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コロナが消える本、迷ったときの本…こんな本あるかしら? 実在の「あるかしら書店」に子どもたちが聞いてみた

集英社オンライン / 2022年6月26日 16時1分

絵本作家・ヨシタケシンスケさんの著書『あるかしら書店』をご存じだろうか。書店を訪れる人々の、ときに無理難題ともいえる質問に、「ありますよ!」「ございます」と、ぴったりの本を紹介してくれる「あるかしら書店」は、小学生にも大人気だ。こんな書店が実際にあったらいいのに…と思っていたら、東京・茗荷谷に、まるで「あるかしら書店」のような本屋さんがあるという。

まるでリアル「あるかしら書店」…?

「第3回 小学生がえらぶ!こどもの本総選挙」(2022年2月発表)で第3位にランクインした、『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ著・ポプラ社)。

『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ著・ポプラ社)

書店を訪れるお客さんの、ときに無理難題ともいえる「こんな本、あるかしら?」という問いかけに、「ありますよ!」「ございます」と、店主がぴったりの本を紹介してくれる物語だ。



小学生からは、「ユーモアたっぷりの本がたくさんでてきて、本のなかに入りこみそうになる」(5年生)、「あるかしら書店ではたらいているおじいさんがニコニコしていて、ほっこりする!」(5年生)、というコメントが寄せられている。

読みながら、「こんな素敵な書店が実際にあったらな…」と思った保護者も少なくないだろう。

そんな人に朗報だ。

「店主ご夫妻が愉快で素敵」「子どもにとって読みやすい本をセレクトしてくれる」「選書の内容がとてもよく、良識的」と口コミで話題の書店が、東京・茗荷谷にあるという。

まるで「あるかしら書店」のような、その書店とは、「こどもの本屋 てんしん書房」。

筑波大学・附属小学校のある教育の森公園や、日本最初の植物園としても知られる小石川植物園にほど近い環境にある「てんしん書房」は、子どもたちが素晴らしい読書体験をするための良書との出会いの場で、絵本や中高学年向けの児童書をはじめ、大人が読んでも楽しめる本も揃う。

てんしん書房は、小学生の子どもたちだけでの来店も多い。

いつも店頭にいる店主の中藤智幹さんは、子どもたちから、「おじさんいつもここに座ってるけど無職?」と言われることもあるという。

今回はそんな「てんしん書房」の店主に、小学生の子どもたちから実際に寄せられた「こんな本あるかしら?」という質問を投げかけてみた。

Q.もうマスクはしたくない。「コロナが消える本」ってあるかしら?(小2・男子)

『かぜがふいたら』(ルース・パーク/作、デボラ・ナイランド/絵、まえざわあきえ/訳・朔北社)

「マスクうっとうしいですよね。コロナいやですよね。残念だけれど、本は魔法じゃないから読んでもコロナ消えません。本は魔法じゃないからもうしばらく室内ではマスク我慢しなきゃいかん。

でもこの本、読んでみてください。

主人公は、おしっこちびるくらいこわい顔をするのが得意な男の子ジョシュ。とびっきりこわいやつを練習中にもとにもどらなくなっちゃって、町の人たちを驚かせないように顔を隠して外出しなきゃいけなくなります。

こんなふうにマスクに助けられる子もいるんですね。

物語の中でジョシュは風に魔法をかけられて表情がもどらなくなり、最後はその怪物のような顔で大活躍することになります。

もしかしたらあなたが町ですれちがう人の何人かは、本当はマスクの下でとんでもない顔をしながら歩いているかもね。

ためしにマスクの下で、ジョシュみたいに目一杯こわい顔をして外に出てみてください。ぼくもたまにやるけれど、コロナを忘れて魔法がかかったみたいに愉快な気分になれますよ」(中藤さん)

Q.「ママが何でも“いいよ”って言ってくれる本」ってある? ママからはゲームやYouTubeの時間を制限されているけど、本当はいっぱい見たいから。(小3・男子)

『よい子への道』(おかべ りか/著・福音館書店)

「ゲームは一日1時間よ、寝る前にちゃんと歯みがきして! はやくお風呂はいりなさい、YouTube見るまえに宿題やったの?……そんなことばかり言ってくるお母さん、ありがたいけどちょっとうるさいですよね。

そもそもなんでお母さんがそんなに口うるさく言うかというと、あなたが将来大人になって親からはなれたとき、この世界で生きていくのに苦労をしてほしくないからです。親心ってやつですね。

では逆に考えて、あなたが今とってもよい子なら、お母さんも“この子はきっと立派な大人になってくれるわ、安心ね”と大よろこびで好きなようにさせてくれるでしょう。

この『よい子への道』を読めば、立派な大人になれるかどうかはわかりませんが、よい子になるためにぜったいにしてはいけないことをたくさん知ることができます。たとえば夏の夜にマントを着て外を走ってしまうとか、学校の花壇を温泉にしてしまうとか……。

自分の毎日の行いをこの本できびしくチェックして、見事ひとつも当てはまらなかったら、『もう心配いらないよ』とお母さんにやさしく伝えてあげましょう」(中藤さん)

Q.「どっちを選べばいいか教えてくれる本」ってありますか? 人生に迷っているから、あれば読みたいです。(小6・女子)

『ぼくのまつり縫い』(神戸遥真/作、井田千秋/絵・偕成社)

「小学生だった自分を思いかえすとノーテンキ男子だったし、それは今もたいして変わっていないので、小6にして今後の人生に迷うほど真剣に自分と向き合っているあなたはとてもえらい。えらすぎて疲れないか心配になる。

たぶん学校や塾で勉強もがんばっているんでしょう。

もういろいろ面倒だから、“全部本に正しい選択の答えがのってたら楽チンなのに”と考えるのもしょうがないですね。

残念ながら、解答がのっている勉強の問題集とは違って、じつは本を読むとあなたの人生の“正解がない選択肢”がまた増えるだけなんです。

でも同時に、本は自分がなにが好きか、どんなことに心踊るかを気づかせてくれます。

物語のどれでも、お気に入りのキャラクターやシーンがあれば、その人物がどういう感情で行動(選択)しているか、彼(彼女)になりきってその感情を体感してみましょう。あなたの「好き」はきっとそこにあります。それを基準にあなたの人生を選んでみてください。

『ぼくのまつり縫い』の主人公・針宮優人くんは、実はお裁縫やかわいいものが好きな中学生の男の子。あるとき、サッカー部の練習中にグラウンドで転んでケガをして部活を休んでいた針宮くんは、クラスメイトに半ば無理やり被服部の助っ人にされてしまいます。

本当は手芸が好きなのに、周囲の目が気になってそのことを隠していた主人公が、自分の手で「好き」をつかみとり一歩踏み出します。

興味があったら読んでみてね。そして本をいっぱい読んで好みの選択肢を増やし、自分で好きなものを選んでいく楽しさを知ってほしいです。

本屋やスーパーで本とかお菓子がたくさん並んだ売り場のまえに立ったらちょっとワクワクするでしょ? 正しい選択なんてないし、遠慮なくどれでも好きなのを手にとったらいいですよ」(中藤さん)

Q.「木の生る本」ってあるかしら? 私は本が好きだから、本(の材料)になる木がたくさん生ったらいいな、と思って。(小3・女子)

『としょかんねずみ』(ダニエル・カーク/作、わたなべてつた/訳・瑞雲舎)

「そのとおり、木が紙になり、紙が本になります。

でもじつは紙だけでは本にはなりません。そのほかに紙をとじるハリガネや接着剤、糸、糸につけるロウ、表紙の布、印刷するインク、しおりのレーヨン、汚れを防ぐ合成樹脂などなど、いろいろな材料が組み合わさって一冊の本になっているんです。

そして本を作るのに一番大事な材料が、その内容ですね。

書く人がいなければ本はできません。それに読んでくれる人が一人もいなければ、その本はあってもなくても同じになってしまいます。だから大きく考えると、本の作者も読者のあなたも「本がそこにあるために必要な材料」ということになります。

この『としょかんねずみ』の主人公・サムは図書館に住んでいるねずみ。サムは本を読むのが大好きで、やがて自分でもお話を書くようになります。そんなサムの書いた本は、図書館へやって来る子どもたちに大人気になり、またその子どもたちもお話を書きはじめます。

この物語のように本を書く人が多いと本が増えて、読む人も多いだけ本は増えます。

だから本をたくさん読んで、今度は自分も本を書く側になってください。あなたが書いた本を読んで、自分もやってみたいと思う人がでてくると、どんどんどんどん本が増えていきます。

「木の生る本」ではなく、ねずみ算式に「本の生る本」の紹介でした」(中藤さん)

答えは本ではなく、自分のなかに

てんしん書房の店主・中藤さんが今回の選書で意識したのは、「本のなかに答えを求めるのではなく、自分のなかに答えがあることに気づいてもらう」ことだという。

「こんな本、あるかな?」と思って、本を選ぶときには、「困りごとや悩みを解決してくれる本が読みたい」という期待を持ってしまいがちだ。自分の子どもに本を選ぶときも、「この子に良い影響を与えられる本を」という視点になることが多い。

しかし、よくよく考えてみれば、本からさまざまなヒントや知見、新たな価値観を得ることはできても、本そのものが「あなたにはこれが正解」という答えや道筋を示してくれるわけではない。

子どもでも大人でも、探し求める答えは、結局のところ「自分のなかにしかない」ということだろう。

そのことを念頭に置きつつ、ときには書店に足を運んで「こんな本あるかしら?」と訊ねてみてはいかがだろうか。

きっと、素敵な書店員との出会いや、インターネットやレビュー・口コミだけでは見つけられない、新たな本との出会いがあるはずだ。

取材協力
こどもの本屋 てんしん書房
http://tenshin-shobo.com/

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