「ゾンビ企業の延命にあらず!」岸田内閣は企業の賃上げよりも社会保険料見直しに取り組むべき…保険料引き下げが生む従業員と企業へのメリットとは
集英社オンライン / 2024年3月27日 8時30分
2024年の春闘では、労働組合の賃上げ要求に満額回答する企業が少なくない。物価上昇が深刻化している昨今、賃上げは日本経済全体の喫緊の課題といえる中、春闘で満額回答が相次いでいる状況はいい傾向だ。とはいえ、社会保険料として少なくない額を給料から引かれる現状を鑑みると、今こそ社会保険料を見直すべきタイミングなのではないだろうか。社会保険料の適切な在り方について税理士の神田知宜氏に話を聞いた。
月収30万円なら約4.5万円引かれる
まず、社会保険料は個人から毎年数十万円近いお金を奪っていると神田氏は指摘する。
「社会保険料は従業員1人あたり約30%を負担する必要があり、労使折半で企業と従業員で15%ずつわけることが一般的です。例えば、月収30万円の人であれば毎月約4.5万円引かれることになります。ただ、2003年以降は賞与からも社会保険料がかなり多めに引かれるようになりました。給料と合わせると毎年かなりの額が社会保険料の名目で手取りから奪われています。
私としては社会保険料を現在の4分の1まで引き下げるべきと考えています。春闘が盛り上がっていますが、満額回答を表明している企業の多くは大企業です。日本企業の約9割は中小企業ですので、日本で働く多くの従業員が賃上げされるわけではありません。
ですから確実に日本のほとんどの従業員の手取り額を増やそうと思ったら、社会保険料を引き下げるのが一番簡単です。先の例でいえば、給料から天引きされる4.5万円が4分の1の1.1万円になれば手取り額が確実に増え、従業員本人も手取り額が増えたという実感も湧いてきますよね。」
岸田内閣は企業に賃上げを促しているが、それよりも社会保険料の引き下げという手っ取り早く効果的な施策を今すぐ講じべき、と語気を強めた。
社会保険料を払えずに倒産する企業
また、社会保険料を支払えずに倒産する“社保倒産”は決して珍しくなく、社会保険料は個人だけでなく企業にとっても大きな負担になっている。そういった状況を鑑みて、神田氏は社会保険料はもちろん、消費税の引き下げも不可欠だという。
「社会保険料や消費税など税金を支払えずに倒産する“公租公課倒産”も少なくありません。昨年からは新型コロナウイルスの影響で売上高が減少した中小企業や零細企業を対象に、金融機関が特例的な条件で資金を貸し出した制度『ゼロゼロ融資』の返済に追われている企業も少なくありません。赤字でも支払いを強制される社会保険料の引き下げに加えて、消費税廃止、ゼロゼロ融資の債務免除、もしくは据置期間の延長も合わせてしていかないと中小企業の資金繰りは改善していかないと思います」
下請けにいる企業こそ助けるべき
しかし、「社会保険料の引き下げ」などを主張したとき、「ゾンビ企業を延命させるのか?」「稼げない企業が悪い」といった批判を浴びやすい。その点について、神田氏は公租公課倒産の危機にさらされている中小零細企業の価値を力説する。
「事業者ピラミッドの下のほうにいる企業を、ゾンビ企業や稼げない企業と揶揄されています。しかし、そういった企業こそ現場で小回りの利く仕事を請け負っており、彼らが倒産するとピラミッドの上層部にいる企業は現場で仕事をしてくれる発注先や仕入先がなくなるので、事業が成り立たたずにドミノ倒しのように潰れる可能性が高くなります。社会保険料の引き下げなどを実施すれば、ピラミッドの下にいる事業者が活性化します。ピラミッド崩壊による社会不安が払拭され、安心して過ごせる社会になるでしょう」
従業員、企業ともにメリット十分
神田氏は社会保険料の引き下げ、消費税廃止、ゼロゼロ融資の債務免除などが実施された際は、企業が息を吹き返すだけではなく、労働者の手取り額を大きくアップさせることができると話す。神田氏は自身のクライアントである、従業員数39人のサービス業を展開する中小企業の財務状況を例に出しながら説明する。
「ゼロゼロ融資の返済に追われながらも利益を出している優秀な企業ですが、それでも5%の賃上げが実施されると赤字になってしまいます。この企業のように黒字経営を続けていても、消費税や社会保険料がネックになり、賃上げしたくてもできない企業は珍しくありません。
しかし、社会保険料の引き下げなどが施行された場合は、無理なく賃上げができます。日本では人手不足が深刻化しており、『体力があれば人材獲得、人材流出阻止のために給料を上げたい』と考えている企業は少なくありません」
しかし、社会保険料の引き下げなどが施行された場合、無理なく賃上げができます。
社会保険料の使われ方
とはいえ、少子高齢化が進行している現状を鑑みると、容易く社会保険料を引き下げてもいいのだろうか。そもそも、神田氏は社会保険料の使われ方に懐疑的な姿勢を示す。
「『消費税は社会保障に100%充てる』と主張して自民党は消費税増税を推進しましたが、2019年1月に行われた施政方針演説の際、当時の安倍晋三首相は『「8%引き上げ時の反省の上に、経済運営に万全を期してまいります。増税分の5分の4を借金返しに充てていた』と話していました。つまりは消費税の増税分のほとんどは社会保障に使っていなかったのです。
消費税同様に社会保険料の使われ方にも不明な点は少なくなく、社会保険料も政府の借金返済に利用されていた可能性が想定されます。実際のところ、『社会保険料を社会保障のためにどれだけ使用しているのか』という詳細を政府が公表したという事実を私は知りません」
仮に政府の借金返済に使われたのであれば、せっかく稼いだ国民のお金が還元・再分配されることなく、市場からなくなったことを意味する。そうなると働くことがバカバカしくなるような使われ方といってもいい。
社会保険料は我慢して払うものなのか?
社会保険料の多角的な問題点が見えてきた。しかし、社会保険料の引き下げを求める声はあまり聞かれない。神田氏はその理由をこう分析する。
「これまで社会保険料の支払いに頭を抱えるクライアントさんを何人も見てきましたが、政府への不満を口にすることはあまりありません。むしろ『社会保険料は我慢して黙って払うもの』と認識している印象です。経営層だけではなく、一般人も同様の考えを持っているように思います」
そして、社会保険料を一度見直すためには私たち国民が疑問を持ち、声を上げることが必要であると訴える。
「昨年、インボイス制度が話題になった結果、消費税という税制に疑問を持ち、消費税廃止・減税を訴える人が格段に増えました。疑問を持ち、声を上げれば世論は変わります。『社会保険料って本当に必要なのか?』という疑問を持ちつつ声を上げ続ければ、社会保険料の理不尽な高さを見直す機運が高まるでしょう」
私たちの手取りを大きく減らしている社会保険料の在り方について考え直す空気感を作っていきたい。
取材・文/望月悠木
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