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50万円の高級品からオーダーメイドまで マニアがハマる「イヤホン沼」

集英社オンライン / 2022年6月8日 10時1分

コロナ禍での巣ごもり消費のなかで、販売が好調だった製品のひとつが高級オーディオ関連製品だった。なかでも高級イヤホンなど、ニッチで個性的な製品に人気が集まった。東京・秋葉原にある巨大な専門店で、人気製品について取材した。

東京・秋葉原にある「e☆イヤホン」秋葉原店 本館は、日本最大級のイヤホン・ヘッドホン専門店として、2万5000アイテム以上のポータブルオーディオを販売する。さらにはオーダーメイドできるイヤーピースなど各種アクセサリーも多数取り揃えている。初心者からマニアまで、欲しいアイテムがきっと見つかるイヤホンの“聖地”と言ってもいいだろう。

e☆イヤホンの秋葉原店 本館

訪れたのは東京・秋葉原店 本館。平日午後だったが、中高生からシニア世代まで多くのお客がひっきりなしに出入りしていた。店内には所狭しとさまざまな商品が陳列されている。同店では基本的にすべて試聴できるため、人気商品には順番待ちの列ができていることもしばしば。



今回は、e☆イヤホンWEB本店で店長を務める東谷圭人さんに、売れ行き好調なマニアックなイヤホンやヘッドホンを紹介してもらった。

約50万円のドイツメーカー製イヤホン

まず案内されたのは、ハイスペックなイヤホンが並ぶコーナー。その中でも群を抜いて高価な商品が、ドイツのオーディオブランドのVISION EARSの「PHÖNIX(フェニックス)」である。価格は税込みで49万5000円(e☆イヤホンのWeb本店価格、以下価格表記はみな同じ)。

VISION EARSのイヤホン「PHÖNIX」

同ブランドは以前から高価格帯を中心に展開しており、たとえば、筐体が純銀でできた50万〜60万円台のイヤホンを販売していたこともある。そんな同社が満を持して昨年12月に市場に送り込んだのが、このPHÖNIXである。

最大の特徴は、片側のイヤホンに13基のバランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーを搭載している点だろう。音声信号を音に変換するイヤホンのパーツを「ドライバーユニット」といい、BAは医療用の補聴器などに使われる、主に中音〜高音を得意とするドライバーユニットのこと。「複数のBA型を組み合わせることで、さまざまな音の帯域をカバーすることができます」と東谷さんは説明する。

なお、ドライバーユニットには、BA型のほか、ダイナミック型や静電型などがある。ドライバーユニットの搭載数が多ければ優れているというわけではなく、組み合わせ方法によって各ブランドが個性を打ち出しているのである。まさに「俺が作った最高の音を聴け!」と言わんばかりのプレゼンテーションがなされているのだ。

実際の音はどうなのだろうか。東谷さんは「深みがあって、解像度が高いです。通常、ドライバーをたくさん入れるとそれぞれのバランス調整が難しいのですが、13基もあるのにまとまりのある音を実現できているのは見事です」と力を込める。

20万〜30万円台の高額なイヤホンが当たり前のように並んでいる

同商品は有線イヤホンの中でも、接続するケーブルを交換できるタイプだ。材質や構造の異なるケーブルに変えれば、さらに異なる音質の違いも楽しむこともできる。「お客さんの中には10万〜20万円のケーブルを使う方もいますよ」と、東谷さんはさらりと言う。

太陽電池を備えた北欧から来たヘッドホン

続いて東谷さんが紹介するのは、太陽電池素材を備えたヘッドホン。スウェーデンのUrbanista(アーバニスタ)というブランドが販売する「LOS ANGELES」(2万9480円)である。「私もこんなヘッドホンは見たことありませんでした。まだほかにはないと思います」と東谷さんも驚く。

バッテリー駆動時間は80時間で、外部の音を低減するアクティブ・ノイズキャンセリング機能も搭載する。太陽光・人工光でも充電できるため、光に当たっている間はずっと音楽再生できる。だが実際には充電池に蓄えられる電力より再生による消費電力の方が大きいので、そうはいかないようだ。

太陽光充電が可能なUrbanistaのヘッドホン「LOS ANGELES」

Urbanistaは本来、見た目重視の、おしゃれな商品をウリにしているブランドである。従って、この商品もユニーク性を追求したというよりも、SDGsやエシカルファッションに感度が高い消費者に向けたものではないかと推察される。エコ意識の強い北欧のブランドならではといえるだろう。「オーディオ業界的にはそこまで注目されていませんが、ガジェット好きの興味をひいている商品」だと東谷さんは話す。

ちなみに、SDGs関連商品だと、再生木材などを使ったヘッドホンやイヤホンも出てきており、一部ユーザーの高い支持を集めているという。オーディオ機器も時代とともに変化しているのだ。

オーダーメイドして世界で一つだけのイヤホンを作る

音質へのこだわりを追い求めると、最終的にはイヤホンをカスタマイズする道に行き着くユーザーは少なくない。そんな人たちのために、e☆イヤホンにはオーダーメイド商品を専門とするコーナーもある。

カスタマイズと言っても、ゼロからすべてのパーツを組み上げられるわけではない。「クルマでいうと、ボディの色や内装をカスタマイズするのと近い」(東谷さん)。とはいえ、イヤホンの外装デザインを選ぶことに加えて、ユーザー自身の耳の型に合わせたオーダーメイドのイヤホン(イヤモニともいう)を作ることができるのは魅力だろう。

オリジナルのイヤホンの作り方だが、まずはカスタマイズに対応するイヤホンメーカーと、ドライバーユニットなどのスペックを選ぶ。次にシリコンで耳の型をとり、それを元にアクリル素材でドライバーユニットを覆うシェルやカナルの部分を製造する。こうして自分の耳にピッタリとはまる、世界に一つだけのイヤホンが完成するというわけだ。イヤホンを自分の耳の形にするなんて、本職のミュージシャンかマニアだけだと思いがちだが、実際にはごく一般のユーザーも利用している。

シリコンで耳の型をとる

このように自分の耳の型から作ったアクリル素材のシェルなどとドライバーユニットを組み合わせることで、自分だけのイヤホンが完成する

「耳穴が小さすぎて、どのイヤホンも合わないという女性も多いです。あとは、左右の耳穴の大きさが違う人も結構います。そうした方にとって、がっちりと耳にハマるイヤホンは魅力的です。当然、遮音性や密着度も高いです」(東谷さん)

オーダーメイドできるイヤホンの中で、東谷さんがお勧めするのは、米Empire EARS(エンパイア・イヤーズ)の「BRAVADO MKII」(13万3100円)。BA型とダイナミック型、静電型というドライバーユニットがトリプルハイブリッドで搭載されていて、特に低音域に強みがある点が特徴。「2、3年前にはなかったトリプルハイブリッドのイヤホンですが、最近はじわじわと増えてきています」と東谷さんは解説する。

発売予約開始と同時に在庫がなくなった最高級ウォークマン

最後に、イヤホンやヘッドホン以外のマニアックな商品も紹介してくれた。それが、ソニーが今年3月末に発売した最高級ウォークマン「NW-WM1」シリーズの最新機種である。

上位モデル「NW-WM1ZM2」は39万6000円、下位モデル「NW-WM1AM2」でも15万9500円もするという代物だ。それなのに爆売れしていて、e☆イヤホンでは7月まで入荷待ちだという。「発売予約開始と同時に予定在庫がなくなりましたから」と東谷さん。何がユーザーを惹きつけるのか。

銅に金メッキを施したソニーの最高級ウォークマン「NW-WM1ZM2」。手に持つとずっしりとした重みを感じる

NW-WM1ZM2は無酸素銅を削り出したボディに金メッキを施している。重量も約490グラムとずっしり。たとえば、最新版の「iPhone 13」が173グラムなので、いかに重厚な作りになっているかおわかりいただけるだろう。デバイスの軽量化が進む中で、逆行しているようにも思えてしまうが、それでも使いたいと思うユーザーが望んでいるのは、高品質なサウンドだ。

銅の純度を約99.99%に高めたことで抵抗値を低減。それが伸びのある高音や、クリアで力強い低音を再現可能にしている。さらに、内部の基板と基板をつなぐ配線のグレードを上げて、KIMBER KABLE(キンバーケーブル)という高級ブランドのケーブルを仕込んでいる。

幅広いユーザーを獲得するための努力も惜しまない。従来は内部のOSにソニーのオリジナルOSを使用していたが、最新機種はAndroidになった。これによって、YouTubeやSpotifyといったアプリ経由で音楽を聴くことができる。当然、ただ聴けるだけでなく、その音質も高められる。日本のオーディオメーカーにかつてのような勢いがなくなっている中で、ソニーが開発した意欲的な商品に対し、e☆イヤホンの広報室マネージャーの三友卓哉さんも興奮気味に語る。

「たとえば、YouTubeには粗悪な音源も多々ありますが、それすらも心地よく聴けるレベルにすることができます。ソニーの歴代のエンジニアの叡智が詰まった、今時のサブスク全盛期にバッチリ合わせてきたウォークマンです」

WEB本店で店長を務める東谷圭人さん(左)と、広報室マネージャーの三友卓哉さん

オーディオマニアは底なし沼にハマるというが、スピーカーやアンプに限らず、イヤホンでも同じような現象が起きていることがよくわかった。冒頭に述べた通り、e☆イヤホンでは自由に試聴できるため、「朝から晩まで一日中、店にいる人もいます」と東谷さんは微笑む。自分にとって最高の音を求めて、今日も秋葉原にはこだわりのマニアたちが吸い寄せられてくるのだ。
(撮影/伏見学)

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