「由伸さん、福也さんが抜けたから勝てなかったといわれたくない」山本・山﨑福―2トップ投手が抜けてもバファローズに“悲壮感”がない理由「誰かが抜けても、誰かが出てくる」
集英社オンライン / 2024年3月29日 8時0分
〈「こんなオリ姫見たことない」。阪神1300人、オリックス100人という人気格差の裏で息づくオリックスファンの絆【2023スポーツ(男性編) 1位】〉から続く
2024年のプロ野球が開幕した。昨年、パ・リーグで3連覇を果たしたオリックス・バファローズは当然のことながら4連覇を目指す。大黒柱の山本由伸、ベテラン左腕・山﨑福也がチームを去った今シーズン、それでもオリックスが優勝の本命といえる理由とは――。
楽しみな若手が多すぎるオリックス
2023年、オリックス・バファローズは86勝53敗4分、勝率.619を記録し、2位のロッテに15.5ゲーム差をつけてパ・リーグ3連覇を達成した。
今季は球団名が「阪急ブレーブス」だった1975~1978年以来となるリーグ4連覇を目指すシーズンになる。
しかし昨シーズンオフ、3年連続投手四冠、沢村賞、MVPの絶対的エース・山本由伸がメジャーリーグへと移籍。さらには11勝をあげた山﨑福也も国内FAで日本ハムへと流出した。
普通に考えれば、この2投手が抜けた“穴”は大きすぎる。勝ち星だけなら2人合わせて27勝、これは昨季チーム勝利数の31.4パーセントにあたる。投球イニング数で見ても合計で294回1/3。これもチーム総イニング数(1290回)の22.8パーセントに該当する。いくらリーグ3連覇中のチームとはいえ、これほどの戦力流出は本来であれば“緊急事態”といっていい。
しかし、なぜだろう。今季のオリックスには、そんな悲壮感や焦燥感がまったくない。事実、開幕を直前に控え、各メディアが発表する今季の順位予想でも、多くの野球評論家がオリックスを「優勝候補」に挙げている。
理由は、いくつかある。ひとつは自チーム投手陣への圧倒的な信頼だ。たしかに、山本、山﨑両投手の抜けた穴は大きい。しかし、今のオリックスにはその穴を埋められるだけの投手が揃っている。
昨季10勝の宮城大弥や、さらなる飛躍が期待される昨季の新人王・山下舜平大らがその筆頭格だが、彼らはまだ20代前半と若く、山本・山﨑2人の抜けた“穴”をそのまま補完することは難しい。しかし、昨季は事実上、一軍戦力になり得なかった投手の中にもネクストブレイク候補は大勢いる。
高卒2年目の齋藤響介や、10試合登板に終わった2022年ドラフト1位の曽谷龍平、育成選手の佐藤一磨、川瀬堅斗、才木海翔も大化けする可能性を秘めた大器たちだ。また、ドラフトで指名した社会人ルーキー、高島泰都、古田島成龍、権田琉成のTKGトリオもいる。
「誰かが抜けても、誰かが出てくる」
昨季限りでチームを自由契約となり、DeNAに移籍した中川颯が新天地で開幕ローテを掴んだことも、ある意味でオリックスの「投手陣の層の厚さ」を物語る事象といえるかもしれない。もちろん、ロッテから加入したルイス・カスティーヨも大きな戦力になるはずだ。
「誰かが抜けても、誰かが出てくる」
この自信は、チーム内にも浸透している。今春キャンプで昨季首位打者に輝いた頓宮裕真に話を聞く機会があったが、「ローテ投手が2人も抜けたこと」に触れると、こんな言葉が返ってきた。
「ヨッシー(山本由伸)と福也さんが抜けたのは確かに大きいですけど、ウチのピッチャーなら大丈夫。誰かが出てきて、穴を埋めてくれるはずです」
強がりでもなんでもない。今の投手陣に対する絶大な信頼感が、その表情、口調からも読み取れた。その自信の裏付けとして、頓宮は昨シーズンを振り返る。
「去年も(吉田)正尚さんが抜けて、野手陣はみんな『正尚さんが抜けたから勝てなかったといわれたくない』と思ったはずです。僕自身もそうでした。だから今年は、同じように投手陣が『由伸さんと福也さんが抜けたから……』といわれないように気合いを入れてくれているはずです」
そう、オリックスにとって「優勝チームから絶対的な存在が抜ける」経験は今季が初めてではない。昨季、それまで打線を支え続けてきた吉田正尚がメジャーへ移籍。開幕前は攻撃面が不安視されてもいた。それでも、首位打者を獲得した頓宮のような存在があらたに生まれ、チームを3連覇へと導いた。
この経験もまた、今季を戦う上での自身の源となっているはずだ。
もちろん、今季のオリックスに焦燥感がない理由は、ここまで挙げたような「メンタル面」や不確定な「新戦力台頭への期待値」だけではない。抜けた戦力を“補強”という、はっきりと目に見え、計算できる形できちんとサポートしているのだ。
FAで西川龍馬を補強…増えるファンの期待に応えられるか
昨季は森友哉、今季は西川龍馬と、FA市場の目玉選手を2年連続で獲得。吉田、山本のポスティング移籍で得た資金を、しっかりと選手の獲得にも活用している。
もちろん、山本、山﨑両投手の抜けた“穴”はひとりやふたりの選手で埋められるほど小さくはない。投手陣であれば、たとえば複数の投手が1勝、2勝、10イニング、20イニングと昨季より数字を伸ばし、打線は昨季よりも得点を奪うことで「守」の穴を埋める――。
西川の加入で打線は確実に厚みが増し、投手陣には楽しみな若手が控える。だからこそ、普通に考えれば大幅な戦力ダウンとなるはずの今季も、オリックスはパ・リーグの優勝候補に挙げられるのだ。
おそらく、チームのスタイル自体も昨季とは様変わりするだろう。昨季は絶対的エース・山本の存在感が図抜けていたために、どちらかといえば「投のチーム」の印象が強かったが、今季は投打のバランスがいっそう取れたチームに変貌するかもしれない。
もちろん、山下のような期待の若手投手が大覚醒し、ひとりで山本の穴を埋める可能性だって否定できない。
本来は窮地といっていい主力2投手の流出が、逆に“楽しみ”に変わる。それこそが、オリックスが昨季まで3連覇を成し遂げてきた原動力であり、チームとしての“強さ”だといっていい。
いよいよ迎える2024年シーズン開幕。4連覇を目指すオリックス・バファローズは一体どんな戦いを見せてくれるのか――。
取材・文/花田雪
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