最近、大手企業などが「ブロックチェーン」を活用した革新的なサービスやプロダクトをリリースした、というニュースを頻繁に耳にします。しかしブロックチェーンの概念を正確に理解できている人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回、ブロックチェーン技術に特化したスタートアップ、株式会社アーリーワークスのCEO小林聖氏に、ブロックチェーンに関してごく簡単に教えていただきました。
ブロックチェーンは「鉛筆ではなくボールペン」小学生でもわかるブロックチェーン解説
集英社オンライン / 2022年6月16日 16時1分
「ブロックチェーン」とは何か。一般的な説明を聞いてもいまいちピンと来ない方も多いかもしれない。そこでブロックチェーン技術に詳しい企業へ伺い、小学生でもわかるように簡単に解説いただいた。
ブロックチェーンとは? 誰でもわかるように教えてください!
——そもそもブロックチェーンとは何でしょうか。検索しても難しい説明しか出てこないのですが……簡単に教えてください!
小林(以下略)ブロックチェーンは、私たちの暮らしの利便性を向上してくれる技術のひとつです。
例えば、AIは「システムが学習し、あらかじめ決められた計算やアプリケーションの操作を自動でやってくれる」、IoTは「スマホを使って家電などが便利に利用できる」などと連想しませんか? ブロックチェーンも、これらと同じくらい身近に使える技術だと思っていただきたいです。
ちなみに、インターネットでブロックチェーンとは何か調べると、「P2P」や「暗号技術」といった耳慣れない言葉が出てきて、身構えてしまうと思います。だからひとまず、そういった用語は忘れてください。
ブロックチェーンの技術は暗号資産(仮想通貨)などにも使用されており、そちらがいまだ有名です。しかし今後のビジネスにおいては、データを蓄積する「データベース」の一種として個人資産を安全に守り、「本物のデータがどうか」を証明するようなシーンで活用されていくことが一層期待されています。
これまでのデータベースと大きく異なる点として、わかりやすくたとえるなら、従来のデータベースは「シャープペン」のようなもの。一方で、ブロックチェーンは「ボールペン」のように記録がずっと残っていくものです。
——「ブロックチェーン=ボールペン」。それはどういうことでしょうか?
普段使用されている方も多い「Excel」を例にあげて説明しますね。例えばExcelで表を作成して「りんご、バナナ、みかん」と入力したとき、正しくはバナナではなくて「パイナップル」だったとします。修正する際は「バナナ」を消して「パイナップル」と入力しますよね。
いわゆる「上書き保存」。シャープペンで書いたものを消しゴムで消して、上から書き直すようなものです。仮に「バナナ」という前の記載内容を取り戻したくても、場合によっては元には戻りません。
一方のブロックチェーンを用いたデータベースでは、すべての修正履歴を残すことができます。ボールペンでの記載を修正するときには、上から二重線などを引いて訂正しますよね。つまり修正した履歴に可視性が存在し、それを否定する形で修正を行う。また、ボールペンは当然消しゴムで消せません。
このように、以前はどのようなことが書かれていたのか、今は何か書かれているのかが一目瞭然でわかるのが、ブロックチェーンを活用した新しいデータベースなんです。
履歴書や健康保険証、不動産登記…ブロックチェーンの活用範囲は広い
——ブロックチェーンは今後、どのようなシーンで役に立つと考えていますか?
ブロックチェーンは今後、かなり幅広く活用されるのでは、と期待されています。
まずは先ほどもご紹介した、データベースへの活用です。ブロックチェーンを活用したデータベースは、修正の履歴が残るため改ざんがしにくい構造です。だから履歴を残しておきたいデータは、ブロックチェーン技術を活用したほうがよいでしょう。
例えば、履歴書や不動産登記、役所で登録される住民基本台帳など、役に立つシーンは無数に思い浮かびます。
まれに学歴・職歴の詐称が問題になることがありますが、仮に学校や会社が、生徒や従業員の卒業年次や入社年次、退職データなどにブロックチェーンを活用したデータベースに記録しておけば、本人によるデータの改ざんが難しくなります。
こうしたデータを改ざんする人はまずいないと思いますが、学校側や会社側が個人に対して悪意を持って改ざんを試みた場合も同じことがいえます。
もし改ざんしたら、「本人が改ざんしました」「学校側の〇〇さんが追記・修正しました」という記録がブロックチェーンに残りますので、今までよりもデータの信頼性がアップします。
病院の診察券も、ブロックチェーンを活用できたら便利に利用できるはずです。現在は病院を受診するたびに、同じような内容の問診票を書きますよね。
でも、もし本人が記述したことがブロックチェーンに記録されれば、データとして信頼できます。また、他者から改ざんされていないことが証明できるのならば、その問診票データを本人のスマホからあらゆる病院に送信し、スムーズに受診できるようになるでしょう。
——これ以外に、ブロックチェーンの利用が期待される分野はありますか?
ブロックチェーン技術を基盤として成立しているのが、ビットコインなどの暗号資産です。ブロックチェーン、そして暗号資産の登場によって、グローバルでお金の送金をしやすくなった点は大きなインパクトだったと思います。この文脈で、シームレスな送金方法として活用される可能性はあるでしょう。
従来の銀行システムから海外送金する場合、1週間から3週間ほどかかってしまいます。ですが、仮想通貨を活用すれば早くて1時間ほど、長くても1〜2日で送金が完了します。今後はさらに便利な送金方法が生まれるかもしれません。
理想は「いつの間にかブロックチェーン技術が使われていること」
——小林さんは今後のブロックチェーン技術にどんなことを期待していますか?
ユーザーが意識しないところでブロックチェーン技術が使われるようになれば、と思っています。
たとえば人気スマホゲーム『Pokemon GO』には、とある先進技術が使われています。ですが、それを意識している人は少ないと思うんですよ。
——それは何の技術でしょうか?
現実を仮想的に拡張する「AR技術(Augmented Reality)」です。これは高度な演算処理が必要な技術で、かなりハイスペックのデータベースサーバーを使って再現しています。知っている人からすると、とてつもない技術なんですが、一般ユーザーがそこを認識して「AR技術がすばらしいから」と言って『Pokemon GO』をプレイしている人は少ないというか、ほぼいないと思うんです。
このAR技術のように、ブロックチェーンも「いつの間にか生活の中に溶け込んでいる」のが理想だと思っています。例えば、スマホアプリなどでお金を振り込む際に、いつのまにかブロックチェーンが使われているとか。自分が所持する不動産や株、その他資産性のあるものがスマホアプリで管理でき、それらを売買したり譲ったりできるとかですね。
——資産の管理など、将来的にブロックチェーン技術で実現できそうなことを教えてください。
ブロックチェーンであればデータの取引履歴がログとして残るので、元々は誰のもので、どういう経路で現在自分の手元にあるのかも明白です。たとえばお金の送受信を行う際、通常のデータベースでは送金主の口座から送金額を引き、送金先の口座に送金額を足して処理します。このとき小数点以下の数字も合ってないとシステムの整合性がつかず、システムの細かなエラー管理が必要です。
一方でブロックチェーンの場合は、その履歴が送金したこと、受け取ったことの証明になるので、そういった処理を省略可能。さらにシステム上のバグが起きにくいというメリットもあるんです。そういうブロックチェーンの機能を活用し、履歴をすべて残せるからこそ、銀行システムに対する不安もひとつ減りますよね。
とはいえ従来のデータベースのほうが得意な領域もあります。ブロックチェーンは処理の特性上、「処理速度に課題がある技術」といわれています。秒間でたくさんのデータを表示させたり、情報を頻繁に上書き保存したりすることには不向きです。たとえば、情報処理の速度が必要な「WEB広告」とはあまり相性が良いとはいえないですね。
ボールペンとシャープペンに例えると「履歴書は誰かに書き換えられると困るからボールペンで書く」「授業の板書は間違えたら書き換えられるようにシャープペンで書く」というように、従来のデータベースとブロックチェーンが使い分けられるといいでしょう。
みなさんが気づかないうちにブロックチェーンが生活の中で活用されて、データや資産の安全性を高めてくれたり、行動の確かさを証明してくれたり。そういった未来が早く来たらいいなと思っています。
取材・文:平林亮子 撮影:塩川雄也
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