「1日で3000万円溶かす」「闇金返済に追われて自殺」 高校生にまで被害が及ぶオンラインカジノと低年齢化するギャンブル依存症。追い込まれた彼らが手を染めるのは…
集英社オンライン / 2024年4月7日 18時0分
〈「ギャンブルに給料を全額使ってしまうんですが、自分は大丈夫でしょうか?」包丁をベッドに突き刺して話し合い、激高して投げ飛ばされたことも…。ギャンブル依存症が増加し、問題が深刻化している理由〉から続く
LAドジャース・大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の違法賭博疑惑が世間を震撼させている。水原氏に約6億8000万円の借金を抱えるほどの破滅に追い込んだギャンブル依存症だが、昨今は患者の低年齢化が進んでいるという。その一因がオンラインカジノだ。一体、ギャンブルに染まる若者たちは、どのように転落してしまうのか。
闇金の返済に追われ自殺
「親族や親戚の口座から、合計3000万円が引き出され、家を売ることになりました」
「お金を渡さないと、息子が暴力を振るうため、怖くて家に帰れません」
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」のもとには、上記のような相談が次々と寄せられる。いずれもギャンブル依存症に陥った10~20代が、金銭面でのトラブルを抱えたことが発端となり、家庭崩壊につながってしまったケースだ。なかには法外な利子をとる闇金業者に追われ、自殺してしまったケースも報告されているという。
こうしたトラブルは近年頻出しており、2022年に寄せられた相談の4割以上は、20代によるものだったという。
「ギャンブル依存症の低年齢化が進んでいるのは、オンラインカジノによる影響が大きい です。オンラインカジノはスマホから24時間プレイできるため、コロナ禍を機に利用者が 急増し、アクセス数が100倍近くなったプラットフォームもありました。
さらに有名サッカー選手が広告塔になっていたり、YouTuberがプレイ実況動画を配信していたりと、簡単に認知できてしまう現状があります。そこから興味本位で始めた若者が、どんどんと沼にハマってしまう。若ければ若いほど、短時間で大金が動く刺激から離れられず、ギャンブル依存に陥る危険性が高くなります」
そう語るのは、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんだ。
実際に、YouTubeでは、オンラインカジノを実況している動画は無数に出てくる。その大半は、動画の冒頭に「オンラインカジノを宣伝・推奨する動画ではない」と警告しているものの、蓋を開けてみれば射幸心をあおるようなコンテンツばかりだ。また、アスリートが宣伝していることで、合法プラットフォームだと思わせる側面もある。
1日で3000万円失ったケースも
こうした入り口から、オンラインカジノにのめり込む若年層が急増し、なかには高校生が 被害を訴えるケースもあるという。
原則として、高校生はオンラインカジノに登録できないものの、その裏には「登録代行業者」が暗躍している。X(旧ツイッター)上でつながった業者に、PayPayで送金を行うと、登録済みのアカウントにアクセスできるというのだ。
さらにオンラインカジノは、常習性や依存性も高い。スマホで24時間プレイできて、クレジットカードはもちろんのこと、電子決済や仮想通貨で入金できるため、際限なくお金を注ぎ込める環境下にある。
「オンラインカジノが悪質なのは、ギャンブル依存になるまでのスピードが速いところです。私たちの団体に駆け込む人の声を聞いていると、登録してから2~3年で数千万単位のお金を溶かし、なかには1日で3000万円飲み込まれた人もいます。
なぜオンラインカジノでは大金を失いがちなのか。それはカジノやカードゲームなど対人 形式のギャンブルであるがゆえに、射幸心が煽られやすいからです。
例えば、他のプレイ ヤーが大きな金額で勝負していたら、自分もつられるように賭け金を上げてしまいがち。他のプレイヤーが大勝ちしていれば、自分も一攫千金を狙おうと躍起になりやすい。特に負けがかさんでいる局面では、賭けた金額を取り返そうと大金を賭けてしまうものです。
しかもゲーム自体にスピード感もある。たかが何回かカードをめくれば勝負がついてしまうので、お金を失うペースも速いわけです。『もう辞めよう』と決意しても、後日ポイントプレゼントキャンペーンといった勧誘メールが執拗に来るので、非常にタチの悪いギャンブルなんです」
ギャンブル依存症は、当事者が否認してしまうところも厄介なポイントだ。ギャンブル依存症は誰にでも起こりうる病気であり、仕事や子育てに熱心な真面目な人間でも、依存に陥る可能性は充分考えられる。普通に生活している自分が、まさか依存症の当事者とは思わぬまま、気づけば短期間でお金を注ぎ込んでしまうケースも珍しくない。
“家庭内オレオレ詐欺”とは?
歯止めが効かなくなった依存症患者は、有り金を失ってもあらゆる手段で軍資金を捻出しようと考える。
両親のクレジットカードや友人からの借金、消費者金融や法外な利子をとる闇金、挙げ句の果てに犯罪行為の片棒を担ぐ闇バイト……。あれよあれよと資金繰りを行い、気づいたときには本文冒頭のような事態に発展してしまうわけだ。
「私は“家庭内オレオレ詐欺”と呼んでいますが、親に電話して『会社の出張費を立て替えないといけない』『ビジネスに失敗した友人からお金が返ってこない』など、あらゆる口実でお金を要求するんです。そこで両親がお金を渡してしまうと、次に要求される額も大きくなり、家庭内トラブルにつながりやすくなります。
社会人の場合は、会社の金を使い込んでしまう事例も多いです。『会社の金を横領して監査が迫っている』『出張費を使い込んで取引先に行けない』『営業車を駐車場に入れたものの一銭もなくて出庫できない』など、かなり切迫した状態でSOSを求めてくる場合もあります。
あと高校生や大学生のように、会社に頼れないとなると、手を出しがちなのが闇バイト。一例として、いわゆる“受け子”と言われる案件で、1回10万円ほどの報酬で、金融庁の職員になりすまして高齢者からキャッシュカードを預かる類です。他にも口座を1万円で売り渡し、詐欺集団に悪用されてしまうケースもよくある話です。
こうした闇バイトは、Xで『個人融資』『お金貸します』などで検索ヒットします。そこからLINEや秘匿性の高いテレグラムに移行してやり取りを行い、闇バイトを行う際に登録した個人情報を記入して漏れるという二次被害も発生しています」
よからぬ行為とわかっていながら、目先の金欲しさに手を染めてしまうのも、ギャンブル依存症という病気の恐ろしさを物語っている。田中さんにSOSを寄せる当事者の多くは、パンク寸前だったり、取り返しがつかなくなってしまったケースが大半だ。
件の水原氏にせよ、オンラインカジノに手を染める若年層にせよ、一度ギャンブルにのめり込めば、身を滅ぼすまで離れられないのが依存の恐ろしいところだ。さらに賭博にハマる入り口は、近年オンラインカジノの台頭によって拡大している。気軽に手を出す前に、まずはその危険性を自覚しておくことが大切だろう。
取材・文/佐藤隼秀
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