「多分、僕はSMAPが解散したときに『死んでしまった』のだと思います」作家業引退の鈴木おさむが直面した“40代の闇”とは?
集英社オンライン / 2024年3月29日 19時0分
鈴木おさむ氏が、3月末で放送作家業を引退する。新刊『仕事の辞め方』(幻冬舎)を上梓し、作中で提唱する「ソフト老害」はXでもトレンド入りし、話題になった。脚本を務めたドラマ『離婚しない男』も大ヒットして終わったが、鈴木は、なぜ今仕事をやめるのか。話を聞くと「40代の生きづらさ」が浮き彫りになった。
自分が加害者側になっていた
––––秋元康さんとの対談本『天職』(2013、朝日新書)で、鈴木さんは「放送作家が天職」「ほかの仕事は向いてない」と語られていました。この10年でどんな心境の変化があったのでしょうか?
(鈴木おさむ、以下同) 秋元さんと対談したとき、僕は39歳かな……。あのとき、秋元さんに「40代はどんなふうに過ごしましたか?」と聞いたら「しんどかった」と言われました。いろんな方からこの手の話を聞いていたので覚悟はしていたんですが、想像以上にしんどかったですね。
––––なぜでしょう? キャリアを重ねると、裁量を持って仕事ができそうですが。
30代のころは「結果を出せば決定権を得られる」と思っていたのですが、実際40代になってわかったのは「自分には裁量がない」ということです。経営陣やさらにその上の層の「ラスボス」がいる。その中で自分は管理職のような仕事が増えて、会社の内情とか利益も考えなきゃいけなくなってくるんですよ。
若い子には「おもしろいことをやろうぜ」と言ったりもするんですけど、結局「上の意見」を優先して、結果、若手の意見を潰してしまうことも多かったように思います。これが「ソフト老害」です。
––––本書で提唱されている「ソフト老害」ですね。ネットでも話題になっています。
僕自身、40代になりたてのころは自意識が若手側だったので、自分は「老害」から苦しめられる被害者だと思っていたんです。でも、若手の受け取り方は全然違っていました。
本にも書きましたが、いくつかの番組で一緒に仕事をしていたディレクター・三谷(三四郎)くんが「自分たちが一生懸命考えてきた企画が、鈴木おさむさんのような立場の人のひと言でなくなることが多かった」とYouTubeで話していたんです。彼はいいヤツなので、公開前にその動画を僕に見せてくれたんですけど……それを見て、自分が加害者側にいたんだと気がつきました。
ソフト老害って、その度合いが高い人ほど、自覚するのが難いんですよね。「こういう人いるよね」と笑っている人に限って、ソフト老害だったりする。僕は三谷くんの動画を見て「今の自分がドラマの登場人物だとしたら、嫌なキャラだ」と痛感しました。
––––ドラマのキャラだと考えれば、客観視できますね。
これは僕だけに限ったことではなく、会社勤めの人も同じ。周りからは「価値観が古い」とか「現実を見ろ」とか言われるし、自分からソフト老害的な振る舞いも出てくる。40代って対外的に見て「1番胡散臭い」ように見えるんだと思います。
本当の決定権は持ってないのに、経歴の長さから微妙な立場になっている。放送作家を辞める動機のひとつには、そういう自分の立場を捨てたかったことがあります。
「SMAP×SMAP」が熱狂を生んだ理由
––––「立場を捨てる」以外に、放送作家業を辞める動機はありますか?
40代は自分の立ち位置や振る舞いだけではなく、仕事に対しても虚脱感がありました。特にSMAPの解散以降、120%の力が出づらくなってしまった。
––––鈴木さんは「SMAP×SMAP」を担当されていましたね。
僕は20代のころからSMAPチームと一緒に仕事をさせてもらってきたので、キャリアのほとんどを彼らと一緒に過ごしてきました。
「SMAP×SMAP」を立ち上げた当時は「男性アイドル冬の時代」だったので、アイドルの番組では視聴率が取れないと言われていて。加えて、彼らが番組を回せるなんて誰も思っていなかった。
でも、1996年4月15日。「SMAP×SMAP」は初回で視聴率20%をとって、大成功を収めます。
そこから蓋が開いたという背景もあって、SMAPの番組を担当するときはいつも“奇跡のよすが”を描くようにしていました。彼ら自身のスター性と奇跡が掛け算になると、視聴者や現場に熱狂が生まれるんです。
––––時代を熱狂させる仕事は、やりがいがありそうです。
たしかにアドレナリンは出ますが……「楽しい」と思う余裕はありませんでした。
というのも、SMAPの存在が大きくなればなるほど、スタッフの数も急拡大していきました。その中で自分の存在意義を示すのはとても難しい。いつ自分が呼ばれなくなってもおかしくない。毎日緊張しっぱなしでした。
その緊張感が、2016年12月26日の「SMAP×SMAP」の最終回で、突如終わってしまった。いや、正確にいうと生放送でメンバーが謝罪した2016年1月18日の放送。あの1時間で、終わってしまったんです。
それ以降も、ありがたいことに魅力的な仕事はやらせてもらったのですが、どうにも身体の芯に力が入りきらない。多分、僕はSMAPが解散したときに「死んでしまった」のだと思います。それ以降は、死んでいるのに気がついてない亡霊のような感じ。どんなに仕事をしても、かつてのような興奮状態になれませんでした。
力士とちゃんこ鍋と、消えた6000万円
––––40代の辛い時期をどのように乗り越えられたのでしょうか?
40代になって悩む時間が増えたときに、これまで付き合っていた関係性の外にいる人たちとたくさん会うようにしました。逆にテレビ業界の人とは、会議で話すけど、食事には行かなくなりました。新しい出会いのひとつが、力士なんですけど。
––––力士!? どういうきっかけで仲よくなったんですか?
きっかけは「芸人鍋会」というものをやったときに、何人か力士もいらしていて、一緒にきていた元力士の人が作ってくれたちゃんこ鍋の味に感動して、思わず「一緒にお店を始めない?」と口説いたことです。彼は怪我で力士を引退してから、ずっと部屋でちゃんこ番をやっていたそうで、その話を聞いているうちに「僕にできることはないかな?」とひらめいたんです。
––––突然、飲食店を始めたのですか?
そうそう。飲食業は新しいことを始められるワクワク感があったんですよ。でも、それ故にめちゃくちゃ大変でした。
最初の初期費用に1000万円かかり、1年ごとに1000万ずつの赤字が重なって5年で6000万円が消えました。理由は簡単で、夏になると誰も食べに来ないから(笑)。6年目でさすがにキツイと思ってちゃんこ屋はたたみ、現在は昔の店を踏襲しながら居酒屋を経営しています。
ちゃんこ屋は事業としては失敗でしたけど、そこから角界の人や店に来てくれたたくさんの方との関わりができた。自分にとって、それが40代の支えになったのだと思います。
––––違う業界、それも世代が異なる人たちと仲良くなるのは大変そうです。
僕の場合はアウェイのところに出向いて、新しい面白い友だちを作って、なんとか仕事のモチベーションを維持していたんだと思います。もちろん心細さはありますが、それ以上に刺激があるので。
そういった場では、基本的に自分は語らないようにして、聞き役に徹しつつ、お酒を飲みながらはしゃぐ。本当にそれだけ。僕、酒の場が好きなんですよ。みんなで「乾杯!」とグラスをぶつけ合うのが大好き。
力士との関係が心地よいのは、距離感があるからなんです。僕がどれだけ番組をヒットさせようが、スベろうが、彼らには何にも関係ない。彼らは彼らで、明日の取組に勝つことが大事。
僕はタニマチでもなんでもないので、彼らにとってはただの友だち。一緒にバカみたいに飲んで笑って「またね」と別れて、お互い相手が知らない場所で頑張るしかない。若い力士たちが、妙に気を遣われる存在になった自分をブチ壊してくれたような気がします。
文・インタビュー/嘉島唯
写真/山田秀隆
〈放送作家・鈴木おさむは、なぜ辞めることを決意できたのか? BAD HOPの冠番組で再び目にした“奇跡のよすが”と、テレビドラマ界に残した爪痕〉へ続く
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