「ブロックチェーン技術を使って、システム開発やサービス開発をしています」と聞くと、非常にかっこよく感じるものの、いったい何をしているのか想像もつきません。SF映画に登場するハッカーのように、大きなスクリーンに緑色の文字でコードを書いているのでしょうか……。
そんな素朴な疑問とおぼろげな想像を抱えて、ブロックチェーンを活用したシステム・サービス開発を手がける、株式会社アーリーワークスの門を叩くと、執行役員兼エンジニア、事業責任者の難波諒太郎さんが優しく教えてくれました。
教えて! ブロックチェーンを使ったサービスの作り方|専門企業の事業責任者に聞く
集英社オンライン / 2022年6月17日 9時1分
高度な技術である「ブロックチェーン技術」。それはどうやって活用され、商品やサービスとなって世の中で利用されているのだろうか。実際にブロックチェーンに特化したシステム・サービス開発に従事する担当者に語ってもらった。
ブロックチェーンの開発言語は「普通」でもサービス開発は「高難易度」
——難波さんは現在、どのような業務を担当していますか。
私は2018年に工学系の大学院を卒業後、ブロックチェーン技術に関するシステムを開発するエンジニアとしてアーリーワークスに入社しました。その後2021年に執行役員となり、現在はプロジェクトマネージャーとしてサービス開発に関わっています。
——ブロックチェーンを用いたサービスはどうやって作られているのですか?
難波(以下略)ブロックチェーン技術を使ったサービスは、他のITサービスと同じような開発言語を用いて作られています。特別な開発言語を使うわけではありません。
ただ、ブロックチェーンならではの利点を活かしたサービスを構築するためには、ブロックチェーン独自の概念を理解しておく必要があります。
——ブロックチェーン技術が活用された「よくあるサービス」は何でしょうか?
ブロックチェーン技術が活用されているものに「NFT(Non-Fungible Token)」があります。NFTとは本物であることが証明されているデジタル資産です。デジタルアートが一番身近なものかもしれません。NFTはブロックチェーンによって、それが「唯一無二のものであること」を示せることが特徴です。よってブロックチェーンはデジタル資産の所有者を明確にするためなどに利用されています。
仮にNFTを活用した「NFT作品」を作るだけなら、ブロックチェーンやエンジニアリングに関する深い造詣は必要ありません。画像やイラストなどをJPEGやpngなどの形式で作成するだけです。そしてNFT作品が売買できる「マーケットプレイス」にアップロードすれば、売買も可能になります。
しかしもし、こういったNFT作品を取引するマーケットプレイスを制作する場合には、ブロックチェーン技術を使って開発する力に加えて、決済周りなどファイナンスの知識なども必要です。また、NFTはもっとも有名なブロックチェーンの一つであるイーサリアムのチェーンを活用して取引されることが多いので、イーサリアムの「スマートコントラクト」に関する理解も求められます。
つまりブロックチェーン関連のサービスを開発するには、まずはブロックチェーン技術を用いた開発に対する知識やスキルがあること。その次に、サービスの構築に必要な知識やノウハウを持っていること。この2つが必要不可欠になりますね。
デジタルグッズの販売サイトを開発。ブロックチェーンならではの難しさ
——難波さんが手がけたプロジェクトを教えてください。
最近では、2021年12月に映画『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』公開を記念して、『エウレカセブン』初のデジタルグッズを販売するプロジェクトです。ここで販売したのが、NFTのデジタルグッズ。当社は販売用特設サイトの開発を手がけました。
——デジタルグッズの販売サイトだからこその課題は何でしたか?
この開発で苦労したのは、ブロックチェーンとデータベースの切り分けです。顧客情報をブロックチェーンに乗せるわけにいかないので、設計段階で仕組みを整理する必要がありました。また、ブロックチェーンのプロダクトだからといって、そのすべてをブロックチェーンに関するコードで書けばよいわけでありません。それぞれに適したコードを使用する点が難所でしたね。
また今回のサイトでは、通常のNFTに備わっている「二次流通機能」をオフにした点も、他のNFTの開発にはない特徴でした。通常は一度購入したNFTは再び売買できるのですが、今回のサイトではその機能を持たせないようにしました。
ただ開発するだけでは高水準のサービスは生まれない。対面での打ち合わせも実施
——通常のNFTにある機能をオフにすることもできるのですね。開発にはどれくらい時間がかかったのでしょうか。
ちなみにこのサイト開発には、フロントエンドエンジニア2名、バックエンドエンジニア1名の少数精鋭で取り組み、5ヶ月ほどで完成させました。なかなかスピーディーでしたね。
実際にサイトがローンチされたときには、「エウレカセブンのNFTに関わっていたんだ!」と言われることも多くて嬉しかったです。
あなたはどうしてブロックチェーンのスタートアップに?
——難波さんは学生時代からブロックチェーン技術に興味があったのでしょうか?
当初はまったく興味がなかったです。大学院では物質理工学を専攻し、半導体について研究していましたので(笑)。「サファイヤの単結晶基板上に原子を吹きかけて堆積させて、それの物性評価や結晶構造評価などの検証をする」などの実験に取り組んでいました。
ですが大学院在籍中の2017年頃からNFTに興味を持ち始めて、自分なりにNFT開発の知識をつけて実際に開発をしていました。この頃からエンジニアとして生きていく道を考え始めましたね。
——そのままブロックチェーンを扱う企業に就職した、と?
そうです。2018年6月にアーリーワークス共同創設者兼CTOの山本に出会って、衝撃的なことがありまして。
当時は周囲でWEBサービスを開発している人は多かったんですが、ブロックチェーンを用いたプロダクトの開発はかなりニッチでした。僕はもともと、ニッチな分野に取り組むのが大好きで。だから大学院での研究も「ナンバーワンよりオンリーワン」を目指そうとしていたんです。要は、尖った仕事がしたかったんですよね。
そんな思いを抱いていた当時、山本に会う機会があって、彼が書いたブロックチェーンに関するソースコードを見せてもらったんです。そうしたら、一目でわかるほどの技術力や、すさまじい思想設計があることを知りました。
彼のもとで成長すれば僕も一線を張れるエンジニアになれるはず。そう思って僕が猛アピールし、入社が決まりました。ちなみに会った場所は、磯丸水産。居酒屋でブロックチェーンについて熱く語る私たち……不思議な構図だったかも(笑)。
——入社後、思い描いていた業務と実際の業務にギャップを感じることはありましたか?
たくさんありました。そもそも僕はブロックチェーンを使ったプロダクト開発を「チームで取り組む仕事」と考えていなかったんですよね。個人スキルを高めてコーディングしていけばよいと思っていました。
でもプロジェクトには当然ながらさまざまな人が関わり、力を結集させるからこそ高水準のサービスができあがります。視野が狭いし、めちゃくちゃ尖っていましたね……。
——ITサービスを開発する方は、画面を注視しながら一心不乱にタイピングし、エナジードリンクを飲んでいるイメージがあります(笑)。1日の仕事の流れを教えてください。
意外と普通なんですよ。当社はフレックス勤務制で、午前11時から午後3時がコアタイム。11時頃に出社して午後8時頃に帰宅する方が多いですね。ランチはメンバーと一緒に外で食べたり、休憩時間にコンビニでお菓子を買ったり。
最近僕は事業開発を担当しているので、お客様への説明資料の作成や、外部人材・社内人材への仕事の振り分けなども行っています。
——ブロックチェーン技術やサービス作りを突き詰めた先に、どのような将来を描いていますか?
ブロックチェーン技術を活用することで、さまざまな業種でこれまで不可能だったことが実現できるようになります。例えば、NFTを活用してデータベースを構築すれば、これまで実現できなかった「著作権者へのロイヤリティ還元」も可能になるはずです。これはほんの一例。今後はさまざまシーンでブロックチェーンの技術が使われるでしょう。
だからこそブロックチェーンに関するエンジニアリングスキルやサービス構築スキルは、今後ますます需要が高まると思います。会社の未来も、個人としての未来も、開けているなと感じますね。
取材・文:平林亮子 撮影:塩川雄也
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