ダメ虎を突然、猛虎に変貌させた立役者は、湯浅京己、長坂拳弥、島田海吏の3選手。いずれもドラフト下位指名の若手選手で、推定年俸も順に500万円、700万円、1200万円と格安だ。これまで一軍出場もわずかだったこの3人が大活躍し、交流戦での阪神快進撃を演出している。
3人はいったい、どんな選手なのか? まずは安定したピッチングでチームの勝利に貢献する中継ぎ投手・湯浅(入団4年目、22歳)から紹介しよう。
阪神、6月攻勢の立役者はポスト「藤川・矢野・赤星」となる3人
集英社オンライン / 2022年6月10日 18時1分
阪神タイガースに「異変」が起きている。開幕から9連敗を喫するなど絶不調だったのがウソのように、6月に入ると5連勝を飾るなど、交流戦優勝も狙えるポジションにつけている。その立役者は、全国的にはほぼ無名の3選手だ。
3人合わせても年俸2400万円
湯浅は聖光学院卒業の18年に独立リーグ(BC富山)に進み、翌19年のドラフト(6位指名)で阪神入りした変わりダネ投手だ。150キロ台のストレートと140キロ台の高速フォークで活躍が期待されたものの、腰椎骨折や足の肉離れなどのケガに泣き、1軍での登板はわずか3試合に終わっていた。
ところが、故障が癒えた今シーズンはすでに23試合に登板し、防御率0.82、16ホールドをあげるまでに。在阪スポーツ紙の虎番記者が言う。
「コントロールがよく、ストレート、高速フォークのどちらでもストライクが取れるのが強み。ケガが治り、プロ4年目にしてようやく本来の力を発揮したという印象です。
近年、阪神の抑えは外人頼みが続いてきましたが、待望の守護神候補として現れた湯浅に、球団が藤川球児の後継者になってほしいと期待をかけているのは言うまでもありません。今の背番号65が球児のつけてきた22に変わる日は近いかもしれません」
強肩・好リードの「ポスト矢野」
ふたり目の立役者は捕手の長坂拳弥(入団6年目、28歳)。
ドラフト7位で阪神に入団した長坂は、矢野監督と同じ東北福祉大野球部の出身。強肩、好リードが光るだけでなく、人望があり、高校、大学では主将も務めた。そんな長坂に球団は、矢野監督が現役時代につけていた背番号39を与え、期待をかけてきた。
ただ、阪神には2年連続ゴールデンクラブ賞の梅野、チームキャプテンを任される坂本という2人の強力な捕手がいる。そのため、長坂はその実力を認められながらもチーム内では捕手3番手の地位に甘んじ、1軍出場もままならない時期が長く続いた。前出の虎番記者もこう苦笑する。
「1軍に上がれないから、いつまでも経って目立たない。この数年間で長坂が注目されたのは藤浪らといっしょに会食してコロナに感染したというニュースが流れた時くらい(笑)。背番号もいつしか39から57に変わってしまいました」
転機が訪れたのは今シーズンの5月下旬のことだった。正捕手の梅野がケガで登録抹消となり、2軍の正捕手だった長坂が1軍に召集されると、5月21日の対巨人戦では初のスタメンマスクに起用。先発のウィルカーソンを巧みにリードし、チームを2ー1の勝利へと導いたのだ。
しかも、その後も長坂の活躍は続き、6月5日の日ハム戦までのスタメンマスクをかぶった計8試合で6勝2敗(勝率7割5分)。「長坂がスタメン出場すると負けない」とまでささやかれるように。
「背番号39は阪神が03年、05年にリーグ優勝した時に矢野監督がつけるなど、球団にとっては重要な背番号です。今は2年目の栄田裕貴(立命館大・捕手)がつけていますが、このまま活躍が続けば、長坂がとり返すことになるかもしれません」(前出・虎番記者)
桐生に100メートルで勝った男
続いて3人目の島田海史(入団5年目、26歳)はどうか?
島田は中学時代、野球部所属ながらジュニアオリンピックの100メートル走に出場、一緒に走った日本人初の9秒台ランナー、桐生祥秀選手に勝った男として知られる。
湯浅が第2の藤川球児、長坂が第2の矢野燿大(現監督)とするなら、韋駄天・島田はさしずめ、第2の赤星憲広としてその将来を嘱望されていると言ってもよいだろう。
阪神では、18年にドラフト1位で入団して以来、不動の1番センターとして活躍する近本の起用法がひとつの悩みになってきた。虎番デスクが解説する。
「今季、阪神が開幕から連戦連敗したのは得点力不足が原因。貧打解消のためにはチーム一の打力を誇る1番の近本をクリーンナップに置きたいが、そうすると今度はリードオフマンがいなくなる。そのため近本に変わる1番打者を育成することがチームの課題だったのですが、その穴を見事に埋めつつあるのが島田なんです」
島田は昨年、57試合に出場して打率は.243。今季も4月に矢野監督が島田1番、近本3番の打順を試すも島田は無安打と鳴かず飛ばすに終わっていた。ところが、2度目の1番先発となる6月1日の西武戦で島田は3安打と大爆発。チームを勝利に導いた。
「以降、島田の1番起用が続いています。島田、中野の俊足トリオが出塁し、3番近本から4番佐藤輝、5番大山、そして6番糸原までの破壊力のある打順が組めるようになったんです」(前同)
たしかに島田が1番に定着する以前の5月、阪神の一試合あたりの得点はわずか2.625点(リーグ最下位)にすぎなかった。それが6月に入って1番島田、3番の近本のオーダーが固定されると、いきなり5.5点と倍増し、チームも6連勝を飾っている。
島田は盗塁王5回の実績を持つ阪神のスターだった赤星と同じ背番号53、守備位置も同じセンターだ。このまま1番に定着すれば、赤星2世の声も出てくるはずだ。
昨季パ・リーグを制したオリックスも交流戦優勝で勢いに乗り、見事、25年ぶりのリーグ優勝を遂げた。ドラフト下位3人組の活躍で交流戦優勝となれば、阪神にも奇跡が起きたっておかしくない。
写真/小池義弘
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