで自分たちが正しいと信じてきた日本語の使い方、敬語表現こそ時代に適っていないのかもしれないと相手の立場を考えることも大切です。若者の敬語に違和感を覚えても、世の中の変化に合わせた敬語を使おうとしているのだと思えば、多目に見てあげられるはず。とはいえ、そういって素直に受け入れられる年配者がどれだけいるかはわかりませんが(笑)」

敬語は時代と共に変わるもの。上の世代が正しいと思う敬語が今の時代にそぐうとは限らない。迷うより慣れろ。そして上司にも慣れさせろ。それがおすすめッス⁉︎

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