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インボイス制度導入で「あの漫画家の本名がバレる」は本当か?

集英社オンライン / 2022年6月17日 11時1分

2023年10月1日より導入されるインボイス制度。これについては実質的増税による収入減少、取引機会の喪失、無駄な事務処理の増加など、すでに様々な問題点が指摘されている。それに加えてペンネームや芸名で活動するクリエーター(漫画家・作家・アーティスト・俳優 等)の本名がバレて、最悪の場合、廃業に追い込まれる可能性もあることがわかってきた。フリーライターの犬飼淳氏が国会質疑に基づいてレポートする

インボイスで本名がバレる!

6月に入り、Twitterを始めとするSNSで「インボイスで本名がバレる」という問題に気づく人が急増している。そのきっかけのひとつとなったのが、筆者のこのツイートだ。

筆者は、インボイス導入後に不利益を被ることが国会質疑で明らかになった5つのケースを、図解とともに6月5日にYouTubeで公開。その2つ目のケースとして、「ペンネーム・芸名で活動しているクリエーターの本名がバレる」という問題を取り上げた。



この問題は不利益を被る対象者(多種多様な分野のクリエーター、またそのファン)が多いにもかかわらず、これまで一般的な認知度が低かったため5つの中で最も反響が大きく、ツイートから数日で4000リツイート、350万インプレッションを軽く超えた。

最も注目を集めたケース2は上記YouTube動画の5分28秒から視聴可能(約2分間。動画を再生できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能。動画タイトルは「インボイス導入で損する業種 5選」)

本記事ではこのYouTube動画を踏まえて、具体的に想定される被害、根拠となった国会質疑などを解説していく。

そもそも、インボイスとは?

「インボイスについて全く知らない!」という方のために簡単に解説すると、インボイスの正式名称は「適格請求書」。皆さんが聞き慣れた「領収書」や「請求書」と違って、限られた人や事業者(=課税事業者)だけが発行できる。

インボイスに直接の関係がある人(後述)は、インボイスを発行できるように登録しないと多大な不利益(取引から排除される、取引先から支払いを値引きされる、等)を被る仕組みになっている。

では、「インボイスに直接の関係がある人」とは誰か? ざっくり説明すると、年収1000万円以下のフリーランスや個人事業主が該当し、具体例は以下に列挙する。いわゆる会社員以外はほぼ該当すると言っても過言ではないほど多岐にわたる。

俳優、映画監督、脚本家、カメラマン、ディレクター、構成作家、編集者、アニメーター、芸人、アーティスト、作家、漫画家、翻訳家、校正者、ライター、デザイナー、イラストレーター、スタイリスト、ヘアメイク、Webデザイナー、ITエンジニア、ミュージシャン・音楽家、コンサート・ライブスタッフ、ハンドメイド作家、大家(居住用除く)、プロスポーツ選手、スポーツトレーナー、インストラクター、ダンサー、マッサージ師、ネイリスト、コンサルタント、一人親方、個人タクシー、ウーバーイーツなどの配達パートナー、配送業者(赤帽など)、シルバー人材センターで働く高齢者、伝統工芸などの職人、農家(農協、市場以外と取引がある人)、日雇い労働者、駐車場経営者、スナックなどの飲食店・商店の事業者、ヤクルトレディ、フリマサイトや手作り通販サイトの出品者、内職、クラウドワーカー、今は存在しない新しい仕事に関わる人など
引用:「STOP! インボイス」ウェブサイト

この一覧を見て「自分は無関係」と思う会社員も多いかもしれないが、それは大間違いだ。例えば業務理由で個人タクシーを利用した場合、タクシー運転手がインボイスを発行できない(=課税事業者に登録していない)と、事務処理の手間が無駄に増え、最悪の場合は会社が経費として認めてくれない(=自腹で支払う)ことも想定される。この件の詳細は、冒頭に紹介したYouTube動画のケース5(24分51秒〜)で確認できる。

また、クリエーター(漫画家・作家・アーティスト・俳優 等)の作品・サービスをファンや顧客として利用している人たちにも間接的に影響が出てくる。なぜなら彼らがインボイスによって廃業に追い込まれたら、もう二度とその人たちの作品・サービスを利用することはできないからだ。つまり無関係な国民は1人もいないと言っていいほど、その影響範囲は大きい。

実質的増税による収入減少、取引機会の喪失、無駄な事務処理の増加、廃業の恐れなど、一般国民が多大な不利益を被るインボイスは、百害あって一利なしの制度と言っても過言ではないのだ。

*インボイス制度の詳細を知りたい場合は「STOP!インボイス」ウェブサイト参照

「インボイスで本名バレ」が明らかになった国会質疑

ここまではインボイスの金銭的なデメリットを中心に説明してきたが、インボイスには他にもとんでもないデメリットが隠されている。冒頭にも紹介した通り、ペンネーム・芸名で活動しているクリエーターの本名がバレる可能性があるのだ。

この懸念が事実であると判明した上、政府は全く対策をしていないことが露呈してしまった国会質疑をご紹介する。

*実際の質疑映像は冒頭に紹介したYouTube動画の5分28秒から視聴可能(約2分間)。外部配信サイトで動画を再生できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能(動画タイトルは「インボイス導入で損する業種 5選」)

【自民党・藤末健三】ペンネームで活動する中で、このインボイスを使うことによって自分個人の名前が表に出てしまうのではないか。取引相手との間に伝わるんじゃないかと。(過去に)個人名が流出して、そしてストーカー的な被害に遭ったという話を聞いておりまして。そういう方々が実名の公開、相手側に実名が伝わるんじゃないかと懸念されているんですけど、そういうプライバシー保護の対応はどうなっているかを教えていただきたいと思います。

【政府参考人・重藤哲郎 国税庁次長】インボイス発行事業者の登録情報につきましては、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトにおいて公表するということになっております。個人事業者の公表事項につきまして原則として、氏名、登録番号、登録年月日という法令において定められた必要最低限の事項とすることとしておりまして、そのような形でプライバシーにも配慮しているところでございます。

【自民党・藤末健三】ペンネームや匿名で活動するフリーランスの方々は多いと思います、データはないですけれど。そういう方々がプライバシーをすでに気にされているということでありますので、是非何らかの対策を検討いただきたいと思います。

出典:2022年3月16日 参議院 財政金融委員会

筆者のYouTube動画より。藤末健三 議員の「インボイスで本名がバレる」という懸念が事実であると露呈した国会質疑

質問した藤末健三議員の追及が甘いので、何となく聞いていると国税庁があたかもプライバシーに配慮しているように錯覚するが、実際は全く違う。

というのも、年収1000万円以下のフリーランス・個人事業主が課税事業者に登録すると、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトに掲載されるのだが、「公開する情報は必要最低限にするが、公開情報に氏名は含まれる」と国税庁次長が平然と答弁しているのだ。

にもかかわらず氏名(本名)が公開されることによるストーカー被害などの懸念への回答はゼロ。これが、つい3ヶ月前の政府公式見解であり、それは現在も変わっていない。

屋号公開でも本名バレは防げない

実際、現在(2022年6月14日時点)国税庁が公開するQ&Aには、氏名は必ず公表される前提で記載されている。ちなみに「外国人の通称」や「旧姓」を氏名として公表(もしくは氏名と併記して公表)することは可能だが、いずれにせよ氏名は公開される。

また、「屋号を公開するように申請すれば氏名は公表されないのではないか」という主張をSNS等で見かけるが、これは認識誤りである。

国税庁が公開するQ&Aにおいて、屋号は「本人の申出に基づき追加で公表できる事項」として記載されている。つまり、屋号を公表したとしても氏名の公開が免除されるわけではない。

*詳細は国税庁Q&A「問 20 適格請求書発行事業者の情報は、どのような方法で公表されますか。【令和4年4月改訂】」参照

国税庁Q&A「問 20 適格請求書発行事業者の情報は、どのような方法で公表されますか。【令和4年4月改訂】」。(1)①に「氏名」が公表されると明記。また、追加公表できる事項として(2)①に「屋号」が含まれると記載されている

つまり、「インボイスで本名がバレる」という懸念は紛れもない事実なのである。

(*補足すると、課税事業者ごとに割り当てられる「登録番号」さえ分かれば、事業者公表サイトで検索することにより「本名」を割り出せる。この「登録番号」はインボイス方式の請求書に記載必須のため、複数ある取引先のうち1社だけでも登録番号を流出(もしくは悪意を持って情報を売買)させた時点で、ペンネーム・芸名と本名が紐づけられ、さらにはインターネット等で拡散される恐れがある)

先ほど「インボイスに直接の関係がある人」として列挙した中には、漫画家、作家、アーティスト、俳優などペンネーム・芸名で活動するクリエーターが多数いる。これらのクリエーターは本名がバレることによって、ストーカー被害などで従来の創作活動を維持できなくなり、最悪の場合は廃業に追い込まれる可能性があるのだ。

「インボイス、ヤバい!」と気づいた人に今からできること

ここまで読んで「インボイス、ヤバい!」と気づいた方は、「何とかしてインボイスを止めなくては!」と考えるだろう。しかし、大半の国民が知らぬ間にインボイス制度導入を含む改正消費税法は2016年に成立済みで、来年(2023年)10月にはインボイスは開始される予定だ。その前の最後の国政選挙である参議院選挙を翌月に控える現在においても、大手メディア(テレビ局、全国紙)はインボイスの問題点をほとんど報じていない。

象徴的な出来事として、今年6月9日に「インボイス制度の中止を求める税理士の会」が都内で記者会見を開き、制度の問題点を税理士が自ら訴える貴重な機会があったものの、現地参加した大手メディア(テレビ局、読売・朝日・毎日・日経等の全国紙)は0社という衝撃的な結果だった。

*会見は国会議事堂周辺の施設(衆議院第二議員会館)で開催されており、周辺の記者クラブに常駐する大手メディアは非常に取材しやすい場所であったにもかかわらず不参加。現地参加したメディア関係者は雑誌、専門紙、フリーランス(筆者を含む)等の記者のみ。詳細は筆者の下記ツイートを参照

大手メディアがインボイスの問題で不自然なほど沈黙する理由としては、「自らは会社員であるため当事者意識を持てない」「新聞は軽減税率の適用対象のため消費税に関する問題は指摘しづらい」等の背景があると推測される。

しかし、こうした大手メディアの公正な報道は全く期待できない状況でも、一人一人にできることはまだ残されている。例えば、最もハードルの低い方法として、インボイス反対のオンライン署名に参加することが挙げられる。

*change.orgの署名数は4万5千筆以上(2022年6月14日現在)



さらに、来月の参議院選挙でインボイス反対や消費税廃止を掲げる以下の政党に投票することも有効だ。

・共産党(インボイスの問題点を国会で最も具体的に追及。冒頭に紹介した動画でも5ケースのうち4つは共産党 議員の質疑)

・れいわ新選組(インボイス反対どころか消費税廃止の立場。消費税が無くなれば、消費税の存在を前提にしたインボイスは必然的に中止となる)

・立憲民主党(今年3月にインボイス制度廃止法案を提出)

すでにインボイス制度導入を含む改正消費税法が2016年に成立しているとはいえ、これらの反対勢力が国会で議席数を伸ばし、発言権を増すことはインボイス導入を阻止する上で大きな意味を持つことは間違いない。

また、今回紹介した質疑の質問者(藤末健三 議員)のように自民党にもインボイスに問題意識を持つ議員がわずかにいることは事実だが、このインボイスを強力に推進してきたのは与党・自民党であることを忘れてはならない。

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