内定辞退者のヒミツの特権「転職ファストパス」とは? 人材不足、転職エージェントのコスト増…超・売り手市場の就活事情・最前線
集英社オンライン / 2024年4月9日 17時0分
就活に新しい潮流が生まれていると話題だ。内定を辞退した人に対して、3年以内であれば中途採用試験を最終試験のみで再挑戦できるという「転職ファストパス」があるのだという。イマドキの就活市場にいったいなにが起きているのか。
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「転職ファストパス」で中途採用試験は最終試験のみ?
少子化の影響もあってどの業界も人材不足のため、近年の就活は学生の売り手市場という状況が続いている。
そんななか「転職ファストパス」もしくは「プライオリティパス」と呼ばれる、中途採用試験を最終面接までパスできるという一種の“特権”が話題に。たとえばA社で内定が出たものの、その内定を辞退してB社に就職した場合、3年以内であればA社の中途採用試験を最終面接だけで再挑戦できるといったものだ。
この転職ファストパスについて、就活・転職活動事情に精通している人材コンサルタントの小林毅氏が解説する。
「企業が求職者に特別に渡しているものなので顕在化はしていませんが、転職ファストパスと名はつかなくとも、じつはこのような交渉は昔からあったんです。転職エージェントが間に入り、求職者の意向を企業に伝えて、最終面接の機会を再度設けるのが一般的です。
最近では求職者側がこのような交渉をSNSで情報を発信したり、企業側が独自の制度として発表したりしていたため、以前から水面下で行われていたことが転職ファストパスとして認知されるようになったのでしょう」(小林氏、以下同)
小林氏の推察によると、学生の売り手市場が顕著になった2018〜2019年ごろから、転職ファストパスを出す企業が表面化せずとも増えてきたのではないかとのこと。では、転職ファストパスが出されやすい企業に特徴や傾向はあるのだろうか。
「人材確保に苦戦している中小企業や、離職率が激しい外資系企業、ベンチャー企業といった中途採用の割合が多い企業では、転職ファストパスが出されやすい傾向があるかもしれません。思うように人材が確保できないと危機感を抱いた企業が、優秀な人材とのつながりを保つためにパスを出すという意図が大きいでしょう。
しかし、現在ではネームバリューのある人気企業でも同じような制度を設けている会社はあります。業種や企業の規模関係なく、多くの会社が人手不足に危機感を抱き、どうにか優秀な人材に入社してもらおうと試行錯誤しているのです」
つまり、「三顧の礼」ではないが、企業側が手厚く迎え入れる体制を整えなくてはいけないほど、優れた人材は各業界・各企業が取り合っているということなのだろう。
新人研修のコストカットや即戦力となることが期待できる
厚生労働省が発表した「令和2年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況」によると、就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が37.0%(前年比+1.1ポイント)、新規大学卒就職者が32.3%(前年比+0.8ポイント)となっており、年々増加傾向にある。
新卒入社したものの数年のうちに退職して転職活動をする25歳前後の“第二新卒”枠の転職者が、年々増加えているのだ。転職ファストパスを出すというのは、“第二新卒”枠としての採用を狙った企業側の思惑もあるのだろう。
「転職ファストパスのメリットは“第二新卒”採用と同じで、最初に入社した別の企業で新人研修を済ませているため、自社では社会人としての基礎研修にコストを割く必要がないという点です。
どの企業もこぞって新卒採用を行っているのは、学生の若さに最大限の価値を見出しているから。パスを出しても、新社会人から3年経ってしまうと、他社の色がついてしまっていたり、求職者のフレッシュな魅力が半減してしまっていたりする場合もある」
新卒から3年以上勤めていると、さすがに他社の色に染まりきっている可能性が高くなるが、3年以内であればまだそこまで染まっておらず、なおかつ即戦力として期待できるため、企業側のメリットが大きいということか。
「ただ、近年では企業の口コミサイトもありますし、『パスをもらったのに落とされた』などと書き込まれたり、パスを出していることが知れ渡り『人材不足で困っているのでは』というイメージが付いてしまったりすると、企業側のマイナス要素になってしまいます。そういった点は転職ファストパスのデメリットといえるでしょう」
ビジネス特化型SNSなどで直接アプローチする企業も
小林氏によると、現在、人材業界は『リクルートエージェント』や『doda』といった転職エージェントが牛耳っている側面が大きく、企業が人事採用にかける費用は莫大なコストになっているという。
「ただ、採用コストは抑えたいため、できれば転職エージェントを活用する以外の方法で人材を確保したいと考え、人事採用活動を直接行おうとする企業も増えている。そういった背景があり、優秀な人材とは関係をつなげておこうと考える企業が多くなっているので、転職ファストパスのような制度や交渉は今後さらに浸透していくでしょう。
最近では『LinkedIn(リンクトイン)』という、世界最大級のビジネス特化型SNSを用いて人事担当者と求職者が直接つながるケースも増えています。アメリカでは人事と求職者が直接やり取りを行うのは当たり前に行われている。日本ではまだ一部の外資系企業などでその流れが来ている程度ですが、これからは国内でも転職エージェントを仲介せずに、人と企業の直接のつながりが重視される時代に変化していくのではないでしょうか」
住友商事は2025年4月に入社する新卒学生の採用面接から、学生が面接官を5段階で評価する制度を導入するという。
もともと就職・転職活動は企業と求職者がお互い“選ぶ側”・“選ばれる側”であり、Win-Winの関係となってマッチングするものだが、大企業や人気企業はこれまでは常に“選ぶ側”だという自負が強かったのかもしれない。しかし、そんな人材不足とは無縁だった企業でさえも、“選ばれる側”であることを自覚しなくてはいけない時代が来ているということではないだろうか。
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock
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