「新卒で入った会社を1日で辞めた」男性に直撃取材…“罰金250万円”“スポ根研修”に抱いた入社前からの違和感
集英社オンライン / 2024年4月6日 20時0分
新年度がスタートした4月。近年、毎年必ず話題になるのが、新入社員のスピード退職だ。彼らはなぜ、スピード退職を決意したのだろうか。新卒で入った会社を1日で辞めたという男性が取材に答えてくれた。
新卒で入った会社を1日で辞めた理由
4月1日からスタートした新年度。多くの新社会人が世の中に飛び出し、1日にはX上で「電車激混み」「満員電車」というワードがトレンド入りするなど、新たな生活が始まったことを感じさせていた。
しかしその一方で、毎年話題になるのが、新入社員のスピード退職。ウソかホントかわからないが、入社式に出てすぐ辞めた、1日目の昼休みで辞めた…など、X上では多くのスピード退職の逸話があがる。こういった話を受けて、最近では「退職RTA(リアルタイムアタック)」という言葉まで作られている。ちなみに、RTAとはもともと、コンピュータゲームのクリア時間を競う競技のことだ。
今年は特に、4月1日が月曜日だったため、スタートからいきなり週5で出勤しなければならない会社が多く、そのカレンダーが新入社員をスピード退職に陥らせているとの指摘もある。しかしそもそも、何が原因で就活を必死に頑張って入った会社をすぐに辞めてしまうのか。
今回、実際に2022年4月に、新卒で入った会社を1日で辞めたという男性に話を聞くことができた。
名前は「もんてん。」さん。現在24歳で、関東近郊に在住。会社を1日で辞めた理由は「自分の健康状態」「会社に対する内定後から入社までの継続的な不信感」だったと明かす。1日で辞めることになってしまったが、原因はその1日だけでなく、多くのことが積もり積もっての結果、1日退職だったようだ。そのきっかけは、大学時代にまでさかのぼる。
「高校から指定校推薦で建築学科のある大学に入学し、大学3年生の6月ごろから就職活動を行ないました。当時はコロナ初年度の2020年だったので、社会全体が急なオンライン化に戸惑っていた時期かと記憶しています」(もんてん。さん、以下同)
短期のインターンや会社説明会などに積極的に参加し、約20社の面接を受けたもんてん。さんは、3年生の8月に某建設会社の長期インターンに参加。そこに3か月間通い続けたが、最終社長面接で不採用となった。2020年11月半ばのことだった。
誓約書に書かれた「罰金250万円」の文字
社員とも顔見知りとなり、てっきり採用されるだろうと思っていたら、面接での不合格。唯一接点のあった社会から否定された気分になり、そこからメンタル面がおかしくなっていったという。追い打ちをかけたのは、コロナ禍でのオンライン化のため、気軽に周りに相談できる環境がなかったことだ。
「大学4年は卒業研究があるので、早めに就職先を決めて、就活を終わらせたかった。そんなとき、ネットで知り合った就活アドバイザーに、某ハウスメーカーを紹介してもらい、大学4年、2021年5月に最終面接の末、内定をもらいました」
だがこの会社には、入社前から「自分に合っていない」と違和感を抱いていたという。就活時の面接はすべてオンラインだったためわからなかったが、入社前の対面イベントで、いわゆる“陽キャ”系の会社と判明。社員たちは“元気があれば労働時間が長くても構わないみたい”なテンションだった。
さらに、もんてん。さんは、入社前から会社に何度も呼ばれ、決して近くはない自宅と会社を何度も往復することとなった。それでも「もう就活したくない。ここしかない」と自身に言い聞かせ、内定式や研修を済ませていった。
しかしそこから、さらなる“地獄の日々”が続いていくことになる。
「入社前に一泊二日の研修がありました。私は疑念を持ったまま参加し、内心ではこのままこの会社に染まりたくないと思っていました。そんなとき、研修中に泣き出す同期を見て、『なんかおかしい』と思い始めました。そして研修の最後に、提出してほしいと渡された誓約書に『就業規則を守れない場合は、罰金250万円を代理人とともに請求させていただきます』と書かれており、これまたおかしいなと思いました」
もんてん。さんは2022年の3月にコロナに感染。研究室の打ち上げも卒業式も行けないまま大学生活を終え、メンタルもふらふらのまま、入社初日を迎えることになった。
会社を1日で辞めてから2年、今、思うこと…
「初日から研修でした。内容は、やはりスポ根系というか、『声出せ』『キビキビ動け』と指示され、自分がどうなりたいかと大声で叫ばせる内容。『相談しやすいよ』と会社側に言われましたが、自分と会社側の感覚の乖離が、相談したくないと思わせる雰囲気でした。家に帰り、もう辞めたいという思いが限界まで襲ってきました。初日が金曜で、その後に土日がはさまったのもいけなかったのかもしれません」
2022年の4月1日は金曜日。今年とは、ある意味で真逆だ。1日が月曜日であることがつらい一方で、1日が金曜日であることもまた、いろいろなことを考えすぎてしまうのだろうか。
休日、もんてん。さんが研修を請け負っている会社を調べると、そこには過去に自殺者が出たとの記載があったという。これがトドメの後押しとなり、辞めることを決意した。
「4月3日、日曜日の夜に辞めると会社と家族に連絡をしました。事情を聞きたいと会社に呼ばれて向かったのですが、会社に行く前に駅で30分くらい深呼吸していきましたね。怖かったです。説明を終えて、会社から解放されると安心感がありました。
実質仕事をしたのは1日で、4月4日に全てが終わりました。この後実家に帰って、病院に行ったら社会不安障害と診断され、一年間、薬剤治療・認知療法をやることになりました」
現在、もんてん。さんは治療を終え、非正規で働き、YouTubeにMinecraft(マインクラフト)のゲーム実況動画を投稿している。
入社1日で新卒で入った会社を辞めてしまったことについて、あれから2年経った今、どう思っているのだろうか。
「8:2で、辞めてよかったが勝ちます。よかったという感覚としては、あのままの状態で働き出したら、どういうネガティブな結果になっていたか想像もできない、という思いがあるからです。
ただ、あの時健常なメンタル、精神状態で働き続けていたらどうなったのだろう…という後悔はあります。会社と合わないとは思っていましたが、そこに決めた理由ももちろんあるので、辞めてから、少し思い返すこともありました。しかし、死ぬよりはよかったかなと感じているし、もう一度あそこで働こうとは全く思いませんね」
現在、SNS上では新入社員の悲鳴ともいうべき書き込みが相次いでいる。〈研修がしんどすぎてまだ三日目なのにもう辞めたい〉〈もう辞めたい。仕事暇すぎて時間の無駄でしにそう〉〈集団行動苦手すぎて研修2日目にしてもう辞めたい〉などなど…。
最後にもんてん。さんに、そういった新入社員に対してのアドバイスをうかがった。
「会社に所属し続けることによって、社会人としての知識とか、人との信頼関係とか多くのことが身につくでしょう。1日で辞めるという方、入社してすぐに辞めるという方は、そのチャンスを手放すことになります。私はそれを少し後悔している一人です。
ただ、それを抜きにしてでも、『辞めたい!』『こんな会社嫌だ!』って思ったら、素直に気持ちにしたがって辞めてしまうのも、一つの手だと思います。続けた先にも、辞めた先にも、人生は続いていく。どちらを取るかは、皆さん次第だと思いますが、変化をパワフルに受け入れられれば、決断もしやすいかなと思っています」
新卒社員たちは今、はじめて社会に出てたくさんの大変なことに遭遇していると思うが、まずは自分の健康を第一に考えてほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部
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