刑務所内でのライブは500回以上。受刑者のアイドル「Paix²(ぺぺ)」がプリズンコンサートで披露する唯一無二の音楽
集英社オンライン / 2024年4月13日 10時0分
全国の刑務所や少年院などを訪問し、長年に渡ってプリズンコンサートを行っている2人組の音楽ユニット「Paix²(ぺぺ)」。これまで開催したプリズンコンサートは500回を超え、その活動を称えた表彰は300回以上に及ぶ。昨年には、天皇・皇后が主催する社交会「園遊会」に招待されるなど、多くの人にPaix²の名が浸透してきている。今では“受刑者のアイドル”とも呼ばれるようになった、Paix²にこれまでの活動について話を聞いた。(前後編の前編)
またとないチャンスを掴むためにPaix²を結成
──Paix²(ペペ)を結成した背景について教えてください。
まなみ 子どもの頃から音楽に携わる仕事がしたいと思っていて、今のマネージャーに誘われた際に「こんなチャンスは一生に二度とない」と感じて、勤めていた大学の研究助手を辞めて、音楽アーティストとしての道を進もうと決意しました。親も反対せず、背中を押してくれたこともあって、踏ん切りはつけやすかったですね。
めぐみ 学生時代は吹奏楽部に所属したりと、昔から音楽がとても好きだったので、漠然と音楽の仕事をやりたいという思いはありました。でも、親からは強く反対されていたので、社会人になってからは(鳥取県倉吉市で)看護師として働くようになったんです。
そんなある日、とある音楽祭のポスターを見つけた際に、ふと思ったのが「子供の頃に思い描いていた夢」でした。社会人になり、経済面も落ち着いた頃だったので、これはひとつ自分の夢に賭けてみようと。そう思って、その音楽祭にチャレンジしたところ、入賞こそしなかったものの、今のマネージャーからスカウトを受けたんですね。
これは千載一遇のチャンスだと感じ、何とか親を説得しなくてはと思って。結果的にはうまく折り合いがつき、 念願だった音楽に関わる仕事に就くことができたんです。
──Paix²が歌う楽曲の特徴として、心温まるような「優しさ」や、明日から頑張ろうという『勇気』がもらえるものが多い印象です。楽曲づくりで工夫されていることはありますか?
まなみ 実はあんまり意識していないんですよ(笑)。デビューした2000年くらいの頃はアップテンポな曲が流行っていて、最初は自分たちの音楽と世間で流行っている音楽とのギャップを感じていたんですが、Paix²ならではの世界観でコンサートをすれば、私たちのことを覚えてもらえると思い、今のスタイルを継続してきました。
めぐみ デビュー当時から楽曲の雰囲気や世界観は変わらないので、「刑務所で演奏するために作ったんですか?」と聞かれることも多いんですが、まったくそうではないんです。
プリズンコンサートをするようになって、私たちよりも上の年齢の方に聞いてもらう機会が増えたことが、今振り返ればよかったのかもしれません。カバー曲を歌うときも、往年の懐かしい曲を選ぶことが多く、Paix²の楽曲の延長上にあるような雰囲気で歌っていたことも、Paix²が親しまれる要因として大きかったと思います。
受刑者の胸を打つメッセージ性の強いトーク
──通常のアイドルとは異なる“スポットの当たり方”だからこそ、アーティスト活動を続けていく上で意識していることを教えてください。
めぐみ 私はプリズンコンサートの合間に「メッセージ性の強い言葉」をトークに盛り込むようにしています。もちろん、楽しんでもらうための明るいキャラでの話もするんですが、社会で罪を犯した人が参加するプリズンコンサートで、「単に楽しいだけではダメだな」と思っていました。
そこで、出所者からいただいたお手紙を読んだり、看護師時代の経験を話したりしていくうちに、私自身も「人の幸せ」や「人間観」を勉強するようになったんです。最初はプリズンコンサートのためにいろいろと勉強したわけですが、気がつけば、そうした学びがあったおかげで昔の自分よりも今の自分のほうが生きやすくなったなと感じています。
受刑者に対してメッセージを投げかけているはずが、自分にも深く入ってくるんですよ。そういう意味では、音楽だけに留まらない時間を過ごさせてもらっていることは、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。受刑者の方からも、感想文を通じてフィードバックが返ってくるので、「学び」は終わらないというか。生涯勉強する気持ちで、Paix²の活動は続けていくつもりです。
まなみ “受刑者のアイドル”と私たちの活動をメディアに取り上げていただく機会もあり、とても光栄なのですが、楽曲にもいい曲があるんです。実際、一般のファンの方は、プリズンコンサートではなく楽曲からPaix²のことを知ってくださる方も多いんです。
1つの曲が「罪と向き合う」きっかけに
──2000年のデビュー以来、500回以上もプリズンコンサートを行なってきましたが、その原動力はどこにあるのでしょうか?
まなみ 2000年にPaix²を結成し、音楽活動をスタートしたわけですが、最初は小学校や中学校を中心にライブを行っていました。そんななか、何事も勉強のうちだと思い、初めてプリズンコンサートを行なったのが2000年12月の鳥取刑務所でした。
それから数回プリズンコンサートをやらせていただく機会があったんですが、刑務所の中に受刑者がいるということは、「塀の外には被害者や遺族がいる」ということをしだいに意識するようになって。そうした背景を考えて活動するようになってからは、「自分の罪や被害者に向き合うきっかけになった」という形で、受刑者の方からいただく感想文の内容もガラッと変わってきたんです。
また、社会復帰した元受刑者の方も、私たちが出演する一般のライブに来てくださるようになりました。その姿を見たときに「Paix²のプリズンコンサートは間違っていなかったんだ」とあらためて感じましたね。
二度と犯罪は犯さない。
こうした思いを持って、私たちに会いに来てくれていると思うので、そういう人がひとりでも増えていくと、より社会が明るくなっていくかもしれない。これが私にとって、Paix²を続ける原動力になっています。
めぐみ 一番最初に故郷の鳥取刑務所でコンサートを行ったときは、まだインディーズの頃でした。当時はインターネットやSNSもない時代ですから、ドラマに出てくる刑務所のイメージしかありませんでした(笑)。今のような余裕はまったくなく、ひたすら緊張していて。本当にただ歌うだけのライブだったのを覚えています。
その後、2002年に鳥取県で行なわれた警察音楽隊のイベントにPaix²が出演したんですが、そのライブに1回目のプリズンコンサートを観ていた出所者の方が来てくださって。しかも、花束とお手紙を持って来られたんですよ。イベントの本番前だったんですが、「うまく言葉では伝えられないので、お手紙にしたためてきました。ぜひ今読んでみてください」と渡されて。
手紙にはPaix²の楽曲『元気だせよ』を聴いたことで、自分の励みになり、社会復帰に向けて頑張ってこれたという内容が記されていました。出所者の方との出会いは、実はそれが初めてだったこともあり、今でも感慨深い思い出として残っています。プリズンコンサートを重ねていくうちに、出所者の方とお会いする機会も増えてくると、私たちの活動が微力ながらも社会に役立っているなと思うようになって。
それがプリズンコンサートを今でも継続するモチベーションにつながっています。
取材・文/古田島大介 撮影/村井香
〈刑務所アイドルPaix²(ぺぺ)が、経済的に苦しくても、恋も遊びも華も捨てて活動を続けた理由「出所後にもがきながら頑張っている元受刑者がいることを伝えたい」〉へ続く
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