今年4月、自民党の有志議員による「ラーメン文化振興議員連盟」(ラーメン議連)の設立総会が開かれた。ご当地ラーメンの発信などを通じて地方創生やインバウンドの底上げを目指す。その会長には石破茂氏が選ばれた。
「人生で一番辛かった時期、深夜に妻と食べた一杯」 石破茂ラーメン議連会長が語る思い出のラーメンBEST3
集英社オンライン / 2022年6月11日 8時1分
「このウクライナ情勢の大変な時にラーメンの話なんてしてる場合ですか、まったくもう…」いえいえ、石破さん! こんな殺伐とした時代だからこそ、昼食くらい美味しいラーメンでも食べながら、前向きなお話聞かせてくださいよ。それでは相席させていただきます!
カレーの石破茂がなぜラーメンに!?
石破氏といえばカレー好きで知られるが、日本食の代表としてラーメンにも以前から注目していたという。
「日本食といえばラーメンとカレー。カレー派が(私のような)文化系なのに対して、ラーメン派は体育会系な雰囲気で、肌が合わないんじゃないかと思っていたこともありました。ですが、そんな考え方が変わるきっかけになったのは、2000年、農林水産副大臣だった頃にセネガルの首都・ダカールで日本料理店に行った時のことです。
どんなメニューがあるのかなと興味津々で入ると、たった2種類、ラーメンとカレーしかなかったんです。海外から見た日本食といえばラーメンとカレーで、ラーメンも見過ごすことはできないと、妙に納得してしまいました」(石破氏)
食べた杯数を争ったり、食べ歩きで全国制覇する人がたくさんいたりと、ラーメンの体育会系な雰囲気に圧倒されながらも、ラーメン業界の成長には注目していたようだ。そんな石破氏が会長を務める「ラーメン議連」では3つのことを目指している。
① ご当地ラーメンを通じて各地域をさらににぎやかにしたい
② 原材料の高騰により値上げが余儀なくされているが、国民にもラーメン店にも負担が重くなりすぎないように支援したい
③ コロナ禍で客足が減り、経営が厳しい店を支援したい
「ラーメン屋のない街は全国にも数えるほどしかありません。ご当地ラーメンは大都市だけでなく各地にある。地元の食材を使い、それぞれの独自性を出している素晴らしい文化だと思います」(石破氏)
今回はそんな会長に、人生を支えた思い出のラーメンを3軒選んでもらった。
もう二度と食べられないあのラーメン
■学生時代に何百回も通った町中華「珉珉」
慶応義塾高等学校、慶応義塾大学出身の石破氏。慶応といえば三田の「ラーメン二郎」を思い浮かべるが、二郎は「1回食べただけ」とのこと。高校と大学2年生までの計5年間は横浜の日吉に通っていて、日吉の町中華「珉珉」が思い出の店だという。
「昭和47年から51年ぐらいでしょうか。本当によく通いました。何百回食べたかわかりません。メニューはタンメンと餃子の2つだけで、その2つのセット『タンメン餃子』は250円でした。思い出の味で、議員になってから一度訪れたのですが、閉店してしまっていました」(石破氏)
「美味しいね~」と思わず笑みがこぼれる石破氏
■銀行員時代に深夜に食べた屋台ラーメン
大学卒業後、昭和54年には三井銀行(現・三井住友銀行)に入行した。当時は世田谷区喜多見に住んでいて、仕事を終えて終電に乗って最寄り駅に着くと、駅前に屋台が出ていたらしい。帰宅前にここで一杯のラーメンを食べるのが何よりもの喜びだったという。
「仕事で疲れて帰って屋台でラーメンを啜る。『これぞ昭和のサラリーマン!』と自己満足に浸る瞬間でした。醤油味でチャーシューが絶品で、絶妙に美味しい一杯でした」(石破氏)
■鳥取で政治活動中に奥さんと食べた「どさん娘らーめん」
昭和59年、27歳の時に出馬するため鳥取に戻った石破氏。政治活動で街を歩くもなかなか相手にされず、辛い日々が続いた。田中角栄氏の「握った手の数しか票は出ない」という言葉を胸に、暑い日も雪の日も毎日朝から晩まで街を歩き続けた。
「人生で一番辛かった時期ですね。1日600軒の家を回った日もありました。へとへとになって深夜に妻と二人で食べた『どさん娘らーめん』の塩バターラーメン。この世のものとは思えない美味しさでした。マスターに『あんた大変だねぇ』と声をかけていただいたのを覚えています。選挙に初当選して翌年に行ったら、もう閉店していてとても残念でした」(石破氏)
石破氏にとって、最も辛い時に支えてくれた一杯のラーメン。
好きなラーメン屋がなくなるのは人生の一部がなくなるようなもの
カップラーメンへの愛を嬉しそうに語る石破氏
「ラーメンを食べると今でもその頃の光景を思い出すんですよね。日清の『チキンラーメン』やエースコックの『ワンタンメン』を食べれば幼い頃のことを思い出しますし、『出前一丁』は受験勉強中のことを思い出します。『カップヌードル』は大学を思い出しますね。
ラーメン屋にも思い出のある人はたくさんいると思いますが、思い出の店がコロナや原料高騰の影響でなくなってしまうのは悲しい。政治の力で何でもできるわけではありませんが、できることで助けたいと思っています」(石破氏)
石破氏の思い出の店は3つとも閉店している。「人生の一部がなくなってしまう気持ちはよくわかる」と石破氏。まずは全国のご当地ラーメンの発信力を高めていくべく、各地を支援していく。
最近、石破氏が注目しているご当地ラーメンは兵庫県西脇エリアに広がる「播州ラーメン」。
このエリアには昔から紡績工場が多く、女性労働者が多かった。彼女たちが喜ぶ甘いラーメンをということでできたのが播州ラーメンだ。野菜の甘さが特徴的で、歴史的経緯を感じるラーメンである。
「商売の鉄則である『今だけ・ここだけ・あなただけ』を意識しながら、もっとラーメンを食べる人を増やしていきたいと思っています。ビジネスっぽいご当地ラーメンも増えていますが、まずは自然発生的にできた歴史的経緯のあるご当地ラーメンに目を向けていきたいです」(石破氏)
取材・文/井手隊長 撮影/井上たろう
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